第3話 ハードモードでリスタート
世界が光となって消えたのを見届け、私の意識は薄れて消えた。
眠るように目の前が暗くなったのだ。
そのまま数秒か数日か、それとも数年か。
短いのか長いのかも分からない期間を半醒半睡のまま過ごした。
まるで夢から覚める道を見失ったかのように。
だが、そうして私が意識を迷子にさせていると、いきなり目の前に光の道が現れた。
それはあまりにも強い光で、私は直感でそれが来世への道であることがわかった。
だから、私はそれに向かって歩き出し、道を抜けると────
そこは緑の深い山であった。
……いや、なんで???
──────
落ち着いた。
いや、落ち着かざるを得なかった。
てっきり転生して最初に見る光景は親の顔だと思っていたのだが……まさか、大自然の山々だとは。
まるで宇宙を見た猫のような反応をしてしまった。
私もまだまだ精神が未熟だな。
坐禅を組む時間を増やしてみるか。
私は鍛錬の仕方を見つめ直すことを誓いながら、本題であるこれからの生き方について考える。
「だーう」
おそらく、私は捨て子だ。
一人で歩くことも出来ない赤子が山の中に一人取り残されていることから、多分これは間違いないだろう。
全く、けしからんことだ。
子供は宝だと言うのに。
私は手足をバタつかせて憤る。
「だうぅ」
まぁ、捨てられたのが私で良かったと考えよう。
これが本物の赤子であったなら、誰かが偶然拾ってくれる奇跡を待つしか無かったからな。
どうにか出来る可能性がある私で本当に良かった。
私は真っ裸のままぐるりと身体を回転させてハイハイの体勢になると、そのままツチノコのように前へと進み始める。
「だーううぅ」
小石で削られる柔肌に顔を顰めつつも、私は前と進む。
血が滲み、口の中に砂利が入っても止まることはしない。
そうじゃないと、この身体はすぐに死んでしまうことを理解していたからだ。
リミットは多目に見積もっても明日まで。
それまでに、人に出会えなければ死ぬ。
それならば、こんな山奥で立ち止まっているわけにはいかないだろう?
生まれてきた以上、安易に死を選ぶことは許されない。
私は目をギラつかせて気合を入れ直すと、少しずつ前へと這っていくのだった。
◆◇
見つけることが出来たのは偶然だった。
もし、儂が竈門を持っていなかったら。
竈門に入れるための木材を切らしていなかったら。
山を登るルートが別であったら。
儂はその生命を拾い上げることが出来なかっただろう。
だから儂はあの時、初めて運命という存在を信じたよ。
有栖、お前という命を運んでくれた運命にな。
──────
よく晴れた日であった。
その日、儂は木を集めるために山に登っていた。
久しぶりに竈門で炊いた飯が食べたくなり、米を炊こうと思ったら木が無かったんでな。
仕方なく登ったのだ。
それはもう嫌々な。
でも、後から考えてみればそれが良かったのだ。
「ふぅ。ちと、このルートは傾斜がキツイのぅ。老体にはしんどくてかなわないわい」
山を登るのが嫌だった儂はその日だけ登るルートを変えたのだ。
いつものルートだと往復で2時間はかかるからのぅ。
傾斜がキツくても30分で帰れるルートを選んだのだ。
「ふぅ、ふぅ……ん?」」
そうして儂が腰を抑えて山を登っていると、道の真ん中に何かが倒れているのが見えた。
それは50cmほどの大きさで、土に塗れているのか茶色かった。
「あれは……犬?それにしては毛がないような……」
あまり見たことがない姿に訝しみながら近付いてみる。
そして、全体像がはっきりと見えた時。
儂は血相を変えて走り出した。
なぜならば──
「あれは、あれは……!」
その倒れている存在が、まだ生後2ヶ月も経っていない赤子であったからだ。
「大丈夫か!?おい、しっかりしろ!!儂が必ず助けてやるからな!」
手に持っていた斧や籠を放り投げ赤子に駆け寄った儂は、息も絶え絶えの様子の赤子を胸に抱いて下山を始める。
相変わらず道の傾斜は険しく老体には厳しかったが、儂はそれを走ってかけ下りた。
この子の辛さに比べれば、あれぐらい屁の河童である。
そうして、赤子を抱いたまま10分もかからず下山した儂はすぐに救急車を呼んで、電話で指示されるがままに応急処置を取る。
「頑張れ、頑張れよ……!」
今にも消えそうな命の灯火に何度も何度も声をかける。
そうしないと、この子があっち側に行ってしまうと思ったのだ。
そうして介抱を続けながら救急車を待つこと15分。
やっとやって来た救急隊に事情を説明した儂は、この子の一時的な保護者として同じ救急車に乗り、病院へと向かうのであった。
◆◇
目が覚める。
一体ここはどこだろう。
私は死んでしまったんだろうか?
白が目立つ視界にあの空間を思い出したが、鼻につく消毒液のような香りとピッピッと刻まれる音に私はここが病院であることを悟った。
「|だーうぶ、だぶぶぶぶぶ《どうにか、生き残れたみたいですね》」
あの状況から何とか生き残れたことに私は安堵のため息をはく。
坂を転がり落ちた時は死を悟ったものだ。
生きてて良かったぁ。
そんな風に私が包帯の巻かれた手足をバタバタさせて生を実感していると、部屋の扉が開く音がした。
「だーぶぶ?」
そう思って私が音のした方に顔を向けると、そこにいたのは……
「おぉ!!起きていたんじゃな!!あぁぁぁ、生きててよかった!!!」
熊のようなお爺ちゃんであった。




