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第2話 TS居合ロリの誕生

ストックが2話しかないのに投稿を始めるカスです。対戦よろしくお願いします。



──チン


 

 金属を指で弾いたような冷たい音が小さく世界に響く。

 それはどこか寂しい音で、どこか美しさを感じる音。

 刀という楽器が奏でる至高の音楽であった。


「ふぅ……どうにか間に合いましたね」


 疲労感を滲ませた声が少し湿気を帯びて口から漏れる。

 汗ばんだ身体からはところどころ湯気が上っており、少し前まで身体を動かしていたことがよくわかった。


「……100年、前世も入れれば185年ですか。それだけの時間をかけてやっと私は居合の極致の扉を見ることが出来ました。これも、100年もの間私につきあってくれたあなたのおかげですね。ありがとうございます」


 柔らかい顔で感謝を告げる私は、長年連れ添ってくれた刀を優しく撫でる。

 その手つきはまるで我が子を慈しむ親のようで、柔らかい笑顔を自然と浮かべていた。



 そうしてひとしきり刀を撫でた後、私は腰から刀を引き抜いて地面に突き立てる。

 刀が傷まないよう、慎重に。


 そうして刀が無事に立っていることを確認した私は、罪を懺悔するように愛刀に頭を下げた。

 

「あなたに最高の景色を見せることが出来ず申し訳ありません。私が未熟であったばっかりに、あなたと最後まで歩むことが出来なかった事が悔しくて仕方がありません」


 私は自分の弱さを呪うように強く奥歯を噛みしめる。


「でも、あなたといたからこそ見えた極致。私はこれを誇りとし、絶対に必殺技への糧とすることを誓います。だから、私がここから去った後も私のことを見ていて下さい」


 そう祈って頭を上げた私は、最後に私が出来る最大のプレゼントを愛刀に送る。


「【転身桜花(てんしんおうか)】、それがあなたの名前です。また私がここに来た時は、私と共に世界を見て回りましょうね。それでは……お元気で」


────。


 私がそう言い終わると、別れを待っていてくれたかのように私の身体が薄くなっていく。

 この空間も光の粒となって空に昇っていき、異世界への転生が始まった。


「────」


 空間が崩壊していく中、私は世界と同じ様に光となって消えていく【転身桜花】を見て何か言葉が口から溢れかけたが、なんとかそれを飲み込んで口をつむぐ。



 だって、別れに言葉なんて無粋でしょ?

 


 そう少し水に濡れた顔で笑みを浮かべた私は、【転身桜花】が天に昇る様を見ながら意識を薄れさせていくのだった。






 

 産声が部屋に響いた。

 

 少し、高い声だった。


 元気な赤子の声だった。


 とても目出度いことだった。


 でも、周りの声は低かった。


 落胆するような声だった。




 男は赤子を視界から外した。


 女は赤子に責めるような目を向けた。


 周りは既に部屋から出ていた。


 

 そして……────





 『赤子は存在を抹消された』






「…………」


 ガリガリガリ、と硬いパンを齧る。

 パンくずがボロボロと冷たいアスファルトの上に落ち、足下を鼠が走り去っていった。


「……あっ」


 鼠に驚いて手から離れたパンが、昨日降った雨で出来た水たまりに落ちる。

 鼠が足下を通ることなんて珍しいことじゃないのに。何やってるんだか。


 泥水を吸ったパンを拾い上げ、私はそれを口に入れる。

 

「オエッ…うぐっ……!っはぁ」


 酷い味。

 口の中に砂利が入って気持ちが悪い。

 それでも、柔らかくなった分だけ少し食べやすかった。


 「……ごちそうさまでした」


 なんとかその濡れたパンを食べきると、私は段ボールを身体に巻いてアスファルトの上に横たわる。

 雨に濡れた段ボールに染みて身体を冷やすが、それでも濡れた硬い地面の上で眠るよりは何倍もましだったのだ。


 「寒い、痛い、冷たい……。私、このまま死んじゃうのかな……」


 劣悪な環境に悪い妄想ばかりが浮かんで、弱気のまま赤く霜焼けした手足を折りたたみ、ダンゴムシのように丸くなる。

 その姿はあまりに惨めで、誰も私を見ようとしなかった。


 

 そうして起き続ける気力もない私が一抹の死を望みながら眠りにつこうとすると、無駄に敏感な耳が微かな音を拾う。



──ぺた ぺた ぺた



 濡れた地面の上を歩くような音。

 それは徐々に大きくなっており、私に近付いてきているのがわかる。


 もしかしたら、私を殺すために誰かが近寄ってきたのかもしれない。

 今すぐ立ち上がって逃げるべきだ。

 私の頭は冷静にそう思考する。

 しかし……


「……」


 ……そう思っていても、私はその身を起こすことが出来無かった。

 逃げる体力も気力も無かったが、それ以上に生きて苦しむよりも死んで楽になりたかったのだ。


 私は来たる死に目を瞑ったまま、ただその時を待つ。

 少し震えている掌を見ないふりしたまま。



──ぺた……



 足音が耳元で止まる。

 寝転んだ頭のすぐ後ろに誰か立っている気配。


 あぁ、やっと楽になれる。


 そう思った私の目からは、一雫の涙が溢れ落ちた。


 それが絶望の日々が終わる安心からくる涙なのか、生への未練からくる涙なのかは私自身にも分からない。

 それでも、私はその涙が最後の最後に出せた私の本音であった。


(あぁ、そうか。私、本当は生きたかったんだな。こんな、暗い人生でも)


 今際の際でやっと認識できた私の願い。

 叶わない夢。

 それでも、私はそのやっと思えた夢に焦れずにはいられなかった。


(学校、行ってみたかったな……)



 瞼越しに闇が深くなる。

 

 耳に届いたのは──






 



 

 







「大丈夫、ですか?」


 死神の鎌の音ではなく、()()()の声であった。

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命が尽きそうな少女、誰かと出会う
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