第1話 TS居合ロリの誕生 前編
カクヨムで本投稿する前に反応が見てみたかったのだ。
チン。と冷たい金属音が鳴る。
続いて聞こえるのは何か大きなモノが倒れる音。
その大きなモノはしばらくすると塵となって消え、その場に残されたのは小さな少女一人だけであった。
「雑魚モンスターだけですか。こんなクズ魔石じゃお小遣いにもならないですよ」
そう文句を言いながらも、少女は地面にしゃがみこんで何か紫色の石みたいなものを拾い集める。
「ひーふーみーよー……ざっと400円というところですか。帰りにジュースでも買って帰りますかねぇ」
紫色の石を腰のポーチに無造作に突っ込んだ彼女は、「あの子の分も買って帰ってあげましょうか」なんて言いながら笑みを浮かべ、ニヤつく口元を水色のマフラーで隠す。
「あの子の喜ぶ姿が目に浮かぶよう……あぁ、楽しみです。そうと決まったら、早く戻りましょう。きっとあの子も私を待っています」
そう言って足早に帰路へとつく彼女の頭には二つの銀色のおだんごが揺れていた。
◆
『必殺技が複数あるのはおかしい』
そう思い始めたのはいつの頃からだろうか。
少なくとも、5歳になる頃にはもうそう思っていた気がする。
はっきりと覚えているのは7歳上の兄の言葉。それはまだ小さかった私の心に突き刺さり、今でもあの時の会話は鮮明に思い出せる。
──────
「お兄ちゃん、必殺技ってなーに?」
「ん?どうした◯◯。戦隊物でも見てたのか?」
私がテレビに映っている赤い服を来たヒーローを指差してそう言うと、兄は手に持った冷たい麦茶を飲みながら私の方に振り返った。
「うん。煙とか火がばぁーっ!ってなっててカッコよかった」
私が目を光らせながら身振り手振りで興奮を伝えると、飲み干したコップを机に置いた兄はニカッと笑って私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「そうか、カッコよかったか!そりゃあ良かったな!俺も昔は戦隊物に憧れてキックの練習とかしたなぁ……。おっと、それで必殺技が何かって話だったな。◯◯、必殺技っていうのはな、敵を絶対に倒す技のことだ」
「レッドが出すビームとか、キックのこと?」
右手の拳を左腕の肘に当てながらそう言うと、兄は微笑ましいものを見るような柔らかい笑みを浮かべて頷く。
「そうだ。レッドが『必殺◇◇!!』って言ってビームとかキックを出したとき、敵はみんな倒れてただろ?」
「うん。でも、口に出す必要ってあるの?口に出したら避けられちゃうかもしれないじゃん」
「◯◯、それはロマンだからだよ」
「ロマン?」
私が首を傾げると、兄は大きく頷いて右手の人差し指を立てる。
「あぁ。何も言わずに必殺技を放つより、技名を叫びながら必殺技を放つ方がカッコいいだろ?」
「うん!僕もカッコいい技を叫びたい!」
「そう!それがロマンだ!人は時より実利よりもカッコよさを取る生き物なのだよ。……ところで〇〇、お前は必殺技をいくつも持っているヒーローのことをどう思う?」
打って変わって真面目な雰囲気を醸し出す兄の言葉を聞いた私はうーんと少し考え、言った。
「うーん……ダサい?」
「だよなぁ!?必殺技っていうのは敵を絶対に倒す技なんだ、1個あればそれ以外は全部不要だ!だってその技さえあれば勝てるんだからな!」
鼻息を荒くして拳を突き上げる兄。その兄の台詞を聞いた私はそういうものなのかと思い納得した。
「いいか◯◯。お前も将来必殺技といえるようなのものを手に入れたときは、その必殺技が破られないようにその必殺技だけを磨きなさい。決して別の技で妥協しようとしてはいけないぞ」
「うん、わかった!」
──────
私が覚えている兄との会話はここまである。
私はこの会話をして以降この約束を律儀に守り、死ぬまでその約束を破ることは無かった。
そして、これからも破ることはないだろう。
さて、そんな風に必殺技に憧れる私が居合という技に魅せられたのは12歳の頃である。
きっかけは修学旅行で記念として買った木刀。
それを持っておふざけで居合の構えを取ったとき、私の中で何か世界が変わる音がしたのだ。
──閃
試しに抜刀してみれば、心地よい風切り音とともに残る何とも言い難い心地よい感触。
その心地よい感触にもう2、3度木刀を振り、私は理解した。
『居合こそ自分が極めるべき必殺技である』と。
それから私はネットや本、動画などを片っ端から調べて居合について学んだ。
持ち方、構え方、鍛え方。
居合に関することなら勉強することも苦では無かった。
両親はそんな私の姿に私が剣に興味を持ったと勘違いして剣道をすすめてきたが、私が興味があるのは居合だけであり、型にはめられた剣道には全く持って食指が進まない。
なので折角の提案だったが丁重にお断りした。
それに対し、兄は私がやりたいことを最初からちゃんと理解していたので純粋に自分が居合を極めることを応援してくれた。
たまに右腕が疼いているあたり、その辺りにも理解が深いらしい。
大学生になって中二病とは恥ずかしくないのだろうか?
まぁそんな兄の黒歴史はさておき、学生時代の私はたそんな痛い兄からアドバイスを貰って居合という技を極めていった。
就職してからもあまり時間はとれなかったが、それでも居合という技に魅了されていた私は暇な時間を見つけては最高の居合の形を探し続けた。
そして、その探求が終わったのは97歳。
枯れ木のようなジジイが雨の中合羽も着ずに居合の練習をしていたことによる風邪。それが悪化したことで、肺炎で死んでしまったのだ。
失意のまま、病院のベッドの上で。
こうして、私の人生は不完全のまま終わり、居合の極致には至れないまま消えていく。
積み重ねてきた血と汗の結晶も、身を焦がすほどの執念も。
ただ灰となって消えていく。
その筈であった。
◆
随分と長い間寝ていた気がする。
重い瞼をこじ開け目に飛び込んできたのは白、白、白。
全くもって身に覚えのない光景であった。
「ここは……」
眠りについた時よりも軽い身体を起こしてみれば、目の前に広がるのは果てしなく白い空間の真ん中にパネルのようなものが浮かんでいる光景。
飛び込んでくる色が白しかないというその状況に私は目の奥が鈍く痛む気がした。
「ふぅ……とりあえず、あのパネルのとこまで歩きますか。何かこの空間について分かることがあればいいのですが」
そうして立ち上がってみれば、いつもよりも立ち上がるのに苦労しないことに気付く。いつもならば立ち上がるのに10秒はかかるのに……。
そう疑問を覚えた私が自分の身体を改めて確認してみると、肌にやたらと張りがある。100歳も間近になって皺くちゃになっていた私の肌がである。
これはおかしいと思い身体中を分かる範囲で調べてみれば、髪は黒く、筋肉もよくついている、腰痛や肩の痛みもない。
とどめとばかりにたどり着いたパネルを見てみれば、ディスプレイには若い頃の私が反射していた。
「はは……。こんなことあるんですか……」
思わず乾いた笑みが顔に浮かぶ。
あまりにも信じがたい光景に、私の古臭い脳が処理落ちしてしまったのだ。
「夢か……それとも幻覚?現実の私が目覚めればこの謎の空間から出られるのでしょうか?」
そう思って頬を引っ張てみるが、一向に目が覚める気配はない。
残る可能性として考えられるのはここが死後の世界であることぐらいである。
……そう考えてみると、そっちの可能性の方が高いかもしれない。最後の私は肺炎にかかっていたし。
だが、そうだとしても私は死後の世界がこんな何も無い空間だということは信じたくなかった。だって、それはあまりにもロマンが無いから。
地獄や天国ならいざ知らず、こんな無味乾燥な景色が続いてるだけの世界はまっぴらごめんなのである。
「何かこの空間について知ることが出来るとしたらこのパネルだけですか……」
見るからに怪しいパネルに私は固唾を飲む。
若い私の姿を映すその姿はまるで悪魔の鏡である。
「……よし」
一つ深呼吸を入れて、私はパネルに手を触れる。
気分はパンドラの箱を開けるときのよう。
何が出てきてもいいように、激しく鼓動を打つ心を抑えた。
──パッ
パネルに手が触れると、そんな軽い音が鳴るようにしてパネルが光を発した。
「……!!」
『ようこそ神界転生システムへ。あなたの転生するための情報を入力して下さい』
飛び退くようにして後ろへ下がってみれば、光に続いて聞こえてくるのはそんな電子音声。警戒するには十分であった。
しかし、それから1分ほど待っても続く言葉は無い。とりあえずこれが罠ではないことを理解した私はパネルへ再び近付き、パネルに表示されていた文字を読み始めた。
「力、頭脳、器用、俊敏、魔力、耐久……何か色々書いてますね……」
パネルに書かれていたのは無数の項目。その横には1から5までの数字が記されており、その数字は選択出来るようだった。
「これは……能力値?さっきの音声で転生システムだと言っていたので、これは来世の私に反映されるのでしょうか」
どうやら数字は1から5の順に高くなっていくらしく、試しに全ての項目の数値を5にしようとしたらパネルからブザー音が鳴った。
『入力できる数値の合計は50までです。数値を入れ直して下さい』
なるほど、どうやらオール5のチートボディにはなれない仕様らしい。
まぁ、そりゃそうだろうって感じだ。転生していく人間が総じてこんなチート能力を持っていたら世界が壊れてしまう。
……となれば、私は器用を伸ばすべきなのだろうか。
来世もあるというならば私は居合をもっと極めたい。
それこそ、どんな相手どんな状況であったとしても敵を屠れるほどに。
そうして居合に必要そうな項目の数値を上げながらスクロールしていくと、一番最後の項目に『ギフト』という文字を見つけた。
「ギフト……?いわゆる転生特典というやつですか?」
兄がアニメを見ていた影響でその言葉自体は知っていた私は、これがアニメでいうところの転生チートであることを察する。
「うーん……これには数値の代わりに文字の記入欄がありますね。欲しいチートをかけばいいんでしょうか?」
欲しいチートを考えてみれば、やっぱり居合のことが頭に浮かぶ。
だが、変に居合の才能や凄い刀をチートとして貰うのは探求者として面白みがない。
そうして数分考えた結果、私はその欄に『転生するまでに居合を極める時間』と記入した。
最初は前世の記憶と記入しようとしたが、こんな謎の空間に飛ばされて来世のことを決定している時点で前世の記憶はデフォルトで付いてくると思ったからやめた。
実際、『前世の記憶』と記入したらシステムに弾かれたし。
そうして記入した私だったのだが、今度はパネルからブザー音とは別に電子音声が聞こえてきた。
『ギフトでは能力の振り分けで残った数値を使います。現在の状況ではあなたに与えられる時間は10年ですがよろしいですか?』
「これは……」
その言葉に私はこの転生システムのバランスの調整の仕方を理解した。
どうやらこのシステムは貰うギフトの強弱によって必要な数値が増減するらしい。
無法なギフトを渡さないためのセーフティシステムであろう。
ここから考えるに、能力に割く数値を減らせれば減らすほどギフトして与えられる時間は増えていくと考えていい。
だが、全ての数値を最低値にすればそれだけ来世の身体能力は下がってしまう。
だから普通の人ならば安定を取るか、強いギフトでの一点特化を狙うのだろう。
そっちの方が安定に強くなれるから。
でも──私は違う。
私は誰かの助けによって得られる高みなどいらない。
絶対的な刀の才能も、何でも斬れる刀も、恵まれた身体もいらない。
必要なの居合を極めるための時間。
他は最低限のみでいい。
要らないものは全て削ぎ落とし、研鑽の果てに産まれる技こそ奥義であり必殺技である。
それは神より与えられたものに頼らず、自身の探求の果てに得られた終着点。
人生そのものである。
私は人生に妥協はしたくない。
「ギフト以外の数値は全部1でいい。残りの数値で得られる時間は何年ですか」
そう私が問うとパネルの数値が全て1で埋め尽くされ、感情が読み取れない電子音声が白の世界に響く。
『全ての項目の数値を変更中……計算できました。あなたに与えられる時間は100年です。よろしいですか?』
「……フッ」
その言葉に、私は思わず笑みを浮かべる。
だって、それだけの時間があれば私はきっと居合の頂にもっと近付ける。
それこそ、必殺技を完成させることができるほどに。
「えぇ、大丈夫です」
心臓を高鳴らせながら私が返事を返すと、転生システムから電子音声での返事が返ってくる。
『了解いたしました。この数値をもとに来世の肉体を形作ります。それでは、あなたが来世で良い人生をお送れることをお祈りしています』
そうシステムが言い終えると、空間内に残り時間を現すタイマーと居合を修行するための刀が現れる。
そのタイマーは着々と数字を減らしており、既にギフトの効果が授けられていることが分かった。
「ふむ、どうやらもう100年のカウントダウンは始まっているようですね……。となれば、時間は無駄には出来ませんね。早速始めましょう」
そう意気込んだ私は足下に落ちている刀を拾う。
そして、居合の構えをとって薄く笑った。
「まずはウォーミングアップに10年、ですかね」
★やブクマ、感想を貰えると作者は泣いて喜びます。




