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そして、勇者は世界を救った。  作者: 雨鷽
三章 誘惑の奴隷 / 世界の外れの私達
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八節 魅了された町

 翌日。俺とベルロードはタシオのいるタルアシオに向かっていた。


「……まずはタシオを探す……であってるよな?」


「ええ。黒い髪の……一番目立つ服を着ている女よ」


 ベルロードはどこか遠い目をしていたが、俺に向き直る。


「初めは交渉するつもりよ。その間は貴方に魅了解除をお願いしたいの」


 そう言って小さな袋をこちらに差し出した。中身はこの間作った魔法玉だ。


「わかった」


 袋を受け取ると、ベルロードはちらりと小窓をのぞき、身を乗り出した。


「……城壁……?」


 隣から覗き込むと、確かに少し先に分厚い石造りの壁が見えた。

 見張り台もあり、小さく人影も見える。


「数日前の報告には無かったはずだけれど……」


 いくら魔法があると言っても、町を一周する城壁を数日で作れるとは考えにくい。

 町の人達は魅了で強制的に働かされているのだろうか。


「上から入るのは無理そうね。……そこの森に降りましょう」


 ベルロードが指を振ると僅かに馬車が揺れ、段々と高度が下がっていく。

 袋を持ち、懐のナイフと回復薬を確認する。


 ふと顔を上げるとベルロードが口元を押さえていた。何やら顔色が悪い気がする。


「どうした? もしかして、もう魅了が……」


「いいえ……魔力濃度が高くて……少し、不快なだけ」


 ベルロードはゆるゆると首を振ると、外へ出て行った。

 いつの間にか地上に降りていたらしい。


 馬車を出ると、木々の向こうに大きな門が見えた。武器を持った番兵が二人。

 人通りはほぼ無く、紛れて町に入ることはできなさそうだ。


「……どうする?」


「……商人か旅人のフリをすれば――」


 ベルロードの言葉に被せるように町の方から悲鳴が上がった。

 門番達が慌てたように町の中へ入っていく。


 俺達は城門に近付き、町の中を覗いた。


 逃げ惑う人々と、何かと戦っている門番達。


「……魔物か?」


 門番が吹き飛ばされ、悲鳴があがる。

 門番達が取り囲んでいたのはどうやら一人の人のようだ。

 倒れた門番に襲い掛かるのを見て、俺は一歩前に出ていた。


「行かないと……!」


「……そうね。行きましょうか」


 そう言い終わらない間にベルロードは走り出した。


「えっ、あ……おい!?」


 魔法を使ったのか、ものすごい速さで町の中へ入っていく。


 ベルロードの後を追って町に入ると、暴れていた人にベルロードの魔法が着弾し地面に伏したのが見えた。


 俺は近くに倒れている門番に駆け寄る。頬の切り傷以外、目立った外傷はなさそうだ。


「怪我は?」


 回復用の魔法玉を取り出して、門番に押し当てて割ると、頬の傷はすぐに薄くなった。


「ああ……助かったぜ」


 門番が立ち上がるのを見て、俺は視線を上げ、暴れている人を見やる。


 ベルロードの奥でその人が突然弾けた。血も欠片も、周囲には何も飛び散っていない。


「……狂化」


 俺は立ち上がり、ベルロードへ歩み寄る。


 爆発した先をじっと見ていたベルロードは腰から魅了解除用の魔法玉を取り出し、割った。


「アンタ達、助かったぜ」


 背後からの声にフードを被り直す。


「ん……? アンタら、この町の人じゃないな」


 門番は俺とベルロードをまじまじと見る。

 周囲に人だかりができ始めた。

 今から逃げるのは得策ではないだろう。ベルロードに目配せをすると、小さく首を振られた。


 門番はしゃがんで俺の顔を覗き込んできて、次の瞬間、「ああ、やっぱり!」と声を上げた。


「アンタたち、シルシ無しじゃないか」


「シルシ?」


「タシオ様からのご寵愛の印だよ」


 門番はぐっと襟元を緩めた。首筋にピンク色の魔法陣がぼんやりと浮かんでいた。

 ……以前、ベルロードに見せてもらったタシオの魔法陣と同じだ。


「アンタたちもシルシをもらうと良い」


 門番は服を直すと、丘の上にある城を指さした。


「タシオ様は夜にお帰りになられるはずだ。それまで、城で待ってなよ」


 「案内するぜ」と歩き出した門番を筆頭に、俺達を囲んだまま人混みごと動き出す。


 町の人達は笑顔で話しかけてきているが、気付けば俺達の逃げ道はなくなっていた。


 見渡すと、彼らの首筋には一様にピンク色の魔法陣が浮かんでいた。


 ベルロードは一度周囲を見渡すと、俺の耳元に顔を寄せた。


「行きましょう。……歓迎されているなら好都合だわ」


 その言葉に頷き、俺達は歩き出した。

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