幕間2
王城を出て、人気のない深い森を抜けた先。
人目を避けるように建てられた大きな建物。
城下町のものより堅牢で、武骨で冷たい小さな門を抜ける。
息を、吸う。
背後で軋んだ音を立てて門が閉まる。
学園の中に入ると、体感温度が少し、下がった気がした。
石で作られた建物は、明かりもなく薄暗い。
どこかで爆ぜる音がした。何か潰れる鈍い音がした。人の呻くような声がした。
――殺せ。
全て音に過ぎない。石煉瓦を靴が叩く音と同じだ。鳥が鳴くのと同じだ。ここは戦場ではないのだから、その区別は必要ない。
階段を上がって、豪奢な扉に前に立つ。
「96Nです」
声を張り上げる。大丈夫。震えてもないし、上擦ってもなかった。
「入れ」という声がしたと同時に扉を開け、敬礼。
視線は正面。
大きな椅子に座る学園長を見る。
「96N――ああ。クロン、だったな」
咳き込むように学園長は笑う。
「明日から聖国の魔物討伐だ。魔導躯体四機との合同戦闘になる」
「はい」
間髪入れずに声を出す。学園長は口端を歪めた。
「これで国民に魔導躯体の存在を知らしめる。壊すなよ」
「はい」
近年、町周辺に現れる魔物が強くなっている。魔王を倒したがそれは変わらないようだ。
そう。魔王を倒したからといって、全てが終わるわけではない。
「して……96N。凱旋パレードで魔法を放ったな」
「はい」
駄目だ。少し遅れた。
学園長が爪で机をコツコツと叩き始める。
――殺せ。殺せ。
「……あれは拒絶か? あるいは、嫌悪か?」
「ラディーヌ・グライフォーダン様からの命令です。異世界人はクロンに執心しており、追放の際には拒絶の言動、もしくは威嚇魔法を行えと」
「異世界人は少女偏愛でもあったのかのう」
嗄れた笑い声が部屋に響く。
――殺せ。自分を。
冷えていく頭を、他人事のように感じる。
「旅の中で何があったかは知らんが……96Nは何だ?」
「学園の特待生です」
「そうだ。今は〈クロン〉が金になるから不問にするが……もし感情などという不要物を所持するのならば、どうなるか分かるな?」
頭を暴かれ、思考を直接弄られる。身体の内側に魔法管を増やされる。
――駄目。殺せ。返事。
「はい」
学園長は飽きたように息を吐く。
「終わりだ。部屋は以前と同じ四号室」
「はい」
学園長に背を向け、戸を開ける。
逸る息を押さえながら扉を閉め、歩き出す。
怒声が聞こえる。呻き声が聞こえる。痛みに耐えられなかった叫び声が聞こえる。泣き声が聞こえる。爆ぜる音が聞こえる。柔らかいものが潰れる音がする。硬い物同士がぶつかる音がする。
――殺せ。殺せ。
認識するな。判断するな。ここは戦場じゃないから、区別はいらない。私はいらない。
何もない側頭部に触れる。何もないとわかっていたはずなのに、その事実に指先が冷えた。
――殺せ。人になってしまった私を。
1月31日から1週間ほど、書き溜め・クオリティ向上のために本編の更新を休止します。
休止中は「活動報告」にて、設定・用語等を順次公開していきますので、ご興味があればおいでください。
「活動報告」は読まなくても、本編を読むのに支障はありませんし、今後のネタバレになるような情報は伏せますので、お気軽にどうぞ。
更新再開予定は2月7日です。




