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そして、勇者は世界を救った。  作者: 雨鷽
二章 安寧の対価 / 狂いゆく戦闘
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五節 血濡れた門

 門付近に近付くにつれ、血腥さを感じ始める。視界に入って来た惨状に、喉元まで胃液がせり上がって来た。

 目を背けたくなるほどだったが、黙々と足を動かした。


 地面は血に濡れ、一部を失った死体がそこかしこに転がっている。閉じかけの門の側には何人もが折り重なって倒れていて、そこから僅かにうめき声がした。


 クラルハイトとベルロードは手分けして周囲の生存者に回復魔法をかけているようだ。


 彼女達を横目に、俺は門に近寄る。

 血腥さが増していったが、俺は重なった死体をどかしていった。


 まだ身体は温かく血で手がぬめる。重たくなった死体に触れるたび、頭の奥が痺れて、何かが遠くなっていく感覚がする。それでも、手を止めることはできなかった。


 そしてようやく呻き声の主までたどり着く。毒のせいか顔は爛れ、ぴくぴくと微かに指先が痙攣していた。

 彼の身体を引き上げ、地面に寝かす。手持ちの薬より魔法の方が良いだろう。

 ベルロード達を呼ぼうとした瞬間、通りから兵士を先頭に町人の一団がやってきた。


「医者を連れてきたぞー!」


 辺りは俄かに騒がしくなって、詰まるような息を少しだけ吐いた。


「あ、いた!」


 自警団の一人が医師を連れて近付いて来た。二足歩行のトカゲのような見た目の兵士は俺を指さすと純粋な目で狐の尾が生えた医師を振り返った。


「こいつだ! 凄かったんだぜ、魔法が効いてないみたいに魔物に向かっていってよ!」


 自警団とは裏腹に医者の冷えた視線が突き刺さる。頬が引き攣った。

 マントを引き寄せようとするが、今更着ていないことに気付く。戦闘中にどこかに放った気がして、慌てて辺りを見渡すが見当たらない。


「それより、今は治療でしょう」


 その声が背後から聞こえた瞬間、頭からコートがかけられた。僅かに顔を上げると、ベルロードが俺の前に立ち、クラルハイトは隣で微笑んでいた。

 医師も兵士も彼女の圧に口を噤む。


 ベルロードがちらりと上を見る。つられて見上げると、何台かの馬車が空を飛んでいた。


「スフィス領の医師達を呼んだから、町の人達にも声をかけてくれる?」


「スフィス領!? お嬢さん、何者だ?」


 驚く医師に、彼女はにっこりと笑った。目の前の二人は彼女の笑顔に押し黙る。


「私はベルロード。こっちはカナトで、クラルハイト。良かったら覚えておいて」


 彼女は俺達を順に示すと、振り返って歩き出した。クラルハイトが着いて行くように促して、俺も歩き始める。


 後ろから「ありがとなー!」という叫び声が聞こえたが、俺は振り返れなかった。


「……ありがとう。助かった」


「少し、強引だったかしらね」


「いや……あの様子だとバレてなさそうだし、十分だ」


 異世界人だとバレていたら、あんな言葉や笑顔は向けられていないだろう。


 久しぶりだった。あんなふうに、面と向かって感謝されるなんて。


「ベルロード様、急なお呼び立てに来てくださってありがとうございました」


「私は遅れて手を出しただけ。……貴方達もお疲れ様。怪我は、平気?」


「ボクは何も。カナト様は……」


「俺も無傷の範囲だ」


 ふたりの視線がこちらを向き、目を見合わせた。


「……この後医者に会うから処置してもらいましょう」


 ベルロードは足を止めると、馬車を召喚した。俺に先に乗るように言うと、クラルハイトを振り返った。


「今からスフィス領に行くわ。貴方はどうする?」


「荷物もあるので、ボクは屋敷へ戻ります」


「わかったわ。それじゃあ、夜には帰る……と思うから」


「承知いたしました。お気をつけて。ベルロード様、カナト様」


 ベルロードが乗り込み、馬車が動き出す。見送っているクラルハイトの姿が小さくなっていって、俺は窓から視線を離した。


 息を吐くと、思いだしたかのように体中が痛み出した。思わず顔をしかめるとベルロードが眉を上げた。


「大丈夫――ではなさそうね」


 回復薬をもう一本飲み干す。あまり飲みすぎちゃいけない、とユララが口酸っぱく注意していたことを思い出して目を伏せる。


「……平気だ。まだ動ける」


「辛いなら横になっていいわよ」


 緩慢に首を振った。この回復薬には多分に鎮痛効果が含まれており、わずかながらも痛みが引いてきていた。流石はユララ特製の回復薬だ。

 ――結局、作り方を教えてくれなかったな。


 そんなことを思い出してしまって頭を垂れた。ベルロードが身じろぎした音がする。


「しばらく移動が続くから、楽な体勢でいなさい」


「ああ……」


 俺は壁に頭をつけて目を伏せた。

 車内は静かで、耳をすませば微かに風を切る音がする程度だった。しばらくそれに耳を傾けていると、不意に少しの振動を感じた。


「……着いたか」


「貴方はまだ降りなくていいわよ。少し用事を済ませてくるから待っていて」


 ベルロードはキャビンを降りた。

 小窓から外を覗くと、木々に囲まれた中に古びた建造物が見えた。

 建造物の入り口付近には白衣を着た亜人たちが数人いて、メモを取ったり壁を眺めたりしている。ベルロードは建物の中に入っていき、姿は見えなくなった。


 視線を動かすのも億劫で、俺はその建物を見続けていた。町の建物とはどこか違う雰囲気を感じる。強いて言うなら、西洋風の「神殿」のような建物だ。


 ……「神殿」


 戦闘中の会話が頭をよぎる。狂化したら神殿で死ぬとか、なんとか。

 思考が鈍り、目蓋が重くなる。葉擦れの音が遠のいていく。ゆっくりと、闇のなかに意識を手放した。

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