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ふと、彼はコップに視線を戻した。プラスチック製の半透明のコップ。佳奈子と彼が呼んだ人物と共に出場したイベントで贈呈された品だった。
「もし気づかぬ間に自分でこれやってたら相当恥ずかしいやつだな」
持ち帰ったその日からずっと床に転がしていた物のはずだが、何故かそれさえも机の上に置かれ、いつのものかわからない水が入っている。不思議な現象に見舞われているのかどうかもよくわからない絶妙な塩梅の光景だった。
彼はコップを持ち上げる。中の水はコップの七割ほどを占めており、入れっぱなしで放置されていたにしては綺麗な状態で維持されていた。恐れ知らずなのか、彼はコップの水を少し口に含む。
『何これ、なんか凄い同族意識が……』
水が喉を通った瞬間に、声が聞こえ始める。彼自身の声だった。少し掠れ気味で、何かに呆れているような声だった。
「気持ち悪い、思い出したにしては鮮明すぎるし」
間違いなく彼の記憶から飛んできた言葉だった。『お願いします』『いらっしゃいませ』と続け様に声が頭の中に浮かんでくる。思い出として浮かんでくるにはあまりに陳腐すぎる日常風景だった。
「何で思い出すにしてもこんなどうでも良さそうなものを……」




