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夢嶼  作者: 星野 栞
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第一話

「どうかしら、あそこの三階建ての建物、見える?ううん、もしかしたら二階建てかしら。真ん中の白い境目で判断するなら」母が私の後ろで言った。理事長室の、宙に浮いているかのような床までの全面窓を通して、私は目の前にあるその少し低い建物の階数を、骨を折りながら数え始めた。


「さあ、行きましょう。あなたの学校を見に行く時間よ」彼女は私の肩をぽんと叩いた。すぐに、ハイヒールの音が幻影のように私の耳元で長く引き伸ばされ、だんだんと薄れていった。


車はあの馬鹿みたいに高い本館から走り出し、森の陰に隠れた高台を一つ越えた。


「ああ、あれは屋根裏部屋か、それともバルコニーの類かしら。見た感じは二階建てね。横から見ると、この建物は思ったよりずっと奥行きがあるのね」母が運転席から顔を出して言った。


三階は、入口に万国旗が掲げられたガラス張りのホールで、アフタヌーンティーを楽しむ場所か、あるいは各国の生徒が交流するための教室のようだったが、ただただ嫌悪感を抱かせる軽薄さが漂っていた。正面玄関は議長のビルに背を向けており、午後の陽光がガラスのカーテンウォールに降り注ぎ、えも言われぬ黄昏(たそがれ)が私の頬を潤した。私もその陽光に肌を熱せられたかのようだった。二階には、議長のビルから隠れるように奥へと伸びる場所に、同じような夕焼けの回廊があった。総じて、こちらのほうが見た目はいくらか心温まるものだった。


「どう?びっくりしたでしょう?」母がバックミラー越しに私に言った。


「ええ、まあ、綺麗ですね」ここがこれから私が放り込まれる場所になるかもしれないと思うと、明確な返事はしたくなかった。できることなら、このまま言葉にできない曖昧さの中に留まっていられたらいいのに。


私はもう何も言わず、車は次第に陽光の中から走り去っていった。


私は裏のドアから入った。正面から唐突に入っていくことで感じる、あの過剰なまでの場違いな感覚に耐えたくなかったからだ。しかし、ここの道には不慣れで、結局は林の中から飛び出す羽目になった。全身に枝葉を絡ませ、おそらくはかなりの時間遅刻もしてしまっただろう。それでも、ここからあの華麗で人を怖気させるほどの校舎に入っていかなければならない。野原から飛び出してきた招かれざる客として、厚かましくもこう言うのだ。「これから皆さんの和気あいあいとしたダンスパーティーに参加しますので、どうか私の席を一つお願いします」と。


いっそ外で物乞いでもしたほうがましだ。それなら少なくとも、自分がどこに横たわるかくらいは選べる。こんなふうに、哀れで、しみったれた席を一つ恵んでもらうなんて、今すぐにでも足を止めてしまいたくなる。だが、母親に捨てられ、物乞い稼業でのし上がって大物になるなんていう筋書きは、さらに奇妙に聞こえる。物乞いキングに、俺はなる!……なんて御免だ。だから、遅々としてではあるが、不承不承、歩を進めた。


一体なぜ、こんな場所でこんな苦しみに耐えなければならないのか。うんざりするような春の陽射しに身を晒し、大量の熱を溜め込むこのコートで保温されながら、必死に汗をかいて体に付いた枝葉が落ちないように気を使い、決して近づけないその距離を、堂々巡りしているだけだった。


ようやくたどり着いた。目の前の教室の、あの荘厳で厳粛な様子を見て、息が詰まりそうになった。かつてのあの心温まる回廊や風はどこへ行ったのか、目の前のこの細かな格子窓からは一片たりとも窺い知ることはできなかった。おまけにA組だなんて、そういう記号は、聞くだけで不吉な予感がする。ドアのところで中を窺っていた時、ふらついてうっかり手すりを押してしまった。そのせいでドアは私一人によって勢いよく開け放たれ、私の体は斜めに床へと倒れ込んだ。一瞬、ここの音はそれほど圧迫感のあるものではなくなった。いや、むしろ、すべての感覚が消え失せてしまった。


悪くない。少なくとも、地面は外よりは涼しい。


「あの.....」


「あなたが今日転入してくる生徒さん?あいにくだけど、あなたは35分遅刻よ。もうすぐ授業も終わる時間なんだけど」先生は少し気まずそうに言った。やっぱりここに来るべきじゃなかった。


「もし立てるなら、自己紹介、してみる?」先生は私の隣にしゃがみ込んでいるようだった。ざわざわという声が湧き上がってくる。初日がこんな展開だなんて、いっそこのままドアを開けて出ていくべきか。


これから起こることは大体想像がつく。この格好が与える印象は、四つか五つのあだ名でも付けないと彼らの中では処理できないだろう。それから、立て続けに起こる転倒事故、原因不明の奇妙な紛失事件、寄生虫のような「友達」関係の中での嘲笑。とにかく、ここに来る前からすべて覚悟の上だった。どうやってここで耐え抜くか、とっくに準備はできている。


「あ.....」冷たく突き放す声で彼女を拒絶するつもりだった。


「できれば、自己紹介はしたくありません」だが、口から出たのは、今にも泣き出しそうな声での頼みだった。


「大丈夫よ。理事長からあなたの名前はもう聞いているから。さあ、立って。ここを見てみなさい」そう言って、彼女は私の名前を後ろの黒板に書いた。「月見つきみ ゆう


ひとまず慌てて立ち上がり、ざっとここの構造に目をやる。奇妙な機材が、人よりも多く教室の後方に積まれていた。おそらくどの教室も同じなのだろう、それらを固定するためのスロットがいくつかあったからだ。そしてもちろん、私は視線を交わすのを避けて彼らの服装だけを見た。その瞬間、十数本の視線が私に突き刺さり、全身くまなく、容赦なく灼き尽くすかのようだった。


大した興味なんて引くわけがない。そんなことはとっくに分かっていた。先生のことは嫌いじゃないが、ここには依然として、あの息苦しくなるような空気が充満している。


「では…」先生が言い終わる前に、授業終了のチャイムが鳴った。皆、何かと忙しいらしく、三人、五人と連れ立って席を立ち、教室を出ていく。残ったのは、ほんの数人だけだった。


「あらら……月見くん、気にしないでね。あのいちばん後ろの席、あなたのために取ってあるから。さあ、早く行きなさい」――へえ、これが努力して得た成果ってわけか。


最悪の展開だ。聞いているだけで不愉快になる。もっとも、こんなことはとっくに覚悟の上だ。私のような人間が、溶け込めるはずもない。彼らも私に余計な興味はない。冷たくされようが、孤立させられようが、それらはすべて、不釣り合いな環境に放り込まれた者が処理すべき問題だ。


いつも通り、何でもないという真面目な顔つきを装い、少しずつその席へと移動する。まだ席に残っていた者たちが、ここぞとばかりに私を値踏みしている。静かなタイプだろうか、と。


席は窓際で、外には広大な森と、上品に装飾されたバルコニーが見える。どうやら昨日見た回廊の一部のようだ。ちょうど教室の角にあり、私の後ろにある、どういう規則で置かれたのかも分からない機材と繋がっている。人目につきにくい連結点だ。私にはおあつらえむきだ。突然、強い帰属意識が湧いてきた。


実を言うと、ここまでの展開で、特に刺激を受けたと感じる部分はなかった。誰からも話しかけられず、昼近くになってようやく私の名前が定例作業のように黒板から消されたことを除けば、クラスに入ったというより、ただ新しい隅っこで時間を潰しているだけだった。クラスにはどうやら、ぬるま湯のような馴れ合いのサークルがいくつか形成されているようだった。彼らはその中に心地よさそうに隠れ、外界を無視し、「我々の場所は今も平穏無事です」とでも言いたげな、和やかな表情を浮かべている。少しでもそれに惑わされようものなら、彼らにとって自分が傲慢に抹消される存在であるとはどういうことかを、その身で味わうことになるだろう。彼らが持つ素養とは、その微笑み一つで、声に出されぬあらゆる不平等を、鮮やかに浮き彫りにすることにある。


これが何かの策略か、あるいは夢ではないかと初めは思った。それにしても、なぜ誰一人として、お決まりの挨拶をしに来ないのだろうか?本当に時間のせいなのか?それとも、彼らは自分たち以外の人間を、そこまで蔑んでいるのだろうか。私には理解できなかった。


昼休み、最後尾についてゆっくりと教室を抜け出す。まだこれからの予定やここの構造も分かっていないので、ごった返す見知らぬ人々がどうやって時間を潰すのか、あたりを見回した。


「あ……弁当、忘れた」私は絶望してその場にうずくまった。だが、誰かに奇妙な気遣いをされるのが怖くて、すぐに服の埃を払うふりをして立ち上がった。まあいい、適当に歩き回って、何か時間潰しができる場所でも探そう。


私は三階に上がり、あそこがどういう場所なのか、外から見てやろうと思った。


「ああ、そうそう、それでさ、もし……」

「うわ、さすが……、すごいな」


三、四人の生徒が、開け放たれた会議室で何かを議論している。熱心な交流。肌の色や顔立ちは違えど、同じ学園の制服を身にまとっている。また同じ光景だ。三階は、選ばれた高貴な者しか入れないような、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出してはいるが、やっていることは下と同じ。あの心地よさそうな雰囲気が、私をむかつかせる。思った通り、ここは完璧に自己完結している。私が足を踏み入れる場所などない。まるで彼らが元から相互依存しているかのように、円満で、欠落がない。ここに、巨大で見えない欠落を抱えている人間は、私一人だけだ。


それなら、かえって何も心配することはない。そうだ、たとえ私がここの隅っこで弁当を広げたとしても、彼らはただ優しく注意して、それから重々しくドアを閉め、翌日には警告の類いの文書でも送りつけてくるだけだろう。要するに、私には彼らと関係を築くことなどできはしないのだ。


階下へ向かうと身を翻した時、ある音が私の空想を断ち切った。


「水の音?まるで潮が満ちてくるみたいだ。環境音か何かなのか?」


音を頼りに階段を下りていくと、ここの巨大なガラス壁の向こうに――


密林の中央に、一つの海が広がっていた。海と呼ぶには少し違うかもしれないが、あの分厚い絹の塊が、ゼリーのようにうねっている巨大な水域を表現する言葉が見つからない。ここから見るとまるで砂浜に立っているかのようだが、水域の両側にある景色とは全く馴染んでおらず、今朝私が通り抜けてきた木々が、依然として静謐に佇んでいる。


これは、どう考えても普通じゃない。なぜこんな場所に、こんなものが存在するんだ。私は確かめるために、急いで階下へと駆け下りた。


だが、それを目にした時、私は自分がなぜここに来たのかを瞬時に忘れてしまった。目の前には、依然として今朝見たのと同じ光景が広がっている。


鬱蒼とした木々、いくつかの点在する東屋、奇妙な遊具(あるいは、これら上流階級の独特な趣味に属する、装飾物か彫像の類いか)。


「一体どうしてるんだ……」そういえば、ここはまさか、この二つの建物しかないのか?私は振り返り、この二階建てで巨大かつ狭長の校舎と、背後にあるあの青い理事長ビルを見渡した。あそこからなら、ここの全てがはっきりと見えるだろう。


外にいる生徒は哀れなほど少なく、しかし教室にも誰一人いない。会議室には熱心に討論する連中が数人いたが、それでもなお、がらんとした印象は拭えない。


どういうことだ?ここは全寮制のはずなのに、この二つの建物の他には、彼らが昼食をとる場所さえ見当たらない。私はたちまち疑念に囚われた。あの海が私の思考をかき乱して以来、私は次々とこの異常さに気づき始めていた。もう散歩どころではない。やはり教室に戻って様子を見よう。


教室は相変わらず、がらんとしていた。私はなすすべもなく自分の席に座り、午後の授業が少しずつ過ぎ去っていくのを待っていた。


二つの授業が終わると、また同じ光景が繰り返された。一人、また一人と教室から散っていく。彼らは彼らの生活を心から楽しんでいるようで、その生活は、明らかに私とは無関係だった。


「あら、月見くん。まだここに馴染めていないのかしら?」朝の先生、つまり担任が、私の後ろで言った。


振り返ると、彼女の意味ありげな微笑みが目に入った。実に不愉快だ。私が一日中うろつき回り、誰にも会えず、昼食にさえありつけなかったのを見て、彼女は私を嘲笑っているのだろうか?


「放っておいてください」


「ええ、でも、これから、あなたはここで休むことになるのでしょう?」彼女の表情は変わらないままだった。だが、彼女に何ができるというのだ。まさか彼女の膝の上で眠れとでも?その奇妙な憐れみと嘲りが、私をさらに苛立たせた。


もう何も説明する気はなかった。


「放っておいてくれ!」そう叫びながら、私は彼女のそばから駆け出し、あの包み込まれるような夕焼けの回廊へと逃げ込んだ。陽光がガラスに反射し、ぼやけた一つの区間となって滲んでいる。


「うわっ――」陽光に視界を遮られ、私はとある一枚のガラスに真正面から衝突した。瞬間、反射の中にいくつかの空洞が見えた。ガラスが、音を立てて砕け散り、私は――落下した。


落下しながら、私はまるで別次元の領域に入り込んだかのようだった。そこには安定した重力さえある……いや、違う。ここは、どこだ?


私は見知らぬ場所にたどり着いた。砕けたガラスの破片が道となって溶け、私の後ろで繋がっている。静寂の湖、その周りには蛍と蔓草。私が最初に三階で見た光景――あのどこか幻想的な調和と一致する景色。森の奥深くが、このような領域を映し出していたのだ。


「分かったかしら?ここがあなたの部屋よ。この学園では、誰もが自分だけの秘密の小道(こみち)を持っているの。学校の至る所にあるガラスの壁の前に立てば、中に入れるのよ」先生の声が外で響いた。どうやら彼女は私がどこに落ちたのか知っているらしい。


目の前の湖畔と木々が並ぶ環境の中に、十分な家具が置かれていた。まるでその環境そのものから作られたかのように、温かく調和しており、食事まである。何もかもが揃った、標準的なモダンなマンションのスタイルだ。独特の青紫の色合いと、満点の星空がそこには塗られていた。


「気に入ったかしら。これはあなたの心の渇望が生み出したものよ。この森のどこかにあるの。早くみんなと溶け込めるよう、祈っててあげるね~」そう言い残すと、彼女は次第に遠ざかっていった。


「あ、待って――」私が言い終わる前に、もう彼女の声は聞こえなくなっていた。

新人の初挑戦です。ここまで読んでいただけたこと、心から感謝します。


こんなにも不器用で、突然ぷつりと途切れてしまうような物語を世に出してしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。


この物語が再び動き出すには、何かのきっかけと、穏やかな時間、そして招かれざる幸運が必要になるでしょう。

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