9話
双樹はやけに緊張して、固唾をのみ込んだ。
「カイはその倫理的問題から、存在を公にされていません」
指揮官は丁寧に、ゆっくり言葉を紡ぐ。
双樹も聞き落とさないようにと意識が集中する。
「カイの正体は、人の胸骨です」
「なっ……!」
双樹の後ろで、父が息を呑んだ。
「カプセルに入った胸骨が、花柩の心臓でエネルギー源となります。ただし、先ほど双樹殿がおしゃってくださったように、誰のカイでも良いというわけではありません。まずはカイとなる人物もキドとして高い力を持っていることが前提条件です。そしてその中でも適合するのは、搭乗するパイロットと強い繋がりを持つカイのみ」
「その、強い繋がりとは?」
「多様なパターンがあるため断言することは難しいですが、一般的には血縁関係というよりも、当人同士がどれだけ時間を共有し、より信頼関係にあったかが重要です。花柩が機能するために何故このような制限があるのか、原理は未だ分かっていませんがこれまでパイロットが動かすことに成功したのはその条件に当てはまるカイだけでした」
そこまで聞いて、双樹は冷静に記憶と食い違わないことを確かめる。
だが続きを促すのに思わず声が震えた。
「カイはただの動力源ではなく、花柩そのものを変えるほど直接的な影響を与える。そうですよね?」
「……その通りです。例えば、カイとパイロットとの絆の強さが、そのまま花柩の強さとなります。また、カイによって花柩の特徴も異なります。今日ご覧になった花柩第五機は防御特化型、第六機は攻撃特化型ですね。見た目はどの花柩もほぼ同じですが、戦闘スタイルはカイにより変化します。それから……」
指揮官はその先を言い淀んで一度口を閉じた。
だが双樹の真っ直ぐな視線に気づいて、意を決したように見えた。
「……それから、不思議なことにカイ本人の性格、想い、記憶などが花柩に反映されるのです」
双樹はぎゅっと拳を握りしめ、真っ白な花柩を見つめる。
「これは、カイが生きているというよりも、花柩がカイの意識を模していると言えるでしょう」
決して蘇らないことは双樹も理解している。
「それでも……」
「双樹、まさか、お前、」
「父さん。これは俺のエゴだけど、もう一度会いたいんだ。まだ小さかったあの子に、まだ知らなかったこの世界を見せてやりたい」
その言葉に双樹の父は声を詰まらせて、どうすることが正解なのか分からなくなった。
どちらも彼にとっては大事な息子だった。
「俺この花柩に乗りたい。葵と一緒に」
その時はっきりと双樹の意志を口にした。
一方で指揮官は苦い表情を見せる。
「朝桐指揮官‼」
突然背後のドアが開き、駆け込んできたのは草壁だった。焦ったように手元の資料を朝桐に手渡し、耳元で何かを伝えている。
そして指揮官は感情のままぐしゃりと紙を握りつぶし、一歩双樹に近寄った。
草壁は静かにその横へ控える。
「今しがた、夏宮葵さんの鑑定が終わりました」
「鑑定……」
「残念ですが、弟君にはキドの力がほとんどありません」




