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キド  作者: 野乃
第1章
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5話

 大層な漆黒の車は高速を駆けていた。

 何も状況を把握できていない双樹の父は、静かすぎる車内で隣の息子と運転席の職員を窺いながら口を開けないでいる。

 あの後、双樹は急に大人しくなって、対セルファ機関本部に同行してもらいたいと言う彼らの指示に素直に従った。

 双樹はずっと、考えていた。

 パイロットになることの意味を。

 政府がこちらに手を貸しているように見せて別の目的を遂行していたことや、それに母と弟が巻き込まれていたことに確かに憤りはあった。

 しかしそれよりも、自分がパイロットとなることで得られる、ある可能性が双樹の頭を支配していた。


 「今回のセルファが目覚めた時、山肌からその巨体を抜け出させるために大きく腕を振り上げていたという報告があります。この時に弾けた岩山が、夏宮の家に飛んできたのでしょう」


 それまでだんまりだった職員が、ハンドルを握りながらそうやって口を開いた。


 「……それで、家族が死んだのはアイツのせいだから、俺に復讐しろと煽っているんですか。花柩に乗って、セルファを倒せと?」


 双樹は窓枠に肘をつきながら悪態をつく。

 選択権は貴方にありますという体を取りながらも、シナリオ通りに話が進むように圧をかけてくるその態度が双樹は気に食わなかった。

 一つ息を吐いて、流れる緑をぼんやりと視界に入れながらイラつきを抑え込む。

 そんな双樹を気にもせず、職員は話を続けた。


 「以前も、うちの職員が双樹さんの元を訪れましたね。パイロット候補生として機関に所属してもらいたいと打診するために。その時に説明を受けたと思いますが、花柩を操縦するためには、二つの条件があるということを覚えていますか」


 双樹は父からの強い視線に気づかないふりをするしかなかった。

 確かに最近機関の関係者を名乗る者が家に来たが、パイロットなど鼻から興味のなかった双樹は候補生の話をバッサリと断った後、父にはこの件を伝えていなかった。

 まさかまた同じ話が飛び出すとは思わず。

 職員はあの日双樹が聞いた説明をなぞるように言葉を繋げた。


 「一つは、搭乗者がキドとして高い能力値を持っていること。日本人の中でも、古来よりある特殊な気質を受け継いでいる種族をキドと呼びますが、その中でも生まれ持った力の強さには個人差があります。そこで、キドの性質を応用する花柩に乗るためには、双樹さんのようなキドとして飛びぬけた素質を持つ方でなければ操縦ができません」

 「た、確かにうちはキドの血を受け継いでいたはずだが、まさか、この子が……?」


 “キド”とは言われているが、実際のところ日常生活では他の日本人とそう変わらない。死ぬまで自身がキドの血を引いていると知らない人もいれば、キドであることを忘れて生きている人がほとんどだ。

 ただし、特別なキドが求められる世の中になって、ついでに自分がそれに当てはまってしまうこんな特殊な状況でなければ。

 双樹の父が困惑しているのも無理はない。


「おい双樹、どうしてもっと早く……」

「ああ、ああごめんって、俺だって最近分かったばっかなんだから」


 黙っていたことを問い詰められそうになって双樹は投げやりに口を挟む。

 それから話の筋が折られそうなのを見かねて、職員が一つ咳払いをした。


 「……まぁ、それがパイロット側に求められる条件です。そしてもう一つ。第二の条件は機体にあります」


 その内容に双樹の肩が揺れる。

 双樹が気にしていたのは、まさにこの二つ目の制約だった。

 記憶の中の情報と相違がないか、集中して耳を立てる。


 「花柩には、カイと呼ばれる核が存在します。重要なのは、カイの質。さらにパイロットとの相性。例えパイロットが特別優秀でも、カイが不適切であれば花柩は動きません。つまり、カイの選別が第二条件です」


 双樹の身体が、前のめりになる。


 「そもそもカイとは……」


 そこまで言いかけて、口は閉ざされた。

 突然車内に大きな着信音が鳴り響いたのだ。

 ハンドルの横にセットされていたスマホが震えている。


 「失礼」


 職員が運転しながら画面を一つ操作すると、若い女性の声がスピーカーから響き渡った。


 『く、草壁(くさかべ)さんっ‼』

 「なんだ花澤(はなざわ)。 今は任務中、」

 『知ってますよっ‼ 夏宮双樹を本部まで連れてきてるんでしょ‼』

 「っ、おいっ」

 『だから連絡したんです‼ 現在、第三十一生命体が南下を始めました‼』

 「なにっ⁉ 進路を突如変えるなどこれまで聞いたことがない!」


 彼らのやり取りを聞いて双樹はハッとする。


 「南下してるって……それじゃあ……‼」

 「まさかっ……」

 『セルファがそちらに向かっています‼ その先にいるんです‼』


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