36話
「やっぱり、剣かな」
双樹は答えを出した。やはり思い浮かぶのは金色の折り紙で、以前不格好ではあったが七機が同様のものを顕現していた経験からそれが最適だと考えた。
『よし分かった、それでやってみよう。複合核は事前に準備してもらってあるから、ちょっと待って、……ええと、このボタンかな』
藤が何かを操作したらしい。壁の一部が開いて、収容されていた白い球体が押し出された。
アームに繋がっていたそれを第七機が掴み取ると、また壁は元通りになる。
『カイは基本的に、パイロットに主導権を譲ってくれる。ただそれが可能なのは、カイは皆大人か、若くても高校生くらいである程度の感情制限ができるからだ。俺の言いたいことが分かるよね。その子はまだ感情の扱い自体が未熟の小さな子。だから双樹は自分が主体であることを常に意識して』
藤は真面目に双樹へ言い聞かせる。
確かにこれまで第七機を従えるために、双樹はカイとなった葵へ下手に出ることが多かった。
まるで甘やかすばかりで叱らない親のような。
『その子をカイにした以上、情けは命取りになる。是が非でも手綱を握って。これまで花柩に乗ったことがあるなら分かるでしょ、今自分が花柩を動かしているのか、カイに操縦権を取られているのか』
双樹は藤の言っている感覚がよく理解できた。ふと体の中を違うエネルギーが流れていくような不思議な体験。
双樹は小さく返事をすると、複合核を眼前に持ち上げ、完成形をイメージする。するとすぐに手のひらの球体が輝きを持ち始めた。
「……っ、……」
だがそれは双樹の意志に反して形を変えようとする。
『双樹! 芯を捉えて!』
双樹は藤の声にハッとして、負けじとカイの勢いを抑え込んだ。
唇を嚙みしめて息をも止める。
「……あっ!」
瞬間、真っ白な光に目がくらみ、次に見えたのは煌々とした美しい剣だった。
『双樹! 双樹!』
藤が興奮したようにそう叫ぶ。
上品な白みがかった金色に、繊細な細工、丈夫な刀身。あのなよなよとした切っ先はどこにもない。
双樹は驚いた。思っていたよりあっさりと成功したこともそうだが、キドの力を使う度にその扱いが自然になり、自分が普通ではないことに少しばかり恐ろしくなる。
『初めてのまともな武器だ、よかったよかった。……問題なく扱えそう?』
一瞬、瞳に光を反射させた第七機が勝手に足を持ち上げたように見えたが、双樹がぴたりと止めさせた。
「うん、大丈夫」
『じゃあ、解除だけど……』
藤が指示を伝えようと口を開いた。
だが、言い終わらぬうちに、剣はあっという間に元の形へ戻った。
『え……?』
藤は呆気にとられる。
双樹は難なく武器を仕舞って見せたのだ。
『……じゃ、それじゃあ二個目の別の武器を出せる?』
しばらく経った後、瞬間的に複合核へ光が宿ったものの、「あ」という双樹の声と共に静寂が訪れた。
ホッと安堵のため息を吐く藤。
『そこまで出来ちゃったらもう俺のこと必要ないかと思ったよ。今日は上出来!』
「でも……」
『でもじゃないの! 感覚は掴めただろうから、あとは応用と失敗を繰り返しながら手札を増やしていけばいいさ。焦らないこと。パイロットとしてはかなりの才ありって薊さんに強く言っとくよ』
藤は軽く笑いながら、双樹に機体から降りるよう促した。
コックピットが自動的に開いて、双樹はコードを引き抜き梯子を上がった。
『複合核はそのままでいいよ、後で回収してくれる予定だから』
双樹が頭を出すと、白い部屋に藤の声が反響する。
『花柩の強さには限界点がある。それはパイロットとカイ、両者のキドの力を掛け合わせた最大値だ。つまり器の大きさは既に決まっていて、百パーセント満たせれば一人前だ』
双樹が鉄骨に足を降ろすと、先ほどまではなかった疲労感が肩にのしかかった。
『葉月姉妹だってこの間の測定でやっと到達したんだから、双樹も気長に構えればいいよ』
振り返った双樹とガラス越しの藤が視線を合わせる。
「ありがとう、冬夜」
ここまで手厚く真剣に付き合ってくれる藤に、思わず感謝の言葉が零れた。
損得なしのその姿勢が、双樹の硬い心を少しばかり溶かす。
この言葉が聞こえたはずもないのに、藤は受け取ったかのように明るい笑顔で手を振った。
『もうこんな時間だ、ご飯でも行こうよ双樹』
双樹はあんな兄になりたかった。




