35話
何度着てもタイトなスーツが肌に合わない。
双樹はまたいつの間にか操縦席に居て、花柩の中から無機質な部屋を見下ろしている。
『あー、こほん、双樹聞こえてるか?』
「うん、大丈夫」
無線から響くのは、離れた場所でこちらをモニターする藤の声だ。
『まずはいつも通り、機体を動かしてみて』
双樹は右脚を踏み出すように念じると、花柩は少し置いて片膝を持ち上げ、どすんと半身を前に動かした。
『うーん、まぁ及第点かな。基礎としては合ってる。でも自由自在に操れるほどではないね』
藤の言う通り、双樹にも自覚はあった。
この機体のほんの少しの力も出し切れていないことを。
『それでどうすればいいかというと、これまた抽象的なのはご容赦ね。チョーカーからコードを繋げているだろ? そこにエネルギーを送り込むようイメージして』
双樹は小首を傾げながらも実践してみた。
意識を集中させ、頸から体を巡る力を流す。
「動け」
すると、双樹の命令を言い終わると同時か、七機はすっと左足を前に出したのだ。
『そうそう! これ慣れたら使うエネルギーの調整も出来るようになるからね。やっぱ双樹は要領がいいんだな』
「そうかな」
真っ直ぐに褒められて双樹は照れ臭くなる。
だがそこが、自身の長所であると双樹はよく分かっていた。
母が昔から自信なさげな息子に言い聞かせていたのだ。理解の良さと習得の早さが貴方の武器だと。
『……でも一番の問題は、複合核の扱いだな。他のパイロットは一度顕現してしまえば後はそれを極めるだけでいいけど、双樹の場合は選択肢が多すぎるし、そもそもオンオフの切り替えを学ぶ必要がある。こればっかりは前例がないから手探りで訓練するしかないけど』
藤は数秒悩んだ末、こう提案した。
『よし、とりあえずは武器を一つに絞ろう。まずそれに慣れてから、応用していけばいいさ。そうだな……双樹、どんな武器がいいと思う?』
「え、どんなって……」
唐突に質問が飛んできて双樹は戸惑った。
まだ畑に足を踏み入れたばかりで、どう答えるのが適切かと思わず口を閉ざす。
すると、見かねた藤が一つ話を切り出した。
『例えばさ、俺のカイは、まぁその、……なんていうか細かいことが苦手でガサツ……結構豪快な人だったから、単純に威力の高い大剣で大立ち回り! みたいなのが向いてるんだよね。だから俺は今の武器が顕現されたんだと思う』
明るく響く声の裏、双樹は自分が少しの間だけ息を止めていたことに気づいた。初めて、他者のカイについて触れたのだ。
辛く苦しい思いをしたのは双樹だけではなく、当然、どのパイロットもカイになった人物との別れを経験している。
だからこそ、それを掘り返さぬよう容易に尋ねてはいけないと、色々な人から釘を刺されていた。
『つまり、花柩はカイに依存するから、性格や適性がもろに表れる。だからカイを軸に考えればいいんだ。彼の性格なら、どんな武器が使いやすいだろう。そうやって決めてみて』
「……うん。分かった」
だがすんなりとそれを明かした藤は彼らしくもあり、同時にこれまで何度も悲痛を昇華してきた彼の見えない努力を感じたようだった。




