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キド  作者: 野乃
第3章
34/37

34話


 だが双樹が追及する暇も与えず、藤はこれ以上言うことはないというように別の話題を話し始める。


 「次に、機関の構成について。セルファ対策機関は全国各所に小さな駐屯地を置いている。これは、セルファがいつどこで出現し対応に追われるか分からないからね。そしてそれらを取りまとめているのがここ本部」


 藤はそう言いながら三本の指を立てて、説明を加えていく。


 「本部は三つの部門で構成される。深山花楓(みやまかえで)が率いる軍部。青海川薊が室長を務める開発部。そして総司令、伊南弦(いなみげん)。指揮官、朝桐蓮が舵を取る司令部。この三本の柱が連携して今の機関が出来上がっている。ちなみに深山、青海川、朝桐は機関育成校時代からの昔馴染みだからよく喧嘩もしてる」


 藤の説明で、双樹は朝桐と青海川の妙な距離感に納得がいった。まだ見ぬ深山という人物にも興味が湧く。きっと他二人に変わらず、特徴的な人物には違いないだろうが。

 ふと、双樹は疑問に思った。


 「あの、朝桐さんがここの一番上じゃなかったんですか?」

 「あ、そっか! 総司令は今、柊くんと一緒でいないんだった。実際には朝桐さんが現場の指揮を執るけど、最終決定権や責任は総司令が請け負うんだ。まあ実質、司令部の頭というより、本部全体の最高責任者だね」

 「……不思議な人?」

 「んー、ま、難しい人?」


 双樹は小さくため息をついた。それではどちらでも変わらない。


 「……双樹は人見知りなんだなぁ」

 「それもあるけど、冬夜が凄いだけだよ」

 「そうか? ならまあ、双樹が難しい時は俺を挟んで会話してくれたらいいよ」


 そうやってニコリと笑う藤はとても眩しい。

 やはり慣れない隙間を埋めてくれるこの安心感は、双樹に今一番必要なものだと思わせられる。

 まさに先輩であり、兄のような。


 「ここで一旦、藤先生による説明は終了です! また分からないことは追って質問してください。それでは夏宮くん、次は実践なので移動です」

 「はい先生」


 いつでも上機嫌な藤が立ち上がると、双樹もその後ろを着いて行った。

 下に降りて行けばキーボードを打ち込む音がさらに大きくなって、事務的な会話もよく聞こえた。

 だがこの青いソーシャルバタフライがその合間を下って行けば、たちまち彼への好意的な言葉が飛び交う。


 「藤さん! この間の差し入れ美味しかったです!」

 「先日の申請早くて助かりました、第二パイロット」

 「藤くんまたお話しましょー!」


 「はーい! また遊びに来ます!」


 手を振りながら笑顔でそれに応える藤は自覚のない人気者だ。

 双樹は彼の背中に隠れながら少しばかり足早になった。


 「……っうわ!」

 「双樹っ⁉……ぶねぇ、セーフ。大丈夫か?」


 小さな最後の段差を降りようとした時、右足が上手く踏み出せず双樹は転びかけた。

 幸い藤が軽く受け止めてくれる。


 「う、うん、ありがとう……ごめん」

 「怪我してないならいいさ」


 そんなこと、と言ったように普通にまた歩き出した藤だったが、双樹はどことなく不甲斐ない自分に顔を上げられなかった。


 入ったのは試験室を通り過ぎ、さらに廊下を奥へと進んでいく。

 見慣れた景色が無くなり始めてから、双樹はおずおずと藤に尋ねた。


 「試験室じゃないの?」

 「今回は試験室だと狭すぎるから、訓練室まで行くよ。実戦を想定した練習もしたいからね。君の七機もこっちに移してもらってる」


 不意に藤が止まって後ろをくるりと振り返った。


 「と、いうことでここが訓練室です。すぐそこに更衣室があるから着替えておいで」


 自動で開いた真っ白な扉、藤の奥には光の宿らない金の右目がぼんやりとこちらを見ていた。

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