34話
だが双樹が追及する暇も与えず、藤はこれ以上言うことはないというように別の話題を話し始める。
「次に、機関の構成について。セルファ対策機関は全国各所に小さな駐屯地を置いている。これは、セルファがいつどこで出現し対応に追われるか分からないからね。そしてそれらを取りまとめているのがここ本部」
藤はそう言いながら三本の指を立てて、説明を加えていく。
「本部は三つの部門で構成される。深山花楓が率いる軍部。青海川薊が室長を務める開発部。そして総司令、伊南弦。指揮官、朝桐蓮が舵を取る司令部。この三本の柱が連携して今の機関が出来上がっている。ちなみに深山、青海川、朝桐は機関育成校時代からの昔馴染みだからよく喧嘩もしてる」
藤の説明で、双樹は朝桐と青海川の妙な距離感に納得がいった。まだ見ぬ深山という人物にも興味が湧く。きっと他二人に変わらず、特徴的な人物には違いないだろうが。
ふと、双樹は疑問に思った。
「あの、朝桐さんがここの一番上じゃなかったんですか?」
「あ、そっか! 総司令は今、柊くんと一緒でいないんだった。実際には朝桐さんが現場の指揮を執るけど、最終決定権や責任は総司令が請け負うんだ。まあ実質、司令部の頭というより、本部全体の最高責任者だね」
「……不思議な人?」
「んー、ま、難しい人?」
双樹は小さくため息をついた。それではどちらでも変わらない。
「……双樹は人見知りなんだなぁ」
「それもあるけど、冬夜が凄いだけだよ」
「そうか? ならまあ、双樹が難しい時は俺を挟んで会話してくれたらいいよ」
そうやってニコリと笑う藤はとても眩しい。
やはり慣れない隙間を埋めてくれるこの安心感は、双樹に今一番必要なものだと思わせられる。
まさに先輩であり、兄のような。
「ここで一旦、藤先生による説明は終了です! また分からないことは追って質問してください。それでは夏宮くん、次は実践なので移動です」
「はい先生」
いつでも上機嫌な藤が立ち上がると、双樹もその後ろを着いて行った。
下に降りて行けばキーボードを打ち込む音がさらに大きくなって、事務的な会話もよく聞こえた。
だがこの青いソーシャルバタフライがその合間を下って行けば、たちまち彼への好意的な言葉が飛び交う。
「藤さん! この間の差し入れ美味しかったです!」
「先日の申請早くて助かりました、第二パイロット」
「藤くんまたお話しましょー!」
「はーい! また遊びに来ます!」
手を振りながら笑顔でそれに応える藤は自覚のない人気者だ。
双樹は彼の背中に隠れながら少しばかり足早になった。
「……っうわ!」
「双樹っ⁉……ぶねぇ、セーフ。大丈夫か?」
小さな最後の段差を降りようとした時、右足が上手く踏み出せず双樹は転びかけた。
幸い藤が軽く受け止めてくれる。
「う、うん、ありがとう……ごめん」
「怪我してないならいいさ」
そんなこと、と言ったように普通にまた歩き出した藤だったが、双樹はどことなく不甲斐ない自分に顔を上げられなかった。
入ったのは試験室を通り過ぎ、さらに廊下を奥へと進んでいく。
見慣れた景色が無くなり始めてから、双樹はおずおずと藤に尋ねた。
「試験室じゃないの?」
「今回は試験室だと狭すぎるから、訓練室まで行くよ。実戦を想定した練習もしたいからね。君の七機もこっちに移してもらってる」
不意に藤が止まって後ろをくるりと振り返った。
「と、いうことでここが訓練室です。すぐそこに更衣室があるから着替えておいで」
自動で開いた真っ白な扉、藤の奥には光の宿らない金の右目がぼんやりとこちらを見ていた。




