33話
「それから一応、この藤冬夜についても」
本人が言うのも気恥ずかしそうだったが、藤は自身について最低限に説明してくれた。
第三パイロットは当然ながら目の前に居る藤冬夜のことだ。もうすぐ成人を迎える大学生で、藍の花柩に搭乗している。その特徴は、攻撃特化、その中でも大立ち回りなアクションが得意であること。藤が顕現した大剣はどの武器よりも一撃が重い。そして知ってのとおり、するりと他者の懐に入ってみせる、爽やかな好青年だ。
藤は早々に切り上げて第二パイロットを言及し始めた。
第二パイロットといえば、初の女性パイロット伊南椿。三十半ばの彼女が最年長となる。花棺は燃える赤。攻撃型ながらも、藤とは対照的に華麗な小回りを見せる機体だ。性格は気前が良く面倒見も良い。若者の多いこの集団では母親のような存在らしい。
「伊南さんは元々機関の職員だったんだ」
「えっ、そうなの?」
「うん。だから、内情にも詳しいよ」
一般人が知りえるのはパイロットの容姿や名前、その他メディアが発信する簡易的な情報のみ。当然機関によって情報統制はなされているため、双樹は彼女が元機関職員であることなど知る由もなかった。その他、パイロットについて見聞きするほとんどは民衆が根拠もないデマで作り上げたものばかりだ。
そして、最も噂を搔き立てられ正体を追われているのは間違いなく最初のパイロットだと言える。
「鳳来柊。我々の希望であり、唯一の楔」
十五年前のある日、突如現れた一体目のセルファを倒し、人類の英雄となった人物である。その強さには未だ誰も叶わない。現状の最高戦力を誇る。
第一パイロットは、かつて世を震撼させたプロトタイプの花柩をずっと使い続けていた。体躯の色彩は他の機体とは異なり、瞳は穢れのない白であることが彼の印だった。言わずもがなのオールラウンダーであり、そもそものキドとしての適性が遥かに高い。
性格はと言えば、難ありというのが印象。藤からすれば、それは彼が人見知りだからで、仲良くなれば普通に話してくれるよと笑って言う。だが実際、彼のはっきりとした物言いは世間でも有名だった。時に人は彼を冷酷だと称することもある。皆の憧れを一番に集め、同時に恐れや反感を集めるのはこの人だけだろう。
「まあ、初めて道を拓いた人には色々と困難が付きまとうものだね。当時十一歳で花柩に乗ったっていうのも今じゃ信じられないよ。そのせいで幼少期もまともな環境じゃなかっただろうし。あ、でも安心して! 柊くんももう大人だから! 理不尽なことは言ったりしないよ!」
藤は鳳来に対する壁を失くそうとあれこれ言葉を並べてくれるが、双樹からすればどれも変わりはしない。いつか出会ってしまうその日を想像しながら、早くも胃が痛んだ。
「……そういえば、第一パイロットは今機関にいないような話をちょっと聞いたけど」
「あーそれね。上のお偉いさん方にいろんなところ連れまわされてるの。要は政治や外交のダシにされてるんだ。何かあった時に最後の砦が機関にいなかったらどうするんだっ! て思うでしょ? でもあのじいさんたちには関係ないんだ。自分が最優先だからね。蓮さんもそれを止められる力がないんだ」
顔に影を落としてそう言う藤にはかすかな憤りも感じられた。世界を守るために最前線で戦わされながらも物として扱われるのは誰でも納得のいくことではない。ただそれに抵抗できる立場もないのはどれだけ息苦しいだろうか。
双樹がそれに黙っていれば、眉間に皺を寄せたまま藤が身体を寄せて不意にこそりと囁いた。
「あのね、これから機関にいればあると思うんだけど……柊くんの黒い噂を耳にしたら、信じないでね」




