32話
「お、来たか双樹」
休日の午後、双樹は職員に手厚く送迎されて今日も司令室にやって来た。
先日の一件もあり、花柩第七機の操縦訓練を行うことになっていたその初日なのだが、何故か目の前にいるのは藤だった。
「てっきり朝桐さんが見てくれるんだと」
「あの人は忙しいからな。しばらくはこの藤冬夜が先生になります。よろしく!」
双樹はにこりと差し出されたその手を取った。
正直、双樹にとっては指導してくれるのが藤で有難かった。
朝桐とはまだ少しばかり形式的な気まずさが残っているように感じ、逆に藤の親しみやすさの前では心持が楽でいられた。
「まあまあ、座って」
藤の正面、パイロットのみに許された席へ促されるまま座る。
周囲を見渡して、双樹はふと気になったことを口にした。
「そういえば、対面で会ったパイロットは冬夜だけだ。そういうものなの?」
数少ないパイロット同士、交流は深いのかと思っていたが顔を合わせたこともほとんどない。
「あれ、沙菜にも?」
「うん。出動時はもうお互い花柩に乗り込んでいたし、殲滅後もすぐ医療室に運ばれたからそれ以来一切」
「そっか。今はタイミング的に皆何かしら事情があるだけで、いつもはここにもよく集まるし、寮でわいわいやってることもあるよ」
そりゃ不安になるよね、と寄り添ってくれる藤は少し間を置いて言った。
「なら操縦訓練の前に、まずは座学にしようか。といっても、簡単な説明だけどね」
双樹は小さく頷く。
ここまで落ち着く暇もなく断片的に情報を得てきた双樹にはそれだけでも助かるというもの。
本来であれば、全てのパイロットが契約後すぐに学ぶものだろう。
「そうだな、まずは各パイロットの紹介からにしようか。もちろんある程度は知っていると思うけど」
そうして、藤はパイロットを一人ずつ説明してくれた。
双樹の次に新人と言える第六、第五パイロットは現在高校二年生の双子姉妹だ。第六パイロットは妹の葉月芽久。黄の瞳を持つ花柩は攻撃に特化した機体だ。先の第三十一生命体との戦闘で第七機が拝借したのも彼女の槍である。藤によれば姉よりは大人しいという話だが実際はどうだろうか。
そして第五パイロットは言わずもがな姉の葉月沙菜。妹の機体とは真逆の、防御特化型である水色の花柩に乗っている。会話をしてみれば荒々しさの際立つ少女であったが、自身の役割以上に双樹をサポートしてくれた人物でもある。仲良くなれるかはほどほど怪しいが、顔を合わせる機会があれば感謝は伝えなければならないだろう。
第四パイロットは緑の花柩を操る、桜庭一樹。三十代前半の男性で、とにかく穏やかな印象を受ける人物。藤曰く、一番の常識人らしい。パイロットらの中では少し異質な、精神操作型の花柩を持つ。
「ちなみに、桜庭さんと、第二パイロットの伊南さんはご結婚されてるんだ。桜庭さんはよく奥さんの話をしてくれるから聞いてあげてね」
紹介の合間に度々、人付き合いの上手い藤がそうやって付け加える一言メモはきっと有効に違いないと、双樹はひっそり心の中で記憶することにした。




