30話
『と、とりあえず解除っ!』
到底武器とは言えないものを顕現してしまった現在、貴重なセルファの核を集めて作ったような代物をこのままにしてはこの後どうなるか。
焦ったような双樹の声が朝桐らの部屋にもこだまする。
「だから言っただろう、それはもう形を変えない」
冷静に、この道の先駆者である青海川が断言する。
「……いや、あり得るのか?」
だが瞬時にその考えを翻した。
データを信用しながら、イレギュラーに研究の面白みを見出す。
双樹が解除と言った時、恐竜を引き寄せて嫌がる花柩のそぶりを、青海川は見逃さなかった。
「拒否するのは、できると知っているから……」
青海川が独り言のように呟くと、それをキャッチした朝桐がマイクを取って指示を出した。
「双樹、もう一度やってみてくれないか。今度はカイに直接頼むように、意識して」
『っ、はい!』
双樹が小さく深呼吸する音が聞こえて、一同もまさかと手汗を握る。
『葵、お願い。恐竜はまた俺が買ってあげるよ。……それを元に戻せる?』
優しく双樹が話しかけると、花柩は耳を傾けるようにぴたりと止まって、手元の恐竜を見つめた。
それからゆっくりと握力を弱めて、空間に差し出す。
『っ⁉ 複合核から花柩第七機へ、エネルギーが逆流していますっ!』
花澤が叫んだと同時、金の恐竜は再び放った光を集めるように輪郭を溶かし、するすると元の球体に収まっていった。
目の前の光景に、皆が言葉を失くして、静寂が部屋に宿る。
「……は、はは……はははっ……」
壊れたように笑いだす青海川。
草壁も研究員も唖然としたまま。
「蓮さん、凄い子捕まえましたね」
「……ああ、本当に」
その事実が何を示すのか。
「局面に合わせて、最適な武器を使用できる」
研究員がガラスの奥を見つめながらぽろりと零した。
『葵凄い! やればできる子!』
兄の賞賛に第七機はお馴染みのように足を踏み鳴らす。
青海川はため息をついた。
「これを正しく制御できればの話だがな……」
不安も消えてはしゃぐ二人に、試験室がまた激しい光に包み込まれると、今度は黄金の剣を花柩が握っていた。
そのなよなよとした剣先を天に掲げて誇らしげだ。
「おー! 凄い!」
それを見てぱちぱちと手を叩いて微笑ましそうな藤。
対照的な青海川は諦めたように無線を通した。
「次の戦闘機会までそれを完全に扱えるようにしておけ! 実践でそのようでは命取りになる。死にたくなければ、死なせたくなければ必死に訓練すること」
『……っ、はい!』
疲れ切った青海川は双樹のはっきりとした返事を聞いて、とりあえずは後を任せることにした。
振り返って朝桐の前に立つ。
「蓮、せめて夏宮が武器を問題なく使えるまで出動は禁止だ。分かっているとは思うが、前回が例外。約束を破るくらいなら上のジジイどもを黙らせて柊を呼び戻せ」
「ああ、承知した」
「……戸塚行くぞ」
「っ、はい」
研究員は名前を呼ばれて弾かれるように青海川の背を追う。
「冬夜! そいつを適度に休ませておけ」
「はーい!」
それだけ言い残して、二人は部屋を退出していった。
「だって、蓮さん」
冬夜がにこりと話しかけると、朝桐は面倒くさそうな表情を作った。
だが草壁も、これには黙っていられない。
「ダメです朝桐さん‼ しっかり休んでください!」
藤と草壁に挟まれて狼狽える朝桐。
「アイツ余計なことを……」
指揮官としてこなさなければならない仕事は山積み、さらに最優先は双樹の育成。
藤はそれを汲み取ったかのように、朝桐へ言った。
「俺が担当するよ、双樹のトレーニング。任せて」
彼なりに、どこか思うところがあったのだろう。
藤の瞳は、束の間の過去に帰る双樹と第七機に宿る幼さを映していた。




