26話
「さあ、着いた!」
藤の運転する車は、いつの間にか対セルファ機関の連結部を進み、本部の少し上層で止まった。
「わぁ~」
「どうだ、いいとこだろ」
中へ進めば暗闇とは一変、燦燦と光が降り注ぐ場所。
地下のはずなのに、車内から降りればたちまち優しい花の香りが鼻腔を掠めた。
中央には立派な洋館が聳え立っている。
「ようこそ、我らパイロット専用の寮へ」
今は一時的に父の住まいで過ごしているが、今後はここが双樹の生活する場所になる。
「この空間も本部と同じで植物以外は人工物さ。あ、花は桜庭さんが手入れしてるんだよ」
「へー、第四パイロットが」
周囲を細かく見渡せば、玄関口まで伸びるタイルの小道や、レンガの壁沿いには丁寧に整えられた草花が美しく生きている。
アンティーク調の玄関扉が開かれて藤の背中についていくと、中は雰囲気のある床板に上品なダークブルーの絨毯、レトロな調度品が綺麗にまとまっていた。
「一階は食堂や談話室などの共有スペースになってる。そっちは今度引っ越してきた時に見な。部屋はこっちだよ」
ホールの正面には二本の階段が踊り場を介して上階に繋がっていた。
「ここから右が女子部屋、左が男子部屋ね」
二階に上がりきれば真ん中にはテラスへのガラスドアがあり、それを境に左右へと廊下が伸びていた。
「双樹の部屋はここ」
そして、男子部屋が並ぶ方、左手前の部屋を案内される。
「ほんとに、ここ俺の部屋……?」
そこは想像していたよりも広い、十分すぎるほど丁寧で質の良い空間だった。
「もちろん。足りないものがあったら機関に言えばすぐに用意してくれるよ。しかも一人暮らしは初めてだろ? 困ったらすぐに言って。俺の部屋は斜め向かい」
「……隣は?」
「第一パイロット様」
げ、と思わず口をつく。
第四パイロットであれと思っていたが、まさか。
第一パイロットは天才的な実力とともにそのキツそうな性格でも有名だ。
いわゆる親しみやすさのない一匹狼。
「下手なことしなければ大丈夫さ。あの人の基準についてこれない人には、ちょっと厳しいだけで」
「それ本当に大丈夫か……?」
「まあまあその内打ち解けるって! 俺たち仲間なんだし!」
正直こればっかりは参考にならなそうだ。
まさにすぐ他者と仲良くなれる人の思考。
「とりあえず、これで双樹が次来た時には何とかなるよな。間違えて女子の方には行くなよ、おっかないからな」
藤は部屋のドアをパタンと閉じて、先に階段を下っていく。
双樹はテラスの方を見てふと疑問に思ったことを口にした。
「あのさ、当たり前かもしれないけど夜になったらここ暗くなるの?」
「そうだよ! 実際の時間と連動して照明が変わるし、季節によって室内温度も細かく調整されてる!」
「凄い、そこまでこだわってるんだ」
もう一階に着いた藤が声を張り上げて答えてくれる。
「外との感覚が狂うと色々とやられちゃうからね! それより双樹! 早く来なよ! 本部に行くぞー!」
「分かった今行く!」
案外素敵な場所で父の不安も拭ってやれそうだった。
双樹は待ちきれない彼に聞こえるよう返事を投げ、急いで階段を下りた。
そのまま玄関口へ。
「おいそっちじゃないよ」
「え?」
行こうと思えば、不意に後ろから藤の声がする。
「入り口はこっち」
振り返れば、階段が続いていた踊り場の下。先ほどは気にも留めなかったが、その暗がりにはぼんやりとランプで照らされたシックなエレベーターがあった。
チン、とベルが鳴って扉が開かれる。
「どうぞ、本部へ繋がる秘密の通路さ」




