25話
車内のラジオから流れるニュースに、軽やかな鼻歌。
暗い青を持つその髪色は藤の肌の白さを際立たせ、横から見る鋭い顎のラインが男性らしさを表していた。
「そんなに見つめないで、穴が開いちゃう」
「ごっ、ごめんなさい……」
葉月沙菜はそのように感じさせなかったが、やはりこの間まで一般人だった双樹にとって目の前の彼は有名人だった。
藤が迎えに来るとは聞いていたが、実際に会えば人見知りと緊張で手元のスクールバッグを握り俯いてしまう。
「あぁごめん! いや、その、嬉しくて」
「え……?」
「チームで自分より年下の男の子がいるの初めてだから。ちょっと浮かれてたんだ」
確かに、藤は大学生くらいの年齢だったはずだ。
気恥ずかしそうに笑うその表情に双樹の身体の力が抜ける。
「俺一人っ子だし、弟ができたみたいでさ」
「弟……」
「あ、嫌だった……?」
「……いえ、嬉しいです。こっちに来てから、年の近い友人もいなくて」
「そっかそっか。じゃあ今から俺は双樹の兄で友達だな。まずはその敬語から止めること!」
「えっ、……わ、わかった、冬夜」
すると、スッと横から腕が伸びてきて双樹の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ちょ、ちょっと!」
「ははっ! しっかり面倒見てやるからな」
「もう……それで、今日は何するんだ?本部に来いとしか聞いてない」
「ああそうか、薊さんのせいでさっきスケジュールが確定したとこだしな」
「薊さんって?」
「花柩の開発者。ただ気を付けな。研究のことしか頭にない超変人だから」
思えば、あれだけ花柩やパイロットについてメディアで騒がれていてもその生みの親については聞いたことがなかった。
「今日は、共同宿舎を案内してから本部へ向かう。薊さんの立会いの下、七機のメンテナンスとか、武器の顕現かな」
藤が予定を伝えたその時、ラジオの音声が無意識に耳に入った。
『――陽都の山中から出現したとされる三十一体目のセルファは、対セルファ機関の派遣したパイロット二名によって殲滅されました。現在は東火宮にまで進行したセルファの解体作業も落ち着きを見せ、街の修繕作業も進んでいるようです。……やはり今回、注目されているのは七機目とされる新たな花柩ですが、その正体については未だ政府から情報は開示されておらず――』
「……みんなどうして、そんなに中身が気になるんだろうな」
「さあね。でも、表立ってしまう以上、あることないこと言われたりもするし。もし嫌なこととかあったら俺とか、蓮さんにでも言いな」
「……うん、ありがとう」
双樹が思っていたより、ずっとあたたかい人のようだった。
ようやく、息をゆっくり吸えたような。
「そういえば、初陣で敵にトドメを刺したのは驚いたよ。俺の時なんか先輩の後をついて、結局何が出来たのか分からなかったのに」
「いや、あれは……ちょっとでも遅ければ死んでたよ。沢山の人に迷惑かけたし、今でも生きてたのは奇跡だと思ってる」
「確かに、黄金の青年は奇跡の積み重ねで生まれたようなものだしな。話には聞いたけどまさか力のないカイなんて」
「ちょっとその異名みたいなのやめろ!」
「なんだよ恥ずかしいのか~? このこの!」
またぐしゃぐしゃと頭をかき回される。
この柔らかい距離感が、双樹にはなんだか擽ったかった。
「~っ前見ろ、前!」




