24話
「転校生を紹介する。夏宮双樹君。ご家庭の事情で陽都から東火宮に引っ越してきたそうだ。四月も終わりになるが、夏宮君が追いつけるように皆サポートをよろしく頼んだよ」
はーい、と学生らが気だるげに声を上げる。
双樹が指定された席に着くと、そこかしこからひそひそとした話し声が耳に届いた。
「こんな時期に転校生……?」
「入学早々に前の学校でやらかしたとか」
「普通に親の転勤じゃない?」
「陽都ってこの前セルファが出たとこじゃん」
「あーなるほど、それで」
双樹は五階の教室窓から広がる青空を眺めて、始まった授業を遠くに聞いていた。
第三十一生命体討伐後、双樹の生活は様変わりした。
諸々の処理の後、双樹は対セルファ機関と契約を結び、正式に花柩第七機を操縦するパイロットとなった。
よって訓練や出動に備えて、生まれてからずっと過ごしていた陽都を離れ、東火宮に単身赴任していた父の住まいに一時的に引っ越したのだ。またそれに伴い、本来通う予定だった地元の高校を辞退し、本部に近いこの高校に編入することとなった。
田舎で暮らしていた双樹には、大都会の中心でブレザーを纏っている自分がなんだか落ち着かない。
「ねぇねぇ夏宮君」
ぼうっとしていると、隣の女子がこっそり双樹に話しかけてきた。
「なに」
人見知りな双樹は控えめに振り向いた。
「夏宮君って陽都に居たんでしょ? 実際にセルファ見たの? ほら、東火宮にもセルファは来るけどさ、私たちはいつも先にシェルターに避難してるから見たことなくって、どんなだった?」
興味津々なその瞳は、双樹の心を冷たくさせていく。
「……見てない」
「そっかぁー。でもさ、よかったね! パイロットたちが敵を倒してくれたし!」
「……」
「葉月先輩もかっこよかったなぁ。そういえば第七パイロットはさ、……」
もう女生徒に目を向けるのはやめて、片肘をつきながらぼんやりと黒板を見つめる。
双樹にとって、まだ日常に居る彼女のことが煩わしく感じられた。
「夏宮ー、俺らと遊びに行こうぜ」
「私たち、ちょっとした歓迎会をしようと思って」
「カラオケとか、ご飯とか」
長かった一日目を終えて双樹が帰ろうと席を立つと、数人の男女が側を囲んだ。
若者らしい放課後の提案に見えるが、実際はどうかも分からない。
それに、今の双樹には到底行く気も起こらなかった。
「いや、この後用事があるから……」
「えー用事って?」
「まぁまぁとりあえず一緒に帰ろうよ」
適当に断ってあしらうはずが、譲らない同級生らに思わずため息が出そうになる。
「あのさ、……」
人間関係など構わず本心が口をつこうとした時、教室が騒がしくなった。
「あれ見て‼ 校門のところ‼」
一人の生徒が窓際でそう叫ぶと、双樹の周りもそちらに引き寄せられた。
「黒い車停まってるとこ?」
「誰あの人」
「よく見てよ‼」
「もしかして……藤冬夜⁉」
その名前に、双樹はハッとして急いで教室を出た。
「あ! おい夏宮待てよ‼」
少し遅れて先程の生徒らが追いかけてくるが気にしてはいられない。
双樹は目立たず静かに高校生活を送りたいのだ。
このままではそれも叶わない。
「やっぱ夏宮君も気になるのー?」
「そりゃアイツも会ってみたいだろ!」
下駄箱を乱雑に開けて、玄関を飛び出す。
「だって第三パイロットだぜ⁉」
正門の前に着けた黒塗りの車、その側で立つ男がこちらに気づいて手を振った。
「双樹くーん、迎えに来たよー!」
双樹は慌てて駆け寄り、静かにしてくれとポーズを取る。
「なになに、双樹くん、君って案外モテるんだね」
「は?」
後ろを振り返れば黄色い歓声と人だかりができていた。
「本物だ!」
「ちょっとどういう関係⁉」
「まさか、夏宮君って……」
言いたいことは沢山あるが、とにかく今すぐにこの場から離れたい。
「お迎え、ありがとうございます。藤さん」
「蓮さんの頼みだからさ。冬夜でいいよ、新人くん。さ、乗りな」
藍の花柩を操る第三パイロット、藤冬夜。
運転手にしては大物すぎる、今日の“用事”のパートナーだ。




