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キド  作者: 野乃
第2章
22/33

22話


 『……なるほど、敵があの緑の物体を放っている間が狙い目だと』

 「はい。今のセルファは先ほどよりも目を閉じる頻度が高い。それはつまり、遠隔攻撃に力を割いていることで、膜を張って目を守るためのエネルギーが足りないのだと思います」


 確かな口調で双樹は言う。朝桐は瞬時に判断を下した。


 『君の観察眼を信じよう。私よりも現場の声の方が確かだ。』


 双樹の拳にキュッと力が入る。


 『沙菜、隙を作れるか』

 『っ、短剣に全エネルギーを出力!』


 花柩第五機は構えていた盾の裏から、刃の太い剣を取り出した。


 『了解。現在使用している武器へのエネルギー接続を解除。これに伴い、サブ武器へのエネルギー注力に切り替えます』


 花澤が応答すると、その短剣は徐々に薄青く光を放ち始めた。


 『いい⁉ 今からこの盾を落とす! アンタは同じスピードでその後ろに隠れながら、一度奴の視界から外れるの。花柩ならできる。』

 「分かった」

 『ラストチャンスよ』


 今この瞬間、全ては双樹の手にかかっている。


 『3……2……1っ‼』


 パッと花柩の手から大盾が離された。

 そして、次々と襲い掛かる緑を第五機が短剣で切り落としていく。

 敵のフォーカスは沙菜のままだ。


 「っ‼」


 双樹は息を詰めて瞬時に花柩を真下に向かわせ、落下するそれをピッタリと追いかけた。


 「……まだ」


 できる限りセルファに気づかれないように、低位置からの飛上を目指す。

 段々と、地面が近づく。


 『今だ‼』


 朝桐の指示に弾かれるように、第七機は線を描いて斜め上へと飛び上がった。

 すぐ下では重力に逆らわずに落ちた盾が派手な音を上げて建物を押しつぶした。


 『標的、第五機への攻撃を継続! 第七機は気づかれてません‼』


 花柩第七機はセルファの足元から裏に回り込み、そのまま一気に背中をなぞるように駆け上がる。


 『っ第五機、右脚、左腕を損壊!』

 「葉月!」

 『アタシのことは気にせず行って‼ 翼とカイさえあれば問題ない‼』


 だが無線からは第五機のダメージを伝える報告が続く。

 花柩が落ちるのも時間との戦いだ。


 「っ、行けぇぇっ‼」


 セルファの頭を追い越した花柩。

 しなやかな身体をクルリと舞わせて、天から再び槍を構えた。


 「葵‼ 今度こそ刺せ‼」


 第七機が全身の力を込めて降り下ろす。

 ようやく気配に気づいたセルファが上を見上げた瞬間、それは見事に右目を打った。

 膜は双樹の攻撃を遮らず、確かに柔らかい眼球を穿った。


 グワァァァァ‼ と敵が悲痛な声を上げ、遠隔攻撃を止める。


 『やるじゃない‼ 予測は確かだったのね』

 『双樹さん! その奥に核があるはずだ! 完全に破壊すれば敵は沈黙する!』


 暴れるセルファに食らいつきながら双樹がさらに武器を押し込めると、刃先が硬いものに辿り着いた。


 「これが核⁉」


 セルファが頭を揺らすことで周囲の肉が裂け、埋まった白い物体が見えていた。

 パキッ、と一つひびが入る。


 その時、第七機もミシミシと音を立て、コックピット内にまで強い衝撃が伝わった。


 「なっ⁉」

 『花柩第七機が敵の両腕に捕らえられましたっ‼』


 それは一瞬のこと、痛みの根源を潰すかのようにセルファが花柩を握りしめた。

 双樹は形の歪んだ大きな手から逃れようと試みるが、一ミリも胴体を動かすことが出来なかった。


 『……まさか‼』


 怪物はゆっくりと顎を上げ、大きな口を広げる。


 『ウソでしょ⁉ あのまま撃つ気⁉』


 花柩の機体を光らせるその輝きはどんどんと大きさを増していた。


 『今すぐ離脱するんだ‼‼ 早く‼』


 この距離で攻撃を受ければ死ぬに決まっている。


 「っそれでも‼」


 双樹は槍をさらに深く突き刺した。

 結果がどちらに転ぼうと、


 「この花柩で眠れたら幸せだ」




 「強制射出を‼ 花澤急げ‼」

 「ダメです‼ 応答しません‼」

 

 朝桐は目を見開いた。


 「……花柩が、拒んでいます」


 恐れた表情で花澤が報告する。


 「このようなこと……」


 過去にも、花柩が人の意思に背く事例はあった。

 だがそれは全て、パイロットを守るため。


 「幼子だからと言うのか」


 絶対的な最終手段は絶たれ、こちらに打てる手はもうない。


 「沙菜」

 『向かってる‼ でもこの距離じゃ……‼』




 「なんで、なんで逃げないのよ。……だから嫌だったんだ、身内が死んで、すぐ花柩に乗るヤツなんか、正気じゃない」


 セルファは呻きながらも、第七機に照準を定める。


 「でもアタシの目の前で死なないでっ」


 第五機の最大速度でも、間に合わない。

 沙菜がヒュッと喉を鳴らしたのと同時だった。

 

 「双樹ーーっ‼‼」




 一瞬、まばゆい光が周囲の視界を奪った。

 残像を残す光線が、曇り空を打ち抜いたのだ。


 獣のような叫び声は途絶え、街に静寂が戻る。

 

 第三十一生命体は、空を見上げたまま、瞳に槍を伸ばして動くことはなかった。


 ぽっかりと空いた空の隙間より射す細い陽の光が、金の翼を広げた花柩を照らしていた。

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