21話
セルファは、ただ何かを目指して進行する。
そして、無差別な攻撃をしない。
人間が攻撃するまで先に手は出さず、反撃を繰り返すのみ。
『っ危ない‼』
先行していた花柩第五機が動きを止めたかと思えば、咄嗟に振り返って第七機の身体を押した。
ヘドロのような玉が二機の間を勢いよくすり抜けて、後方の街を破壊する。
『……アイツ、この機体を覚えてた?』
『二人とも無事か』
『はい、問題ありません。ただ……』
『先制攻撃、初めてのケースだな。花澤、この件は薊に報告を』
『はい!』
『また予測できないことが起こるかもしれない。いつも以上に慎重に警戒を』
『了解』
心臓がドクドクと脈打っていた。冷静な無線に取り残されて、また不思議な感覚が双樹の心を浮かせる。
それが花柩にも伝わったのか、それとも葵の好奇心を撫でたのか。
『しょうがない、様子を見ながらゆっくり近づくわよ、ってちょっと⁉』
突然、花柩第七機がセルファに向かって急発進した。
『~アイツっ! 何がじゃじゃ馬よ‼』
沙菜は旋回し、急いでその後を追う。
『ちょっと聞こえてるの⁉』
無線で沙菜が叫ぶと、困惑した双樹の声が入る。
「お、俺じゃなくて葵が勝手に……!」
『それを制御するのがアンタの役目でしょうが!』
「っ、」
『こうなったらそのまま突っ込むわ‼ アタシが援護するからしっかり弱点を狙うのよ』
セルファの巨体がすぐそこに迫る。双樹は一つ深呼吸をして、手を掛けていた操縦席の先を強く握りしめた。
「右目……右目……」
第七機がさらにスピードを上げ、敵の正面に飛び込む。セルファはそれを掴みかかろうと片腕を振り下ろした。
瞬間、双樹の頭上に現れた花柩第五機が大きな盾を掲げてその攻撃を防いだ。
『っ今よ‼』
双樹は意識を集中させ、花柩を垂直に飛び上がらせる。そして敵の上を取った。
不格好な態勢ではあるが、何とか槍を振り上げる。
セルファの大きな目がギョロリと双樹を視界に入れた。
「ひっ……!」
ぞわりと鳥肌が立って、嫌悪感をそのまま突き刺した。
『花柩第七機、敵の右目に打ち込みました‼』
花澤の高揚した声。だが事はそう簡単には進まなかった。
「なっ……⁉」
槍が眼球に触れる一瞬、まるで瞬きをするかのように固い皮膚が瞳を覆ったのだ。花柩は武器が弾かれた反動で後退する。
『ぼさっとしない‼』
沙菜は動きの鈍い第七機の腕を引いてセルファと距離を取る。
『沙菜‼ 後ろだ‼』
刹那、警告する朝桐の声。
沙菜は瞬時に反応し、第五機が双樹を背に振り向いて盾を構える。
パンッと緑の大玉が銀色に輝く盾を汚し、ドロドロと地に落ちていった。
『っ、別の遠隔攻撃⁉』
当然それは一度で止むはずもなく、セルファの身体から無数に玉が生まれては双樹らの方に飛んでくる。
花柩第五機はただそれを受け止めることで精一杯な状況だった。
『どうしろって言うのよ! 後ろにコイツを守ったままじゃ動けない!』
激しい爆撃音の中、双樹は無力さから唇を噛む。ただコックピットの中から大きな翼と巨大な敵を見上げることしかできない。
「……諦めるな、…………葵のために、考えろ」
だがここで終わらせるわけにはいかない。引くことなど双樹の選択肢にはないのだから。
小さく息を吐きながら思考を巡らせる。
『……これ以上は消耗戦になる。沙菜が殿を務め撤退を、』
その時、双樹は気づいた。
幾度となくその気色の悪い目を恐れてきたからこそ。
攻撃を繰り出すセルファの、瞬きが多いことに。
「朝桐さん、もう一度俺にチャンスを下さい」




