17話
『朝桐指揮官‼ 強制解除の許可を‼』
試験室に職員の緊迫した声が反響する。
「朝桐さん……‼」
草壁が判断を急かす。選択は一つしかない。
朝桐はただ、花柩の瞳をじっと見つめている。
危険なのは重々承知。だが諦められなかった。
ギリギリまで粘れと、朝桐の鋭い感がそう言っている。
「まだ……」
こちらの喧騒などつゆ知らず、花柩は虚ろに朝桐を見下ろしたまま。
「もう少し……」
朝桐を呼ぶ声がサイレンのように耳をつんざく。
「……ここまでか……」
本気にしていたのはきっと朝桐だけだった。それでも彼を死なせたいわけでは決してない。
もう許容できる限界を迎えていた。
朝桐は後ろ髪を引かれる思いでマイクに手をかける。
「……パイロットと花柩第七機の接続を、」
言いながら視線を上げた。
その時、花柩の瞳が黄金に煌めいた。
「え……?」
背後の草壁が震えた声を漏らす。
朝桐は瞳孔を広げて、そろりと体を起こした。期待しながらも、信じられない光景が目の前にある。
花柩の強靭な肩がぐらりと揺れ、重い一歩を踏み出した。
「う、動いた……花柩が……あのカイで……?」
呆然と立つ草壁も、理解した。
第七機が両腕を後ろに引く。
花柩に魂が宿ったのだ。
「っ⁉ 朝桐さん危ないっ‼」
花柩に意思が宿ったのだ。
白く大きな両の手が、勢いよくこちら目掛けて迫る。
バンッと分厚い耐久ガラスが叩かれて、ヒビが入る。
それでも朝桐はその場を動かなかった。それどころか、うすらと笑みを浮かべてさえいた。
「誕生したんだ」
高揚が声色に乗る。
「最弱のカイを操る、最強のパイロットが」
花柩は顔を寄せて興味深そうに中を覗いている。
『こら、葵! 一旦落ち着けっ』
慌てた双樹の声が通信機を通して流れる。だが、花柩はさらに興奮気味になって足踏みを繰り返している。
地震のように床が揺れる中、朝桐は声を上げて笑った。
「ちょっと指揮官‼ それどころじゃないですよっ‼ ああもう、めちゃくちゃだ」
「いやはや、なんとも無邪気で、元気で、好奇心旺盛な子じゃないか」
七人目は、無力とされたキドをカイに持つ、史上初のパイロット。
花柩第七機の瞳になぞらえ、“黄金の少年”と呼ばれた。