15話
機内は途端に静寂へ包まれた。
ぬるい温度の中、双樹は世界の中心に立たされている。
また一つ、深呼吸をした。
そして、心の中で願う。
動け。
「……」
だが何度思っても、花柩は沈黙したまま。
早くなる鼓動を抑えるように、ぎゅっと拳を握りしめる。
「……っ葵、動いて……葵、お願い……」
不意に双樹から言葉がこぼれる。
それでも、その悲痛な声に花柩は耳を貸さなかった。
「無理だ……」
そう、司令室の誰かがつぶやいた。
項垂れる花柩の映像と、双樹の声に目を逸らす者もいる。
「花澤さん、これは……」
「見てられませんね……これ以上はもう不可能だと思います。そもそも前提からして出来るはずがなかったんですよ」
花澤はインカムのコードをいじりながら液晶を見上げる。
その時、心臓の飛び上がるような警告音がけたたましく響き渡った。
「っ花柩第七機の機体温度が急上昇しています‼ またカイ培養液の大きな揺らぎを確認‼」
一人の職員がモニターを目で追いながらそう叫んだ。
「まずいっ‼ 花柩が自己破壊しようとしてる‼」
花澤は立ち上がって指示を飛ばし始めた。
「試験室の朝桐指揮官に連絡を‼ パイロットにはコードを外すよう伝えて‼ 応じない場合には強制解除するわ‼」
「しかし……!」
「こうなったらパイロットの命が優先よっ‼ たとえ花柩を無駄にしても……‼」
冷や汗が彼女の手に滲む。
「ダメです‼ パイロット応答しません‼」
先ほどまで司令室に響いていた双樹の声は、いつの間にか止んでいた。
「貸して‼ 私が代わる……!」
花澤は無理矢理回線を奪い取った。
「双樹さん聞こえる⁉ 今すぐコードを外して! 花柩が拒絶反応を起こしてるの、このままだと貴方諸共、弾け飛んで死ぬわよっ‼」