14話
ふらりと後ろを振り返れば一人の職員がいた。
「コックピットへお入りください。その後は機体内の通信機から指令室と繋がりますので」
すると背後で大きな音がして、もう一度見た時には花柩の頭上のハッチが開いていた。
右の方から銀の梯子が流れてきて双樹とコックピットを繋ぐように強く固定される。
職員が柵につけられていた小さな鍵を外すと、一部がドアのように手前へ開き、双樹はそれ以上何か言われる前に一歩踏み出した。
梯子から伸びる冷たい手すりを掴んで慎重に渡り、内部側面にもピッタリと張り付いていた続きを降りる。
足が着くと、双樹はその暗さに驚いた。小さな丸い空間で、特殊な形をした大きな座席が中央にあるだけ。他は壁に囲まれていて照明もない。ただ一つ、小さな緑のライトが点灯しているのみ。
ざざざ、と電子の雑音が鳴った。
『夏宮双樹さん、聴こえていましたら応答してください』
「ええと、はい、聴こえてます」
突然の通信に双樹はぴたりと動きを止めて、どこに答えたらいいかも分からないままとりあえず返事を投げた。
すると部屋全体は常に声を拾っているらしく、すぐに指令室から返答があった。
『ありがとうございます! わたくし、夏宮双樹さんの指揮系統を管理いたします、担当の花澤二奈と申します』
その苗字には聞き覚えがあって、まだ見ぬ彼女に不思議な親しみがある。
『それでは操縦席へお掛けください。席上部にコードがありますので、チョーカー裏への接続をお願いいたします』
双樹が陰ったシートに腰を下ろす。思ったよりも深く身体が沈み込んだ。
「コード…これか?」
上半身を捻って手元を探ると、一本の線が引っ掛かった。元を辿れば座席頭部のくびれから伸びている。
双樹はそれをうなじに持っていって、凹みにあてがった。
カチリと音が鳴る。特に何か起こった様子はない。
『花柩とパイロットの接続を確認。ハッチ、閉めます』
その言葉通り、入り口の丸い穴が自動的に塞がれて、いよいよ中には一つも光が入り込まない。
双樹は暗闇の中、椅子に背も預けず落ち着かない様子で肘掛けに手をかける。
『試運転につき、キド素力値を測定。カイ、……基準値を大幅に下回っているため、測定不能。……ぱ、パイロット、基準値を大幅に上回っているため、測定不能……』
花澤の戸惑う声がスピーカーに乗って館内に響き渡った。
誰もが耳を澄ませた。その異常さに。
そして誰もが思った。こんなに惜しいことはないと。
『……全ての準備が完了しました。花柩第七機、いつでも起動できます。……双樹さん、あとは貴方が願うだけです。動けと、カイに思いを伝えるだけで、花柩はその通りに動きます』
双樹は目を閉じて、一つ深呼吸をする。
『集中もされたいでしょうし、こちらからの通信は一度ここで切ります。また、五分後にお繋ぎしますね。双樹さんの声は聞こえているので、何かあればいつでもおっしゃってください。……それでは、良い結果となることを祈っています』