表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キド  作者: 野乃
第1章
13/21

13話

 双樹は涙が枯れ果てる前になんとか泣き止んだ。

 そろそろと起き上がって、赤くなった目を入口の洗面で軽く冷やす。

 顔を上げるとポタポタと雫が伝い、双樹は鏡を見て笑った。服に着せられている己が、まるでコスプレをしているかのようで可笑しかったのだ。

 まだ少し痛いがどこかすっきりとした頭で部屋を出る。少しばかり余裕のあるブーツがゴツゴツと廊下を軋ませた。

 またガラス張りの壁が左に続いている。

 作業員が慌ただしく動き回っているのに対して、双樹に横顔を晒す花柩は物凄く静かに見えた。息をしていない器なのに、なぜか鳥肌が立つ。


 「あれ、…葵だっ」


 双樹は丁寧に運び込まれてきていた立方体のボックスを見下ろし、すぐにそれがカイだと気づいて走り出した。

 頑丈な箱はどんどんと花柩の足元に近づいていっている。

 双樹は会いたかった。姿形が変わっても、会いたかった。

 運ばれる葵を目で追いながらひたすら進み、行き止まりを曲がると、扉前に職員が一人立っていた。

 あれが入口だと確信して、着くなり双樹は勢いに任せて懇願する。


 「っ入れてください‼」

 「え⁉ ぱ、パイロット、今は…」


 許可が下りていないのか、はっきりとしない職員。

 双樹は痺れを切らして、職員の隙をついてドアノブを思い切り押した。


 「あ‼ ちょっと‼」


 中へ入れば、金属の音や作業員の声が部屋中に反響していた。

 手すりを掴んで下方を確認する。箱は開かれ、数人の男たちがカプセルに機械を取り付けているところだった。

 双樹は制止する声を置き去りにして、鉄骨の階段を駆け上がる。

 一方で花柩もカイを投入するための準備が着々と進められていた。

 アームが花柩の顎を持ち上げて、完全に顔を上へと向かせる。そして、無理矢理その大きな口がこじ開けられた。

 カンカン、と鉄とヒールの擦れる音。双樹はようやく、花柩の頭より少し高い場所にあった踊り場に出た。手すりを強く掴んで、上半身を乗り出す。

 と同時に指揮官のアナウンスが鳴り響いて、花柩の顎下からアームに繋がれたカイが現れた。双樹の目の前にカプセルに入った胸骨がある。

 透明な液体に浸けられて、小さな気泡が一つ浮かび上がっては消えた。

 カプセルが大きすぎるように見えるほど、小さな小さな骨だった。

 ギリ、と手のひらのスーツが鈍く鳴る。

 あの時、弟がぎこちなく買い物袋を抱えながら我が家へ帰った後ろ姿から、初めての再会。あまりに残酷だった。これが葵かどうか判別することもできない。

 カイはそのまま、すんなりと花柩の喉奥に落とされてしまった。

 双樹は呆然としたまま、花柩が元の形へと戻されていくのを眺める。


「パイロット、搭乗準備ができました」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ