1話
地球に誕生した人類は長い時をかけて文明を築き、自然の恐怖に抗いながら、醜い争いで野を焼いては進化を遂げた。
そうして破壊と再生を繰り返し、遂に人間は平和を手にした。
花は咲き誇り、親を呼ぶ二つの産声が今日も響き渡る、そんな青い空が現代の日本にも確かにあった。
――『十五年前の七月二十一日、霊華山の遺跡から第一生命体が目覚め、我々とセルファとの戦いが始まりました。未知の大型生物が突如として現れ、人類はその脅威に成す術もないという危機的状況。しかし、政府によって対セルファ機関が発足されてから状況は一変しました。その鍵となったのが、特定のキドだけが操れるという巨大兵器、花柩の開発です。幸いにも第一生命体は、当時弱冠十一歳だったパイロットによって殲滅され……』
「ちょっと双樹! 葵と買い物に行ってきてくれない? 玉ねぎとケチャップ!」
「もうまたぁ~?」
「家にまだあると思い込んでたの! アンタだって春休みでゴロゴロしてるだけでしょ? 高校受験が終わってからずっとその調子で……。葵ー! お兄ちゃんが外連れてってくれるってー!」
「いや俺行くって言ってなっ……!」
とても綺麗とは言えないが古き良き日本家屋の一室。
バタバタと廊下を走ってくる音が聞こえてきて、双樹はため息をついた。
「にぃに‼ おそとっ‼」
クルクルのくせ毛を浮かせて、先ほどまで遊んでいたのだろう恐竜のおもちゃを握りしめた四歳児。そのキラキラの目に見降ろされればもう動かざるを得なかった。
双樹が畳に投げ出していた身体を起こせば、葵は興奮から嬉しそうにその場で足踏みを鳴らしている。
「仕方ないなぁ……そこのスーパーまでだからな。寄り道はなしだぞ」
「うんっ‼」
「いい返事だ。葵隊員! おもちゃを片付け、いつもの帽子を装備してきたまえ。五分後に玄関に集合だ」
「いえっさー‼」
小さな手で敬礼の姿勢をとった幼子はきゃっきゃと任務を遂行しに行った。
入れ違うようにエコバックと小銭を用意した母が戻ってくる。
「まったくなんであなた達こんなにも違うのかしら。あの子ったら常に身体を動かしてないと気が済まないからもう大変よ。はいこれ、お願いね。今日は空も晴れてるしきっと気分が良いわよ」
「俺はゆっくりしたかった……」
のそのそとそれを受け取れば、にぃにまだー⁉という声が玄関口の方から響き渡る。
「ふふ、ほら隊長、呼ばれてるわよ」
「ったく、靴まで履けよー!」
「あ、そうだ、この間貰った名刺捨てちゃってもいいのよね?」
「いいよ、もう断ったし。それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい。葵をよろしくね」
笑顔で見送る母に小さく頷いて、双樹は弟の元へ向かった。
「さて、今のうちに掃除でもしようかな」
――『五か月前、白木島で目覚めた第三十生命体は島民に多くの被害を与えましたが、機関のパイロットらが殲滅に当たり、無事討伐されました。しかしながら、今後新たに三十一体目のセルファが現れることが危惧されており、引き続き警戒を強めています。この壮絶な戦いは、一体いつまで続くというのでしょうか……』