プロローグ:黙示録の時代
ひとたび瘴気が空を覆い、星が黙す時、聖母の影に語られし言葉を記せ。
東には鷲の目が在りて、空より真理を射る。
西には獅子の咆哮があり、沈む陽を裂く。
南にて牛の足は地を踏み、古の誓いを呼び覚まし、
北に人の声は哭きて、記憶より魂を掘り返さん。
四面の聖なる顔は一にして、道を開く鍵。
宝とは肉にあらず、血にあらず。されど、血のうちに生まれる者なり。
汝、それを識りし時、終わりは始まりと成る。
ーー聖母黙示録より
それは、遥か昔に記された黙示。
大地を蝕む瘴気に飲まれ、人々が絶望に沈んだ時代に現れた、一人の大聖女によって広まった。
彼女はノクスの民と共に、五つの要所に結界を張り、瘴気を退け、王国に再び光をもたらした。
ノクスの民──浅黒い肌に紅い瞳を持つ者たち。
宗教に属さず、己の長を敬う民族。
彼らは教会の加護にも、王の命にも従わず、ただ“大聖女との古き約束”に従い、瘴気を払う結界を守り続けている。
王族や貴族、教会、民草と敵対するつもりも、交わる気もない。ただ静かに、自らの使命を果たす。
その存在は忌避されながらも必要とされ、時に信じられ、時に誤解されてきた。
だが、五世代が過ぎ、王国の民は堕落し、教会もまた腐敗した。
教会は信仰を取り戻すため、魔法省を追われた野良の魔術師を囲い入れ、
“瘴気もどき”を生む装置を密かに作らせた。
偽りの災厄を演出し、それを祓って民の心を再び掴むために。
だが、本物の瘴気はノクスの民にしか祓えず。
その罪深き策略は、やがて一つの運命を動かすことになる。