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9話 製鉄所の戦い

“使魔召喚 浅間入道”


夜叉の背後にトラックが優に入ってしまいそうなほど巨大な影ができる。

そしてその中から巨大な上半身が浮き出てきた。

巨人だ。


黒い巨体に白い紋章が刻まれている。


「ぶっ潰せ!」

夜叉が叫ぶと巨人は颯に向けて右拳を振り下ろした。


ズドン


颯は素早く避けた。


メキメキメキ


彼の後ろに止まっていた大型トラックが激しい音をたてて潰れる。


颯は全ての指を振り下ろされる拳に鋭く向けた。

巨大な斬撃が発生し、浅間入道の左腕を胴体ごと真っ二つに切り裂いた。

颯の大技、大輪斬だ。


だが巨人の体はみるみるうちに再生した。颯は素早く溶鉱炉棟の屋根に飛び乗ると人差し指を巨人の胸あたりめがけて突き出す。


ジュッ


彼の指の先から真っ直ぐの斬撃が放たれ、巨人の胸を貫通した。

すると驚いたことに、先ほどの巨大な斬撃ではびくともしなかった巨人が硬直し、ドロリと溶けて消えた。


(強い、夜叉のとっておきの使い魔があんな簡単に…)


夜叉は残念そうに呟いた。

「まあそりゃそうか…。こいつで君に勝てるわけないもんね」

「『この使い魔は胸の中心に命中必死の弱点を持っている代わりに驚異的な再生能力と攻撃力を誇るんだ』…だろ?」

「ふーん。よく覚えてるじゃん」

夜叉の顔は後ろ姿で見えない。


颯が屋根の上から斬撃を放ち、自身も夜叉に向けて飛ぶ。


夜叉は触手を飛ばし、斬撃と相打ちさせると指を鋭い鉤爪に変えた。

二人が激しくぶつかり合う、近接戦だ。


普段の夜叉ならここで使い魔を召喚しただろうが、まだ出さない。


次の一手が決まっているのか…それとも適当な使い魔では意味がないと踏んだのか…


颯は適度に距離を取りながら斬撃と直接攻撃を織り交ぜた攻撃を繰り出す。


彼の斬撃は夜叉から触手を一本、また一本と的確に潰していった。


そしてとうとう全ての触手を潰されてしまった!


颯は素早く2本指を夜叉に向けて構える。


幾千もの細かい斬撃が発生した。


すると夜叉はドロリと溶けて消えた。

そして次の瞬間、颯の真後ろに渦が発生し、そこから夜叉が現れ、彼を蹴り飛ばした。


ガンッ


颯の小さな体が吹っ飛び、鋼材の山に衝突した。

激しい金属音と共に鋼材の山が崩れる。


だが妖力で守られている彼の体は、夜叉の蹴り以外のダメージを受けなかった。


ヒュンヒュンヒュン


崩れる鋼材の中から三発の斬撃が夜叉に向けて飛ぶ、彼女は素早く体を曲げ、これを避けた。


颯は夜叉が斬撃を避けるために作ったわずかな隙にを逃さず、弾丸のような速さで彼女に追撃を加える。


ジッ


颯の手刀が夜叉の首筋をかすめる。


彼女の首にわずかに血が滲んだが、すぐに止まった。


二人が互いに飛び退き、再び距離ができる。


夜叉が左腕で彼を指差し、右腕を勢いよく引く。

すると彼の周りから4本の黒い触手が現れ、彼を締め上げようとした。


颯は両腕を広げ、素早く振った。

すると彼を中心に竜巻のような斬撃が発生し、触手を全て薙ぎ払った。


「新技か?なかなかやるじゃないか」

「僕はこの数百年間を寝て過ごしたわけじゃないからね」

「そうか、じゃあ私の新しい使い魔を見せてやるよ。とっておきの奴をな!」

夜叉はニッと笑うと力強く合掌した。


“使魔召喚 富士大鯰”


ズズズズ…

地面一帯が黒い暗闇へと変わった。

何も出てこない。だが何かがいる。この足元の地下で何かがうごめいている。巨大な何かが…。


ザザン


巨大なナマズが颯の足元から飛び出した!

真下から現れた巨大なナマズは彼を一口に飲み込もうとする。


「クソッ」


颯が大量の斬撃を発生させ、巨大なナマズを切り刻んだ。


これだけの攻撃を受ければ流石の大ナマズも死ぬかと思われた。


しかし、切り刻まれたナマズの体はまるでスライムのように溶け、再びくっついた。


驚異的な再生能力だ。


颯は溶鉱炉棟に飛び乗り、ナマズの攻撃を避ける。


すると真後ろに渦が発生し、夜叉が現れた。


ガンッ


夜叉の強い回し蹴りを颯は左腕で受け止めた。

そして反対側の手を彼女の肩に押し付ける。


ザクッ


夜叉は肩を抑えながら飛び退いた。

夜叉の肩に深い切り傷、白い服が赤く染まる。


「適応力が高いな、こんなに早く対処されるとは思わなかったよ」

「全盛期の力を取り戻したお前にとって見れば、そんな切り傷すぐ治せるだろう。次こそ一撃で仕留めてやる。一発で、楽に死なせてやれるように」

「ふん、死ぬのはごめんだね。この戦いに勝って今度こそ平和に過ごしてみせるよ」


夜叉の言葉を聞いた颯は大声で怒鳴った。


「神界で!現世で!散々暴れてきたお前がよく言うな!もうお前は以前の夜叉じゃない!魔力を手にして変わってしまったお前が、平和だのなんだの語るんじゃねえよ!」


颯が怒りに任せて腕を振るとそれに合わせて巨大な斬撃が発生した。


ズズン バキバキバキバキ


赤茶けた金属パイプや外壁、鉄骨が次々と吹き飛んでいく。

外壁が凄まじい轟音をたてて地面に落下する。


「あぶないなぁ、落ちたらどうするんだよ」


彼の猛攻を逃れた夜叉は掌印を結んで唱えた。


“魔力変換 生類変化”


颯は目を細め、粉塵の奥を注意深く見つめる。

粉塵の中、夜叉のシルエットが月明かりに照らされて浮かび上がる。


8本の手足、まるで蜘蛛のようだ。


粉塵が収まり、颯は夜叉の変化した姿を目にした。


背中から昆虫の節足のような黒い触手が生えていた。

新たに生えた触手の内、上2つは大きな鎌の形、下2つは鋭い爪が付いている。


「生類変化術を自分にかけたか、後遺症が残っても知らないぞ!」

「勝てればなんでもいいさ。こっちは早く終わらせたいんだよ」


二人の戦闘が始まってからすでに12分が経過した。


夜叉に残された時間はあと3分、もはや手段は選べない。


「この戦いで全てを終わらせる。覚悟しろ!」

「やれるもんならやってみろ!」


夜叉は鋭い爪の付いた触手を使って素早く彼に接近する。

颯は後ろに飛び、彼女の鉤爪から逃れつつ斬撃を放つ。


バチンッ


彼の放った斬撃を夜叉は鎌のような触手で弾く。

先ほどの触手と違って頑丈だ。


颯は斬撃を乱射しながら体勢を立て直そうとした。


溶鉱炉設備が次々と崩落していく。


なかなか致命打を放てない夜叉は叫んだ。

「そんなに乱射していいのか?!もし君が足場を失って下に落ちれば大ナマズがお前を一口に食うぞ!」

「心配するな!それより先にお前を殺してやるさ!」


製鉄所の溶鉱炉棟、その巨体を称えた巨大施設が崩壊していく。


颯は溶鉱炉の傾いていく巨大煙突の頂上に向けて飛んだ。

そんな彼を夜叉は触手を使って蜘蛛のように追う。


颯は夜叉を睨むと全ての指を彼女に向け、叫ぶ。


“大輪斬”


巨大な斬撃が下に向けて放たれた。

掴むところが少なく隠れる場所もない、攻撃を避けることのできない明らかに颯が有利な環境、夜叉は彼の誘いに乗ってしまったのだ。


普通だったら夜叉がこの誘いに乗ることなど絶対にありえない。


しかし、乗らざるおえない。彼女の体が限界を迎えるまであと1分もないのだ。


夜叉は背中から生やした手足を体の前面に伸ばし、迫り来る斬撃を受け止めようとする。


グチャ


彼女の触手は斬撃に耐えられなかった。

前に突き出した触手は吹っ飛び、根本からちぎれる。

夜叉は自分の体がわずかに切れるのを感じた。


だが切れた場所を確認する暇はなかった。


(煙突が崩落する!)


徐々に崩れていく巨大煙突の周りで夜叉と颯が攻防を続けた。


ある時は片方が優勢になったかと思えば次の瞬間には劣勢になる。

そんな一進一退の激しい攻防だ。


夜叉は迫り来る颯の攻撃を交わしながら次の一手を考えた。

(浅間入道はもう使ってしまった。生類変化術…これ以上行うのは体への負担を考慮して不可能だ。…となるとこのまま近接戦を続け、下に落とし、富士大鯰を使う。それしかない)


夜叉は大声で叫んだ。

「斬撃は使わないのか?触手を失った私は君の斬撃で一撃だぞ?」

「使う時は今じゃない。僕の妖力を消耗させる算段だろ?お前の誘いに乗るつもりはない」

「よくわかってるじゃないかっ」


ガンッ


夜叉は颯の胴を勢いよく蹴り飛ばす。

颯は屋根の際まで飛ばされた。


彼は屋根から落ちないように踏みとどまり、チラリと下を見る。


暗いアスファルトに真っ黒い魚影がかすかに映る。


彼女の命令を受けた大鯰は彼の下にスタンバイしている。

夜叉は颯に最後の一撃を放とうとした。

(勝てる。あと少しだ、もう一撃加えれば勝て……)


足がうまく動かない、なぜか息が上がる。

夜叉は胸をグッと抑えた。

心臓が押し潰されるようにズキズキと痛む。


「ハァ…ハァ…」


15分は、とっくに過ぎていた。


様子のおかしい夜叉を不審に思った颯が声をかける。

「どうした?息が上がっているようだが」

「へへっ、ちょっとふらついただけさ。大したことじゃない」


再び戦闘が始まった。


が、今までとは全く違う。

夜叉は上手く体が動かせなかった。


「さっきまでの勢いはどうした?まるで別人だぞ?」


颯の煽り文句に返事すらできない。


攻撃を防ぐので精一杯だ。


視界はどんどん暗く、狭くなる。

息が詰まる。

内臓が全て引きちぎられるような感覚に襲われる。


いつの間にか二人は溶鉱炉棟前に戻ってきていた。


夜叉が立てた結界の中から修一が心配そうな顔で見つめている。

(大鯰!今しかないぞ!やれ!)


ザザン


背後から大鯰が轟音をたてて飛び出し、颯を飲み込もうとする。


それとほぼ同時に颯は夜叉に全ての指を向た。

颯は自身に残る全ての妖力を込めて叫んだ。


「“大輪斬”!」

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