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2話 追跡者

「ふー、やっと終わったー」


修一はタオルで汗を拭き取り、脇に置いた。


夜叉(やしゃ)大丈夫?」

「大丈夫だ…こんなこと…。私にかかってみれば大したことではない」

明らかに大丈夫ではない夜叉は修一の隣にどっかりと座り込んだ。


「流石に猫の姿に戻るぞ、力を使いすぎた」


手入れが終わった庭はいつにもましてすっきりとしていた。

夏の夕日で葉についた水滴はキラキラと光り、花は赤く染まっている。


修一はふとリビングにあったカットスイカを思い出した。

「すいかたべる?」

「…もうないぞ、私がさっき全部食べた」

「あれ全部食べちゃったの?!食べたかったのに」

「予想以上に厳しい労働だったからな。誘惑には勝てなかった」

黒猫はすこしばつが悪そうにした。


「元はといえば夜叉が調子に乗って使い魔を動かしまくったのが原因だからな?ひまわりも二本ぐらい折れちゃったし」

「すまんな、久しぶりに召喚したもんでつい興奮してしまった」


心地よい風が風鈴をチリンチリンと鳴らしている。

修一と黒猫は縁側で横になった。


「ただいまー」

おばあちゃんが帰ってきた。


「あれ?修ちゃんその猫は?」

(そうだ、おばあちゃんにまだ伝えてなかった)

「え…その…拾ってきたんだ…弱ってたから」

我ながら下手な嘘だと思った。


「そうなのね。ちゃんとお世話するのよ」

案外すんなりと許してもらえた。

修一はうなずくと猫をもって二階に上がった。


朝から敷きっぱなしの布団の上に横になる。腕と腰がわずかに痛む。

(これは筋肉痛になるな)

「よかったな夜叉。これで一緒に住めるぞ」


黒猫は安堵した表情をするとそのまま目を閉じた。


日はすっかり落ち、カーテンの僅かな隙間からは電灯の冷たい光が差し込む。

下から食器を洗うカチャカチャという音がかすかに聞こえる。

修一はその音を聞きながらゆっくりと眠りについた。


ズシン!


どれだけの間眠っていたのだろうか、修一は大きな物音で目を覚ました。


「な、なんら?」

修一は寝起きの目をこすって前を見た。四つの目を持った黒い物体と目が合った。


「うわっ」

あまりにびっくりしたので声がうまく出ない。

「ああ修一おきたんだね、おはよう」


巫女の服を着た長髪の女性が朗らかに挨拶した。


「いやおはようじゃないよ!なんで勝手に使い魔出してんだよ!」

「ちょっとしたリハビリだよ。昨日はうまく操れなかったからね。小さくてかわいいだろ?」


(…少なくともかわいくはないかな)

修一はのどまで出かかっていた本音を飲み込み、なんとなく相槌を打った。


カーテンの隙間からすっかり日の上った外の光が漏れている。


ふと嫌な予感を感じ時計を見る。

9時45分!習い事が始まる時間まで15分しかない!

修一は急いで鞄をつかむと階段を駆け下りた。


夜叉ののんきな声が聞こえる。

「いってらっしゃーい」

「いってきます」


今日も昨日と同じくきれいな青空だった。蝉の声が四方八方から響く。

修一は勢いよく引き戸を引くとアスファルトの上を駆け足で走っていった。


***************************


「相変わらず暑いな…」

修一は脳天がジリジリと焼けるのを感じながらアスファルトの上をゆっくりと歩いていた。



角を曲がると小さな森が見えた。

夜叉が封印されていた祠のある森だ。

ここら辺は人通りが無いが、今日は珍しく人がいた。


フード被った男が電柱に寄りかかっている。


修一と男の目が合った。

すると男は修一を指差し一言


“縛れ”


修一は全身の筋肉が硬直するのを感じた。

(なんだこれ?!)


男がゆっくりと近づいてきた。

「お前は夜叉を知っているか?」


恐怖で口が動かない。

「お前の口には金縛りをかけていない。質問に答えろ」

(なんなんだこいつ…)

「黙っていても無駄だ。私はお前がどんな人間で何をしたか知っている」

(やばい。考えろ自分…。なんとか助かる方法は…)


「…そうか、あくまで何も言わないつもりなのだな。ならば死んでもらう」


フードの男が腕を振り上げると空中に矛が創り出された。


「最後に何か言いたいことはあるか?」


何も言えなかった、恐怖は完全に修一の心を掌握していた。 

フードの男は残念そうに腕を振り下ろすと矛がこちらに飛んできた。


(いやだ!死にたくない…!)

修一は祈る様に目を閉じた


バチンッ


目を開けると目の前に矛が落ちていた。


そして何かがは背中のリュックサックから伸びている…。

黒い触手だ。


フードの男は目を見開き、悔しそうに歯軋りした。

「使い魔か…忌々しい物を隠し持ちやがって」

フードの男は次々と矛を創り出し、飛ばした。


金縛りで動けない修一に変わって黒い触手が次々と矛を叩き落とす。


バチンッバチンッ


(早い…)

「クソッ!」

フードの男は鋭い槍を作り出すと直接攻撃を仕掛けるべく突進してきた。


防ごうとした触手は男の鋭い槍を前に無惨に切り落とされてしまった。


(殺される)

修一は死を悟った。


“使魔召喚”


黒くて大きい何かが修一と男の間に割って入り、彼の攻撃を防いだ。


後ろから巫女の格好をしたし長髪の女性がやってきた。


「私が来たからにはもう安心しろ!君にかかっていた術は解いた」

「夜叉!」

夜叉は修一の方を見てにっこりと笑った。

そして再び向き直るとフードの男を睨んだ。


お互い動かない…。

動きを読み合っているようだ。


先手を打ったのは夜叉だった。


彼女は左手を素早く後方に引き、右腕を強く押し込んだ。

使い魔はその動きに呼応し彼の槍の動きを封じるべく素早く掴み掛かる。


フードの男は大きく体勢を崩した。

だがフードの男もやわではない。

彼は素早く槍を持ち直すと使い魔の胴体に突き立てた。


ズブッ


槍は使い魔を貫通。

黒いドロドロとした体液が溢れ出た。


「大した奴じゃないか、私の使い魔を倒すなんて」


配下の使い魔が一体やられた。

でも夜叉は余裕な表情をしている。


フードの男は再び彼女の方に槍を向け、突進する。


夜叉は素早く合掌し、両手のひらを上に向け、交差させる。

すると地面から二本の黒い触手が現れ、男の首を絞め上げた。


「ぐっ」


男が槍を振り上げた。

槍が液体のように溶けだし、流れ、なぎなたに変わる。


シュン


触手が切り落とされた。


夜叉は合掌し、手のひらを下に交差させたのち素早く両腕を広げた。

指が鋭い鍵爪に変わっている。


両者はほぼ同時に攻撃を繰り出した。


ガキンッ


「ウグッ」


夜叉の鋭い爪が男の喉元を貫通した。

血があふれる。


夜叉はそのまま彼の足をからめとり、地面に打ち倒した。


男は最期のあがきとばかりに槍を創り出し、突き立てようとした。


ガキン


「甘いね。狙いが見え見えなんだよ」


夜叉は槍を真っ二つに折った。


男の最期にして最大の失敗は、使い魔使いである彼女が近接戦闘が苦手であると踏んだことであった。


夜叉は修一のほうを振り向くと嬉しそうに男の持っていた槍を渡した。

恐ろしいことに槍の刃はぐちゃくちゃに折れ曲がっている。


「あの人はなんだったの?なんで攻撃してきたの?」

「なんでってそりゃーねぇ…。んー」

夜叉が目を逸らす。明らかに何か隠している。


「何隠してるの?はっきり言ってよ」

「えー。簡潔に言うと私を殺しに来た」

「…はい?」

「えーっと…私封印されてたでしょ?それは昔“ほんのちょっとだけ悪いこと”しちゃったからなのよ。だから封印が解けた今、討伐対象として指名手配されちゃってるわけ」


“ほんのちょっとだけ悪いこと”

夜叉の今までの行いを見れば多分だいぶまずいことなんだろうということは察しがついていた。

「まさか使い魔をつかって暴れた…とか?」

「そんなことじゃないわ」

「じゃあ何やったの?隠さないでいいよ」


夜叉は少しためらったが、こちらの顔をうかがうように小さな声で言った。

「そのー、宝永大噴火って知ってる…?」

「ああ富士山が大噴火した奴ね。あれがどうしたの?」

「あれやったの私」

「へ?」

「私があの噴火を起こしたのよ」


予想外の大罪に修一は呆然とした。

と、同時に新たな疑問が浮かぶ。

「なんで僕が殺されそうになったの?なんも悪いことしてないよ?」


夜叉がキョトンとした顔をする。

「それは分かりきったことじゃないか」

「どういうこと?」

「君は私と魂を共有する契約を結んだだろ?だから君が死ねば私も死ぬことになる。だからわざわざ私と戦うよりも君を殺したほうが効率がいい」


修一は頭が真っ白になった。


「なんで?!そんなこと言ってくれなかったじゃん!安全なんじゃないのかよ!」

「私が守るから安全という意味だ。別に嘘じゃないだろ?」

「なんだよそれ…」

「大丈夫!"てんさい"の私がいるんだからなんとかなる!

それに君にだって立ち向かう手段はあるよ?」

「…なんですか?」

「私と魂を共有したって事は私と同じ術が使えるようになったって事だ!それを使いこなせるようになればどんな敵でも余裕だよ!」

全て書き終わっているので毎日投稿します。

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