第8話 食堂での出来事
筆記試験は滞りなく終了した。
意外なことに僕はあまり緊張せずに問題を解くことができた。
——というのも、あの先生の一件のおかげで緊張している余裕すらなかったからだ。
(もしかしてあれは計算だったのか…?)
あの先生ならあり得る。
でも、真相を確かめることもできないし考えても仕方がない。
(とりあえずさっきのベンチに戻ろう)
僕は席を立ち試験前に座っていたベンチへと向かう。
アリアさんとはそこで待ち合わせをしていたからだ。
少し歩くと、すでにベンチに座っているアリアさんの姿が見えてきた。
「ごめん!待った?」
僕が声をかけると、アリアさんは首を横に振り「私も今来たところ」と微笑んだ。
僕たちは並んで座るとさっそく試験の感想を語り合う。
「結構できた気がする!」
アリアさんは自信満々に笑い、手応えがあったことを誇らしげに話した。
僕もまずまずの出来だったことを伝えると、彼女はまるで自分のことのように喜んでくれた。
「さて、お昼ご飯どうしようか?」
アリアさんがそう呟いたその瞬間——
「やあ、おふたりさん!」
聞き覚えのある声が響き、僕たちは反射的に振り向いた。
そこにはリアムさんがにこやかに立っていた。
「テストはどうだった?」
開口一番にリアムさんが尋ねてきたので僕はアリアさんと話していたことをそのまま伝えた。
「その様子なら一緒に通えそうだね!」
リアムさんはそう言って嬉しそうに微笑んだ。
実技試験がまだ残っているとはいえ、こうして喜んでくれるとやっぱり嬉しくなる。
「お昼ご飯はもう食べた?」
首を横に振ると、リアムさんはちょうどいいとばかりに食堂の存在を教えてくれた。
どうやら普段は在学生しか利用できないが、今日は特別に受験生にも開放されているらしい。
「これから食堂に行くつもりなんだけど一緒にどうだい?」
その誘いを僕たちは受ける事にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
食堂に着くと案の定、受験生たちで溢れかえっていた。
空席を探すのも一苦労しそうだったが——
「ここ空いてるよ!」
アリアさんがすぐに空席を見つけてくれたので僕たちはその席を確保した。
順番に食事を買いに行き、全員の料理が揃ったところで食べ始める。
食事をしながら僕は気になっていたことをリアムさんに尋ねることにした。
「受付の時にエリオスって人が言ってた“五大貴族”って何のことなんですか?」
僕の質問にリアムさんは苦笑しながらも丁寧に説明してくれた。
シャイターンには数多くの貴族がいるが、その中でも国の根幹を支える五つの大貴族が存在する。
それらを総称して “五大貴族” と呼ぶのだという。
そして——
「僕の実家、アレキサンダー家もその一つなんだ」
その一言で僕はリアムさんがどれほどの家柄の出身なのかを理解し、冷や汗が流れ始めた。
そっと横を見ると、アリアさんもそれに気づいたらしく目がぐるぐると回っている。
「僕たちはもう友達なんだしそんなの気にしなくても構わないよ」
焦る僕たちの様子を見てリアムさんは優しく宥めてくれた。
しかし、本人がそう言ったところで地方の田舎者である僕たちと王家に次ぐ階級を持つ彼が仲良くしていることを周囲が許すのかという疑念が頭をよぎる。
そんな僕の考えを見透かしたようにリアムさんは肩をすくめながら続ける。
「この学校は身分による差別を嫌うからね。どの道、入学したら君が心配しているようなことにはならないと思うよ」
その言葉に僕たちは少し安堵した。
「それに——」
リアムさんはニヤッと笑いながら言う。
「今はまだいいけど3人で入学できたら僕に敬語を使うのはやめてもらおうかな」
予想外の提案に僕は驚く。
しかし、もし3人で合格できたとして同じ学校に通うのに敬語を使い続けるのは少しおかしい気もしなくない。
そう考えた僕はその提案を受け入れた。
すると、リアムさんは満足げに微笑んだ。
僕たちの会話がひと段落した頃、突然後方で騒ぎが起こった。
「ねえちゃん可愛いね」
「飯なら俺たちと食おうぜ!」
2人の男が女性に絡んでいる。
彼女は金髪の長い髪を三つ編みにして横に流した美しい女性だった。
その姿に隣のアリアさんが「綺麗な人…」と小さく呟く。
僕もそう思いながらリアムさんの方を見ると、彼は何やら困った顔をしながらため息をついていた。
(…知り合いなのか?)
そう思い、リアムさんに尋ねようとした瞬間——
「邪魔よ」
絡まれていた女性が男たちに向かって冷たく言い放った。
その言葉に腹を立てたのか1人の男が彼女の腕を無理やり掴もうとする。
しかしその瞬間、彼女は男を一撃の蹴りで吹き飛ばした。
蹴られた男はピクリとも動かない。
「勝手に触らないでくれる?」
彼女はそう言うと、もう片方の男を見た。
目が合った男の顔は一気に青ざめていき、一目散に逃げていった。
食堂内の受験生たちはその圧巻の光景に拍手を送る。
僕とアリアさんも気がつけば手を叩いていた。
しかし、彼女はそんな拍手にも気を留めることなく食事を受け取ると隅の席へと向かってしまった。
「あの人は相変わらずだねぇ…」
リアムさんが苦笑しながら呟く。
「えっ…知り合いなんですか?」
「彼女の名前はイリス・ゼーレクス。この国の王家の三女にあたる人だよ」
リアムさんの言葉に僕とアリアさんは今日一番の驚愕を味わうことになった。
その後、少して落ち着いた僕はこの国で1番身分が高い人と同じ空間でご飯を食べているという事実をかみ締め、帰宅したら両親に自慢する事を決意するのだった。
少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。