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悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第3章 学園編~学園対抗戦~
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第30話 攻城戦 ④

 乱戦が始まってからすでに数分が経過していた。


 フェリスとノエルは息をぴったり合わせ、互いの隙を埋め合いながら応戦している。


 だが、その完璧とも言える連携をもってしても戦況は決して有利とは言えなかった。


 攻撃を仕掛ければすかさず他の敵から妨害が入る。仲間を助けようとすれば今度は逆の側から圧がかかる。


 じわじわと削り取られるような戦いが続いていた。


 ドミノオス側のメンバーに信頼関係がないとは言っても、彼らは同じ学び舎で過ごす生徒なのだ。


 そのため、いざ戦場に立てば必要最低限の連携は取れる——それがノエルたちが苦しめられている理由だった。


(まずいわね…)


 ノエルは心中で苦い声を漏らし、目の前のロベールの剣を捌きながら分析(アナライズ)を必死に走らせていた。


 攻防を続けつつ、頭の中では現状を打開する策をひたすら探し続けていた。


(何とか対処しきれているけれど、いつ均衡が崩れてもおかしくない…)


 ノエルの分析(アナライズ)は強力な象徴(シンボル)ではあるが全知全能では無い。


 鍛え上げることでそれに近い力を得ることはできるかもしれないが、当然、今のノエルには出来ない。


 そのため、同レベルの敵3人を2人で相手取るという状況は今のノエルには限界ギリギリであった。


 ノエルはちらりとフェリスを見る。


 フェリスはヴァレリアとフレデリックの動きを警戒しながら魔力を惜しまずに雷撃を繰り出している。


 汗が頬を伝い、息が荒くなってきてはいるが、それでもまだ魔力量は十分な様子だ。


(フェリス先輩の力をどう使うか…それとロベールの分身体をどうするかが鍵ね)


 ノエルは思考を加速させ、この状況を打開する策を模索する。


 すると、横からフレデリックが斬撃を容赦なく繰り出してきた。


 エリックやロベールと同じドミノオス王国流の剣技だ。


 ノエルはその動きを読み、後方へと回避し軽々躱す。


 しかし——


「ノエルちゃん危ない!」


 ノエルが後方へ回避するのと同時にフレデリックは回避先に爆発を生じさせる。


 ノエルの行動を先読みしていたのだ。


 だか、その攻撃すらもノエルの読み通りであり、ダメージを受けないように最小限の動きで回避した。


(回避に分析(アナライズ)のリソースを割き過ぎて打開策がまとまらない…せめて少しだけでいいから時間があれば…)


 じりじりと追い詰められるノエル。その表情を見て、いち早く察したのはフェリスだった。


「ノエルちゃん!ここは任せて!」


 叫ぶと同時にフェリスは足元を叩き、魔力を開放した。


雷壁(ボルトシェル)!」


 雷鳴が轟き、眩い光とともにノエルの周囲をぐるりと囲むように雷の檻が立ち上がった。


「持って三分だよ!」


 覚悟を決めたフェリスが真正面からヴァレリアたちを引きつけていく。


 普段はふわっとした笑顔が多い彼女の決死の顔をノエルは見逃さなかった。


「十分です……ありがとうございます。フェリス先輩」


 ノエルは目を閉じ、深い集中の海へと潜った。


 思考の全てを、分析(アナライズ)の全てをこの状況を打開する策の発見に注ぎ込む。


 彼女の横でフェリスはじっと相手の動きを見据えていた。


「ノエルちゃんの邪魔はさせないよ!」


 小さく息を吐き、目の前の3人——ヴァレリア、ロベール、フレデリックを注視する。


 対するドミニオス側。


 ヴァレリアとフレデリックは何が起きているのか分からない顔をしている。


 だが、ロベールだけは違った。ノエルの分析(アナライズ)の力を最初から危険視していたのだ。


「ヴァレリア!ノエルを止めろ!」


 ロベールの鋭い声が戦場に響く。


 何が何だか分からないまま、しかしロベールのただならぬ気迫に押され、ヴァレリアは反射的に波動弾を発射した。


 だが——


「攻撃性能はない分、防御力はお墨付きだよ!」


 フェリスが自信たっぷりに笑う。


 放たれた波動弾はノエルを守る雷壁(ボルトシェル)に触れた瞬間、電光と共に消滅した。


 ロベールは舌打ちし、フレデリックを鋭く睨む。


「フレデリック!」


 ロベールの言うことを聞くのは癪であったが、ノエルが何をしているのかを理解したフレデリックは渋々ロベールの支持に従う。


 フレデリックの爆発(ブラスト)は任意の座標に爆発を発生させる力。


 外部からの攻撃が遮られる雷壁(ボルトシェル)のでも内部からなら狙い撃てる。


 だが——


 ドンッ!


「くっ!?」


 フレデリックが体勢を崩し、後退する。


 フェリスが間一髪、間合いを詰めて強烈な蹴りを叩き込んだのだ。


 すぐさまノエルの意図を読み取ったことや今のフレデリックの攻撃がノエルに危険を及ぼすことを読み取ったことから分かるように、戦闘センスだけで見ればフェリスはアゼルに匹敵するほどであった。


 状況は一瞬で変わった。ドミニオス側の3人は即座に理解する。


 ——雷壁を破れないならフェリスを先に潰すしかない。


 3人が一斉にフェリスへ襲いかかる。


 フェリスは回避に専念し、何とか耐える。


 しかし、相手は3人。被弾の数は増え、息が荒くなり、魔力の消耗も激しくなる。


(……ノエルちゃん……!)


 それでもフェリスは歯を食いしばり、仲間を信じ、前に立ち続けた。


 そして——


「……お待たせしました」


 ノエルの凛とした声が響いた。


 戦場の空気が一瞬、凍りつく。


 気づけばフェリスの時間稼ぎが始まってから4分が経過していた。


「遅いよもう!」


「すみません。少し手間取ってしまって」


 雷壁(ボルトシェル)が解け、ノエルが歩み寄り、フェリスの隣に並ぶ。


 対峙するロベールは一瞬たりとも視線を逸らさず、隣のヴァレリアは眉をひそめ、フレデリックは小さく舌を出した。


「ほんまにこの状況を打開する策を思いついたん? いくら分析(アナライズ)や言うても無理やろ?」


 ロベールが挑発する。


 だが、ノエルはただ微笑みを浮かべる。


「無理かどうかは……これから分かると思うわ」


 その笑みはすでに勝利を見据えた者の笑みだ。


 ノエルは一度深く息を吸い込み、静かに目を閉じた。そして、伝心のアーティファクト越しにヴィクターへ短く告げる。


『ヴィクター先輩…いざという時はお願いします』


 その言葉は自陣で旗を守るヴィクターを驚かせた。


『……どういうことだ?』


 ヴィクターが小さくつぶやくと、フェリスも「ノエルちゃん……?」と首をかしげた。


 だが——ノエル本人は満足そうに笑みを浮かべていた。


 ノエルは次にフェリスへと目を向ける。


「ヴァレリアの相手はお願いします」


「えっ、わ、分かった!」


 フェリスは戸惑いながらもすぐに力強く頷き、迷いを振り払う。彼女は仲間を信じる。それだけで十分だった。


 そしてノエルとフェリスは同時に動き出した。


 ノエルの狙いはシンプルだった——ロベールを最優先で倒す。


 分身体の脅威を取り除けば後方を守るヴィクターが自由に動けるようになる。


 だが、ロベールは強者だ。しかも、ヴァレリアやフレデリックの妨害を受けながら簡単に仕留められる相手ではない。


 だからノエルは考えた。自分がロベールと相打ちになる覚悟を決めれば状況は変わる、と。


(私がロベールを追い詰めればヴァレリアは確実に助けに入る。フェリス先輩にそれを食い止めてもらえばいい。そしてフレデリックは……)


 ノエルはフレデリックの冷淡な性格を見抜いていた。彼が動くのは仲間を助ける時ではなく、敵を倒せると判断した時だけ。


 だからこそ、この作戦にフレデリックは必要不可欠であった。


 それに、もし自分が倒れたら——フレデリックはきっと自分を嘲笑する。


 それを見たとき、フェリスはきっと怒りに火をつけてさらなる力を引き出すだろう。


 この全ての要素を組み込んた作戦は分析(アナライズ)の力を持つノエルだからこそ組み立てることが出来た常軌を逸した作戦だった。


 ノエルが鋭くレイピアを構え、ロベールに突進する。ロベールも剣を振りかざし、剣戟が交わされる。


 金属の音が森に響き、閃光が走る。


 その隣でフェリスはヴァレリアに対峙し、稲妻のような速さで動き回る。ヴァレリアが放つ波動をかわしつつ、反撃を繰り出していく。


 フレデリックは最初、フェリスに標的を定めて爆発を起こし続けた。


 だが、次第にロベールが追い詰められ始めると——フレデリックの視線がノエルへと変わった。


 ロベールに集中しているノエルに隙があると判断したのだ。


 フレデリックの攻撃をノエルが回避すればロベールにも余裕が出来る。


 ロベールは内心で悔しさを噛みしめながらも、フレデリックの助けを拒む余裕はなかった。いまは体勢を立て直すことが最優先だ。


 だが——


 ノエルは一切動じずにロベールに意識を集中し続けた。


「うそやろ」


 ロベールの表情が驚きに染まった瞬間、ノエルの剣が彼の防御を突き破り、致命の一撃を叩き込む。


 観客たちが息を呑む中——ロベールの不死のアーティファクトが光を放ち、彼を強制的に退場させた。


 だが同時にフレデリックの爆発がノエルを襲う。


 そしてノエルにも不死のアーティファクトが発動し、彼女は戦場から姿を消した。


「ノ、ノエルちゃん……!」


 フェリス、ドミノオスの2人、控え室、観客席——その会場にいた誰もが突然の光景に呆然と立ち尽くした。


 静寂。


 戦場はほんの数秒前までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。


 唯一、何が起きているのか分かっていないヴィクターがフェリスへと問いかける。


『フェリス!何が起きた?』


『ノ、ノエルちゃんがロベールを倒したと思ったら...ノエルちゃんもやられちゃった』


 その言葉でヴィクターは一瞬で察する。


『さっきの『いざと言う時はお願いします』ってこういうことかよ』


 相変わらず無茶をする後輩だと溜息をつきながらも、ノエルの願いを叶えるためにヴィクターはすぐさま戦場へと走り出した。


 ロベールが居なくなった今、分身体に警戒する必要はなくなったのだ。


 そして、ノエルの思惑通り、事態はさらに動き出す。


「くっくっく。この俺に倒されたことを光栄に思え!……まあ、あんな雑魚を倒してもクソの役にも立たんがな!」


 落ち着きを取り戻したフレデリックの嘲笑にフェリスの肩がびくりと震えた。


「……さない」


「あ?」


「ノエルちゃんを馬鹿にするのは許さないよ……!」


 フェリスの体を纏う雷撃の色が青から黒へと変わっていく。


 静かに、だが確実に場の空気が変わった。


 ヴァレリアは警戒心を強め、フレデリックは薄笑みを浮かべたままだ。


 その最中、遠くから駆け寄るヴィクターの影。


 ノエルの捨て身の作戦が戦場をさらに激しさを増す局面へと導くのだった。

少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。

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