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悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第1章 入学試験編
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第7話 試験開始

 翌朝、試験会場へ向かうため僕たちは早朝の薄明かりの中で支度を整えた。


 おばあちゃんを起こさないようにと思っていたが、すでにおばあちゃんは起きていて朝ごはんを作ってくれていた。

 

 最初から最後まで感謝してもしきれないほどだ。


 僕たちはおばあちゃんの作ってくれた朝ごはんを食べ終えると、眠たげな表情を浮かべながら玄関に立った。


「頑張っておいで」


 そう言い、優しく微笑むおばあちゃんに「いってきます」と感謝を伝える。そして外に出ると、眩しいほどの朝日が僕たちを照らした。


「ついにだね」


 アリアさんの目には決意が宿っており、その目に触発されるように僕の眠気もどこかへ飛んで気合いが入った。


 こうして僕たちは試験会場であるゼーレクス悪魔専門学校へと向かった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 校舎の前に到着すると、全国各地から集まった多くの受験生が溢れて緊張と期待が入り混じっていた。僕たちはその雰囲気に飲み込まれないよう人の波をかき分けながら受付所へ向かった。

 

 しかし、あまりにも人が多くたどり着くことが困難でやっと着いたと思えば途方もない長蛇の列が目の前に広がっていた。


 ため息をつきながら僕たちはその列に並び始めた。


 すると、感じの良さそうなイケメンが急に声をかけてきた。


「こっちにおいで、おふたりさん!」


 僕たちは胡散臭そうに怪しんだ。


 ただ、話を聞くとこの長蛇の列は一般受付で彼は特別受付の場所まで案内してくれるという。


 ありがたい話ではあるが、急に声をかけられた上での提案であるためどこか怪しい印象を受けた。

 

 どうしたものかと思いアリアさんを見ると彼女は下を向いている。どうやら人見知りが発動してしまったようだった。


 そんな僕たちの様子を察したのか彼は自己紹介を始めた。


「流石に名前も知らない相手に声をかけられたら怖いよね。では改めて...僕はリアム・アレキサンダー。どうぞよろしく」


 リアム・アレキサンダーという名前は聞いたことはなかったが、貴族であることは明らかだった。


 貴族の人がどうして僕たちに優しくするのかは分からないが、相手が貴族と分かった以上、彼の提案を無視することはできなかった。


 相変わらず下を向いているアリアさんを横目に僕は覚悟を決めた。


「ど、どうかカモにするとしても僕だけにしてもらえないでしょうか?」


 どうやら予想外の返答が帰ってきたらしく、その言葉にリアムさんは笑い出した。


 しばらくして笑いが収まると爽やかな顔で丁寧に説明し始めた。


「実は...とある事情で君たちのことを知っているんだ。貴族専用の受付があって友人であれば紹介という扱いで受付させてもらえるからそこに君たちをって思って」


 それを聞いた僕は長蛇の列を見返し、これに並んでいたら試験前に疲れてしまうだろうと考えてリアムさんの提案を受けることにした。

 

 アリアさんは相変わらず下を向いていたが「カインくんを信じるよ」と僕の袖をそっと掴んだ。まるで妹のようなその仕草に可愛さを感じずにはいられなかった。


 提案を受けた僕たちはリアムさんについて行った。


 しばらく歩くと彼は「到着!」と一言告げ、振り返った。


 周囲を見渡すと豪華な装飾が施され、受験生たちの服装も気品にあふれている。僕たち二人だけ明らかに場違いであり、アリアさんも周囲をキョロキョロと見回していた。


 そんな僕たちを気に留めることなくリアムさんは——


「手続きしてきてくるからここで待ってて!」


 と言うとどこかへと立ち去ってしまった。


 (こんな場所で僕たちを置いていかないでよ……)


 僕とアリアさんは涙目になりながら部屋の隅でリアムさんの帰りを待った。


 すると数分後、突然気の強そうな男が声をかけてきた。


「おい、なんで田舎者がここにいる? 」


 僕たちが驚いて声が出せずにいると——


「俺を無視するのか?なんで田舎者がここにいるのかと聞いているんだ」


 最初と同じ質問をされるが緊張してどう説明すればいいのか分からず、僕とアリアさんはまた黙ってしまった。


 その様子を見た彼はつまらなそうな顔をして僕たちを追い出すための衛兵を呼ぼうとした。


 すると——


「エリオス、僕の友人たちに何か用かな?」


 ギリギリのタイミングでリアムさんが帰ってきてくれた。僕たちが涙目で視線送っていると申し訳なさそうに笑った。


「リアム。そうか…こいつらは貴様の飼い犬か」


「飼い犬ではなく友人だね」


「どちらでもいいが付き合いは選べ。自分が五大貴族だということを忘れるな。」


「ご忠告ありがとう。まあ、君に僕の交友関係をとやかく言われる筋合いは無いけどね」


 そのリアムさんの言葉を最後にエリオスという人はどこかへ行ってしまった。


「貴族同士の揉め事に巻き込んでしまって申し訳ないね。彼は貴族の中でも特に癖があるから。怖かったでしょ?」


 僕たちはうんうんと頷いた。その様子が面白かったのかリアムさんはクスッと笑いながら手に持っていた書類を僕たちに渡した。


「この書類に必要事項を書いて提出すれば受付は完了だよ」


 書類を見るとよく分からないことも記されていたので、僕たちはリアムさんに色々と教えてもらいながら必要事項に記入した。


 全てを書き終え、僕たちはその書類をリアムさんに渡すと彼は——


「今度はすぐに戻ってくるよ」


 と告げまたどこかへ去ってしまった。


 先ほどの出来事で僕たちは少し怯えていたが今回は何の問題もなくリアムさんは戻ってきた。今度は受験番号や試験の場所・時間が記された紙を手渡してくれた。


「規定の時間に規定の場所に行ってね。この学園は広いから早めに行ったほうがいいよ。あと、筆記と実技の場所を間違えないように」


 僕たちはリアムさんの説明に耳を傾けながら書類に目を通した。そして、全ての説明が終わるとリアムさんは予定があるらしく再びどこかへ行ってしまった。


 (五大貴族のこと聞きたかったのに…)



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 リアムさんと別れた後、僕たちは外のベンチで勉強していた。


 ギリギリまでこうして座ってゆっくり勉強できるのもすべてリアムさんのおかげだと感謝の気持ちでいっぱいだった。


 試験は午前中に筆記試験、昼休憩を挟んで午後に実技試験が行われる。筆記試験は全員が同じ時間に受けるため受験者数の多さから多数の教室が使用されるらしい。

 

 僕とアリアさんは別々の教室に割り当てられた。少し心細さを感じたがひとりで頑張るしかない。


 試験時間が近づき、僕たちはリアムさんのアドバイス通り早めに教室へ向かうことにした。


 玄関から校舎に入ると貼り紙が目に入った。


 その内容によると僕とアリアさんの試験会場はこの場所からそれぞれ別の方向にあるという。


 僕がアリアさんの方を見ると、彼女もすでに気づきこちらを見返していた。


「お互い頑張ろう!」


 アリアさんは力強く頷くと試験会場へと向かった。


 彼女が見えなくなった後、僕も試験会場に向かった。リアムさんの言う通り校舎はとても広かったが、思ったよりスムーズに試験会場に到着できた。


 教室に入ると既に半数ほどの生徒が着席していた。生徒たちは扉を開けた僕を一瞥すると、すぐに各々の準備に戻った。


 僕も着席し、他の受験生と同様に勉強を始めた。時間が経つにつれて人が増えていき、試験開始の30分前には全席が埋まった。


 その後、試験開始の15分前くらいに1人の女性が教室に入ってきた。


「うぃ〜す。元気か?若人たちよ」


 おそらく担当の先生だろう。しかし、急に入ってきた上に挨拶が軽すぎるためクラス内はざわつき始めた。


「静粛に〜。じゃあ今から試験の説明を始めるぞ〜」


 先生はそう宣言すると、ざわつくクラスの雰囲気などまったく気にせずに試験の説明を始めた。一通り説明が終わった後、先生はニヤリと笑いながらまた話し始めた。


「これは言っても言わなくてもいいと言われている情報なんだけど、あたしは意地悪だから言っちゃうわ」


 と前置きすると——


「この学校は新入生を毎年100人取るんだが、今年の受験者数は過去最多の10000人越え。つまり、合格できる確率は0.01%ということだ!」


 先生のその発言を聞き、今まで以上にクラスはざわつき始めた。


 (何を言ってるんだこの人は!)


 僕も周囲と同じように思った。


 圧倒的な倍率に対してだけでなく、緊張している受験生にこんな情報を流すなんて。


 さらに、先生のネームカードを見るとそこには——


 【ロザリア】

 担当:養護教諭


 と書かれていた。


 (この人が保健室の先生!?)


 保健室の先生というと優しいイメージがあったのに一瞬でその印象が打ち消された。


 驚きを隠せない僕と依然としてざわついている生徒たちを相変わらず気にも留めず、ロザリア先生は解答用紙と問題用紙を配り始めた。


 アルノーさんもかなり無茶苦茶な人だったけど、この学園には変わった人ばかりなのかと疑いたくなる。


 そんなことを考えていると、ロザリア先生が「では」と口を開いた。


 僕は慌ててペンを手に取ったが、試験開始直前に自分を鼓舞する予定だったの思い出した。衝撃的な出来事が続いたのですっかりそのことを忘れていた。


 始めの合図がまだなので間に合うと思い、今までの努力を振り返って自分を奮い立たせようとした。


 (よし、今までの努力が無駄じゃな…)


「始め!」


 しかし、無惨にも鼓舞の声をかき消すようにロザリア先生が試験開始の合図を出した。


 (あぁ…もうヤダこの先生)


少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。

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