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悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第3章 学園編~学園対抗戦~
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第25話 控え室にて

 勝ち抜き戦が終了した。


 結果はシャイターンの大将アゼルがドミニオスの大将エレノアを破り、シャイターンに勝利をもたらした。


 ──ドミニオス控え室


 静まり返る空間で最初に声を上げたのはヴァレリアだった。


「お前たちよく頑張ったぞ!負けてしまったけど感動した!」


 その朗らかな笑顔は場の空気を和らげようとしているのが伝わってきた。


「ほんまにええ試合やったわ。てか、エレノア先輩が勝たれへんかったんやったらアゼルには誰も勝たれへんし、文句もないわな」


 ヴァレリアに続くようにロベールが笑顔で拍手を送る。


「もちろん3人の仇は攻城戦で返すから安心しときや」


 その言葉にミスティがふっと笑って応じる。


「そうしてもらえると妾たちの気も少しは楽になるの」


 一人ひとりが言葉を交わし、少しずつ場に安堵が広がる中──ただ一人、エリックだけは暗い顔をしたままだった。


「……俺の責任だ。俺がしっかりとレイヴンに勝ってアゼルの戦い方をエレノアに見せておけば勝てたかもしれない」


 その呟きにロベールが苦い顔で言葉を挟む。


「待ってや。そんな悲しいこと言わんといて。誰が悪いとかそんなんちゃうやん」


「それでもだ」


 ロベールの慰めはエリックには届かない。彼の眼差しはどこまでも自己を責めていた。


 そんな空気を打ち破るようにエレノアが声を上げた。


「あたしを舐めんじゃないよ。アゼルにはあたしが負けたんだからあたしのせいだ。レイヴンに負けたのは誰でもないあんたのせいだ。だから..そんなに責任を感じたいならあたしとミスティにも分けてくれよ」


 その不器用でまっすぐな言葉にエリックの表情がわずかに緩む。


「……俺らしくもないな。どうやらレイヴンに負けたのがまだ尾を引いてるみたいだ」


「まぁ、エリックだったら明日には忘れて修業してるだろう!」


 ヴァレリアの突拍子もない一言に空気がぱっと明るくなる。


 本人が意図しているわけでは無いがヴァレリアの明るさは周りにも影響する。


 王族としての素質か彼女の人柄かは分からないが、それもまた彼女の才能の1つだった。


 だが、せっかく和らいだ雰囲気をぶち壊すような声が控え室に響く。


「あんなに偉そうにしてたのに結局負けるとはな」


 視線が一斉に向く。その言葉を放ったのはフレデリック。向けられた矛先は当然ながらエレノアだった。


「これから俺に偉そうにするのはやめてもらおう」


 その挑発にロベールが立ち上がりかける。


「あのなぁフレデリック──」


 だが、彼の言葉を制するようにエレノアが軽く手を挙げて止めた。


「……確かにあんたの言う通りだ。これからは少し大人しくしてるよ。その代わり──攻城戦では頼むよ?」


「言われるまでもない。お前たちのような醜態を俺が晒すわけないだろう」


 フレデリックの言葉は明らかにエレノアだけでなく、勝ち抜き戦に出場したミスティやエリックにも向けられていた。


 再び、控え室は重い沈黙に包まれる。


「ま、まあ、こんなわからんやつはほっといてご飯でも食べに行こか」


 ロベールがと立ち上がって出口へ向かうと、それに続いて他のメンバーたちも動き出す。


「ふん……」


 その様子をフレデリックは面白くなさそうに睨みつけていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ドミニオスの控え室で一悶着が起きていたその同時刻——シャイターンの控え室ではまったく異なる空気が流れていた。


 アゼルは正座の姿勢でノエルの前に座らされていた。


「……よくもまああんな恥ずかしいことをあれだけの大衆の前で言えたわね?」


 ノエルは淡々と責めているがその頬は真っ赤に染まっていた。怒りからか、それとも照れからか——答えは言うまでもなかった。


「ま、まあまあ。アゼルくんもかっこよかったしそこまで怒らなくても……」


 なんとか場をなだめようとフェリスがおずおずと口を開く。


 しかし——


「フェリス先輩は黙っていてください」


「……はい」


 ピシャリとノエルに言い返され、フェリスはしゅんと肩を落として大人しくなる。


 アゼルは正座したまま、そのやりとりをどこか面倒くさそうに諦めたような眼差しで眺めていた。


 そんな彼にノエルは改めて視線を向ける。そして、静かに、けれど震えるような声で問いかけた。


「……本気なの?」


「え?」


「さっきの発言が本気かどうかを聞いてるの」


 どこか不安げで、今にも泣き出しそうな瞳だった。自信のなさと戸惑いが滲むその表情にアゼルはふっと小さく笑みを浮かべた。


「……その顔、初めて会ったときのことを思い出すな」


「からかわないでっ!」


 ノエルは思わず声を上げるがそれでも目は真剣なままだった。


 冗談が通じないことに苦笑しながらもアゼルは真っ直ぐに彼女の目を見て言う。


「はぁ……本気だよ。本気に決まってるだろ」


 その一言でノエルの顔はさらに赤く染まった。


「……少し、考えさせて」


 かすれるような小声でそう呟くと、ノエルは控え室の扉を勢いよく開けそのまま飛び出していった。


 残された控え室では——


「青春だな」


「青春ですね」


「青春ね」


 レイヴン、ヴィクター、イリスの三人が見事なまでにハモった。


「って、言ってる場合じゃないよ! ノエルちゃんを追いかけないと!」


 フェリスが慌てて立ち上がりノエルを追って控え室を飛び出す。


「お前一人で行ってもどうせ見つからないだろ」


 ヴィクターも続いて立ち上がり、フェリスのあとを追うように部屋を出た。


 控え室にはレイヴン、アゼル、イリスの三人だけが残された。


「勝ち抜き戦の振り返りをしたかったんだがな……」


「俺もそうっすよ」


 ため息交じりに言うレイヴンにアゼルが肩をすくめる。


「まあ、せっかく勝ったんだしそれは後回しでいいんじゃない?」


 イリスのあっけらかんとした言葉に二人は少しだけ表情を和らげた。


「とりあえず飯でも食うか」


「私もお腹すいたわ!」


 三人は顔を見合わせるとゆっくりと腰を上げた。


「じゃあ、まずはフェリスたちを探すところからだな」


 そう言って三人は控え室の扉を開け、のんびりと歩き出した。


 ──同じ控え室でもドミニオスとシャイターンでは流れる空気がまるで違っていたのだった。


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