第6話 善因善果
「着きましたよ! 王都ゼーレクスです!」
御者さんの大きな声で目が覚めた僕はあくびをしながら体を伸ばした。約3日間の旅路で体はくたくただ。
隣ではアリアさんも同じタイミングで目を覚ましたらしく、まだウトウトとまどろんでいる。すぐに動くのは無理そうだ。
僕はまず荷物を下ろすことにした。一足先に馬車を降り、自分の荷物とアリアさんの荷物を丁寧に降ろす。
アリアさんは僕が荷物を下ろしていることに気づくと急いで降りてきた。
「ごめんね! 1人でやらせちゃって!」
相変わらず平謝りするが、僕は笑いながら彼女を宥めて御者さんとも軽く話を交わす。
「それにしても本当にありがとうございます!お客さんがゴブリンを倒してくれなかったら私の命も危なかったです!お代はお返ししますから、これからも目標達成に向けて頑張ってくださいね!」
ゴブリン討伐のあの出来事以降、御者さんとも打ち解けた。お代を返してくれるらしく、何を言っても受け取ってくれなさそうだったので僕たちはその言葉に甘えることにした。
その後、改めてお礼を言い御者さんと別れると、アリアさんと僕は王都の街を散策することにした。
「わぁ...すごいね!」
アリアさんは王都の賑やかさに目を輝かせ、僕も同じ感動を覚える。
それもそのはず、御者さんによると王都はこの国の中心地で人口は600万人にも上るという。ちなみに、僕の街の人口は1万人ほどだ。
「いろいろ見て回りたいけど夜になっちゃったし、今日はもう休もうか。」
僕とアリアさんの意見は一致し、宿を探すことにした。
しかし、宿はどこも満室だった。どうやら同じ受験生たちに先を越されてしまったようだ。
泊まる場所がないという事態は非常にまずいので、僕たちはまだ見ていない地区へ行き必死に探し始めた。
血眼になって周囲を探していると、ふと僕とアリアさんの視界に重そうな荷物を担いだ老人が映った。
一瞬どうするか迷ったが、困っている人を見過ごすわけにはいかない。アリアさんも同じ気持ちだったようで、僕たちはすぐに声をかけた。
「おばあちゃん、大丈夫ですか?」
「ん? 大丈夫だよ。ただ、荷物がちょっと重くてねぇ…」
「僕たちが代わりに持ちますよ!どこまで運べばいいですか?」
「親切な子達ねぇ。じゃあ...お願いしようかしら」
その後、荷物を運びながら僕たちはおばあちゃんと色々と話をした。僕たちが悪魔専門学校の受験生だと告げるとおばあちゃんは驚いた顔をした。やはり、あの学校はそれほどまでにすごいものらしい。
おばあちゃんに家に到着して荷物を下ろすとおばあちゃんは深々とお礼を告げた。
僕たちがお辞儀をしてその場を後にしようとするとおばあちゃんが優しい声で言った。
「何か困ったことがあったらうちに来なさい」
その言葉に僕たちは言うべきか迷ったが、顔を見合わせて頷いた。
「実は泊まるところがなくて困っていて…」
困り顔でそう告げると、おばあちゃんはにっこりと笑った。
「じゃあうちに泊まっていきなさい」
その言葉に僕とアリアさんは顔を見合わせ、思わずハイタッチをした。
おばあちゃんの家に入ると色々と説明を受けた。
おばあちゃんは1人で暮らしているらしく、いくつか空き部屋があるとのこと。僕たちはそれぞれ1部屋ずつ使わせてもらえることになった。
また、試験日までいてもいいとも言ってくれた。
夜ご飯の支度をするおばあちゃんを手伝い、3人で食卓についた。
3人で色々な話をした。おばあちゃんの昔話や僕たちが王都に来るまでの出来事を話した。
「二人は強いんだねぇ」
「僕なんか全然…だけど、ゴブリンと戦ったことで少し自信がつきました」
僕がそう言うとおばあちゃんはにっこり笑い、アリアさんも穏やかに頷いていた。
実際に戦う経験がなかったので心配だったがあの1戦のおかげで自分が多少は戦えるとわかり安心した。アリアさんさんも同じ気持ちのようだ。
ご飯を食べ終え、片付けを終えた僕たちは自室に戻って勉強に取り組むことにした。
残りの2日間は試験への最後の追い込み期間だ。改めて泊まる場所を提供してくれたおばあちゃんには心から感謝している。
夜も更け、一区切りがついたところで僕は勉強を終えて布団に入った。馬車での長い旅に疲れていたせいか、僕は布団に入るとすぐに深い眠りに落ちてしまった。
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そして、試験日がついに明日になった。この2日間はとにかく座学に集中し、最後の詰め込みを行った。
時間がない中でこんなにも頑張れた自分を褒めたい気分にもなるが、同時に時間が足りないのは覚悟を決めるのが遅かった自分のせいという複雑な心境にもなる。
あまりにも多くのことを考えすぎて集中できなくなった僕は早めに布団に入ることにした。すると、ノックする音が聞こえた。
「カインくん、起きてる? 」
ノックの主はどうやらアリアさんのようだ。僕はドアを開けてアリアさんを部屋に招き入れる。
どうやらアリアさんもいろいろなことが頭をよぎり、勉強に集中できないようだった。そこで僕たちは少しだけ話をすることにした。
「カインくんはさ…なんでここを受験しようと思ったの?」
アリアさんとはこれまでもたくさん話してきた。しかし、このような深い話をしては来なかったので僕はすこし困惑する。
「私はね……自信をつけるため」
そう言ってアリアさんは自分のことを話し始めた。
小さい町ではあるが、その町長の娘として生まれたこと。上位悪魔と契約してしまい両親を含むたくさんの人に期待をされたこと。そして、その期待に耐えきれず引きこもってしまったこと。
僕はただ静かに「そっか……大変だったね」と返すしかなかった。
僕の街の人口は少なくはない。そのため、僕が上位悪魔と契約したときも騒ぎになったが顔見知りの中で収まった。
しかし、アリアさんの場合は町中が騒ぎ立てて誰もが彼女を担ぎあげた。それがどれほどのプレッシャーだったかは想像に難くない。
「でも……アリアさんは強いよね」
「え?」
「だって...引きこもるという選択肢もあったのにあえて厳しい道を選んだ」
僕の言葉にアリアさんは一瞬驚いた表情を浮かべた後、やがて優しい笑顔を見せた。
「カインくんは優しいね」
その視線には僕の言葉に喜ぶのと次は君の番だよという温かい期待が込められているようだった。
アリアさんの覚悟の話を聞いた後に自分の本心を話すのは気が引けたが、僕は覚悟を決めた。
「僕は有名になりたいんだ。そして...父さんがやってる酒屋を宣伝して大きくしたい」
あまりに安易な目標に驚かれると思い、ちらっとアリアさんを見た。するとアリアさんは「君らしいね!」と優しく笑った。
その後、しばらく話しているうちに二人とも次第に眠気が押し寄せたので、やむなく会話を終えることにした。アリアさんはお礼を言って自分の部屋に戻った。
僕も布団に入りながら何度目になるか分からない合格の誓いを心に刻み、深い眠りに落ちた。
少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。