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悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第1章 入学試験編
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第4話 決意

 部屋でくつろいでいると、突然ノックの音が響いた。


「カインくん、少し付き合ってもらえますか?」


 ドアの向こうからアルノーさんの声がする。


 何やら僕に見せたいものがあるらしい。


 さっき感情的になって素っ気なくしてしまったし、謝るのも兼ねてついて行くことにした。


「さっきはすみませんでした」


「いえいえ、気にしないでください。私も少し干渉しすぎました」


 そんな風に軽く会話をしながら、僕はアルノーさんについて行った。


 しかし、目的地が分からず少し戸惑っていると——


「方向はこっちで大丈夫ですね……」


 アルノーさんが小声で呟く。


「アルノーさん...何を——」


「少しの間、私に触れていてください。私が良いと言うまで離さないように」


 意味が分からなかったが、言われた通りに彼の腕に触れる。


 次の瞬間——


(っ!? さっきまで街にいたはずなのに森の中にいる……!)


 目の前の景色が一瞬で変わった。


「もう一度」


 アルノーさんがまた呟くと、さらに景色が切り替わる。


「ここは……山?」


 周囲を見回すと、そこは見慣れた街の北にそびえる山の中腹だった。


「正解です!カインくんの街からも見える山の中腹、そして——グリフォンの巣です!」


「……え?」


 グリフォン——


 B級危険生物に指定される魔物。

 同族以外の生物には無差別に襲いかかる厄介な存在でその戦闘力は凄まじい。


 騎士団の精鋭が束になってようやく倒せるレベルの魔物だと聞いている。


「カインくんのお父さんに聞いたところ、最近この山にグリフォンが巣食うようになったそうです」


 アルノーさんは涼しい顔で説明を続ける。


「今のところ街に実害は出ていませんが、グリフォンは行動範囲が広いのでいつ被害が出てもおかしくありません」


「もしかして……アルノーさんが倒すんですか?」


「その通りです! そして、私のかっこいい姿をカインくんにも見てもらいたいと思って連れてきました!」


 ……


 ……え?


 僕は一瞬、自分の耳を疑った。


「いやいやいや!! ちょっと待ってください!! 何ですかその理由!?」


「ん? かっこいいでしょう?」


 ……


 いやこの人、本当に無茶苦茶だ……!!


 (もしアルノーさんが負けたら僕も一緒に死ぬんじゃ……?)


 そう考えた瞬間——


「グウェェェェ!!」


 鋭い咆哮が響いた。


 視線を向けると、そこには巨大なグリフォンが——しかも4体。


「……もう終わりですよね?」


 1体でも脅威なのに4体も。


 僕は両親の顔を思い浮かべながら心の中で今までの感謝を伝えようとした。


 すると——


「カインくん!何やら諦めたような顔をしてますね!」


「そりゃそうでしょ!! グリフォン4体に遭遇して生きて帰れるわけないじゃないですか!!」


「ほう...では生きて帰れたら——君の本音を聞かせてもらいますよ!」


「いいですよ別に!! 本音でも何でも話しますよ!! 生きて帰れればね!!」


 僕がやけくそ気味に叫ぶと、アルノーさんは小さく笑った。


 そして——


 彼の姿が一瞬にして消えた。


 (えっ!?)


 僕が驚愕するのと同時に次に彼が現れたのはグリフォンの足元だった。


 急に足元に現れたアルノーさんにグリフォンは驚きながらも襲いかかろうとする。しかし、アルノーさんは何かを呟き、手をかざす。


 次の瞬間——


 グリフォンの半身が吹き飛んだ。


 (……今、何が?)


 僕が事態を理解しきれないうちに、アルノーさんは次々とグリフォンの足元に移動して瞬く間に全滅させてしまた。


「……」


 あまりの光景に僕は言葉を失った。


「群れが巣食ってたみたいですね。4体のうち1体は子供のようでした。心苦しいですが人に迷惑をかける恐れがあるなら見過ごすことはできません」


 彼は淡々と語る。


「カインくん。君はさっき自分で言っていたこと、忘れてはいませんね?」


「……あ」


 満面の笑みでこちらを見るアルノーさんを見てようやく気づいた。


(……やられた。最初からこのつもりだったのか……)


「この場所では落ち着かないので街に戻りましょう」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 アルノーさんの象徴(シンボル)であっという間に街へ戻った僕たちは公園のベンチに腰を下ろした。約束は守るべき——そう心に決め、僕は思いの内をアルノーさんに打ち明け始めた。


「僕の本音はやっぱり家業を続けたいんです。家業を終わらせたくないんです」


 僕は少し俯きながら続けた。


「でも、ダンタリオンと契約したあの日、自分が有名になって活躍する未来を夢見たんです。それからはどれだけ『そんなことはありえない』と自分に言い聞かせてもあの輝く未来のイメージがふと頭をよぎってしまって…」


 アルノーさんはしばらく黙った後、柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。


「つまり、家業を守りたいという思いと学校に行って自分の力を試してみたいという願望、両方が君の本心ということですね?」


 僕は小さく頷いた。


「はい。でも…結局のところ僕は小心者で凡人なんです。上位悪魔と契約したところで本質は変わらないと思うんです。だったら両親が喜ぶ選択をする方が正しいと思いませんか?」


 アルノーさんは穏やかに首を振ると、真剣な眼差しで僕を見つめ声を低くした。


「君の考えはわかりました。しかし、訂正させてもらいたいことが2つあります」


 僕は驚いて「え?」と問い返す。


「第一に君は決して凡人ではないということです。この国では騎士団や冒険者といった戦闘職が非常に重宝されます。なぜなら、その道に進める者が限られているからです。例えば、職人になるには途方もない修行が必要ですが、逆に言えば長い修行を乗り越えると誰にでもその可能性は秘められているのです」


 アルノーさんは一息ついてさらに続けた。


「ですが、戦闘職の場合はどうでしょうか。この国の契約者の約8割が下位悪魔と契約していて、どれだけ努力してもDランクどころかEランクの魔物すら倒せない。下位悪魔と上位悪魔との間にはそれほどまでに明確な力の差が存在するのです。そして、君はその上位悪魔と契約している。これで君が凡人ではないということは分かってもらえましたか?」


 僕は小さく「……少しだけですが…」と答えると、アルノーさんはにっこりと微笑んだ。


「それで十分です。それにカインくん、君は私よりもずっと強くなるでしょう」


 僕は思わず苦笑いしながらも、首を横に振った。


「まあ、そう言いたくなるのも分かりますが私の勘はよく当たりますから!そして第二に君が思う『両親が喜ぶこと』と本当に両親が喜ぶことは必ずしも一致しないのです。君は自分がどれだけ両親に愛されているかは分かっていますよね?」


 僕はしばし考えた後、静かに頷く。


「では、両親の立場になって考えてみましょう。愛する息子が自分の本当の気持ちを押し殺して親の期待に応えようとする。それは確かに嬉しいことですが、同時に息子が自分の気持ちを抑えている姿を見ると親としては自分自身を責めたくなると思いませんか?少なくとも私ならそんなふうに思うでしょう」


 僕はその言葉に驚き、心の奥で初めて自分自身の本当の気持ちを見つめ直した。


「そんなこと…全く考えもしませんでした」


 アルノーさんは優しく僕の頭を撫でながら真摯な口調で続けた。


「君はまだ子供です。君の優しさはこの短い時間で十分に伝わりました。でも、親としては子供が本当の気持ちを話すことが大切だと思うのです。だから時には自分の心に正直になってほしいと思います」


 僕が思わず笑いながら「アルノーさんってまるで先生みたいなこと言いますね」と呟くと——「こらこら、私は先生ですよ。でも、君の覚悟が固まったのは私にとっても喜ばしいことです!」とにこやかに返された。


 僕は力強く頷く。


 すると、アルノーさんは立ち上がって穏やかな笑顔を浮かべた。


「では、家に戻りご両親に報告しましょう!」


 こうして僕たちは立ち上がり、再び家へと向かって歩き出した。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「という訳で学校に行きたいんだ。店を継ぐと言っていたのに勝手なことだって分かってる。でも、自分がどこまでやれるのか試してみたい」


 そう告げると、父さんがゆっくりとこちらに近づいてきた。


 何度も意見を変えた自分を責められるかもしれないという不安が込み上げ、心臓が高鳴る。だが、父さんはにっこり笑いながら僕の頭を優しく撫でた。


「よく話してくれたな。実は俺も母さんもカインの気持ちにはずっと気づいていたんだ」


「カイン、よく聞いてほしいわ。お母さんもお父さんもカインのことが何より大切なの。だから自由に生きてほしいしやりたいことは全部やってほしいの」


 両親の本音を聞いて、僕の目頭は熱くなり涙がこぼれそうになった。同時に自分が勝手に重荷を背負っていただけだと痛感し、まだまだ子供であることを思い知らされた。


「母さんの言う通りだ。ただ、お前が店を守りたいって思ってくれているのは本当に嬉しい。だから、有名になってこの店を宣伝してくれたらいいんじゃないか!そうすれば従業員もお客さんも増えて店はますます安泰になるはずだ!」


 その意外な提案に僕は息をのんだ。父さんの発想はまさに衝撃的であり、どちらかという選択肢しかなかった僕にとってはまるで新たな可能性を示してくれる光のように感じられた。


「やっぱり父さんはすごいね」


「もちろんだ!なんて言ったって俺はお前の父さんなんだからな!」


 父さんが豪快に笑うと、雰囲気も一段落したのを察したかのようにアルノーさんが口を開いた。


「一件落着したようで良かったです!」


「先生、本当にありがとうございます。言っていた通りうちの商品は好きなだけ持って行ってください!」


「ありがとうございます!ですが、ここで重要な問題が生じました」


 アルノーさんの表情がにこやかさから一転して険しさを帯びた。僕も両親もその意味がすぐには掴めずにただ困惑した。


「カインくん、君はゼーレクス悪魔専門学校を受験することになります。しかし、現状のままだと確実に入学試験に落ちます!」


「「「え? えぇぇぇぇぇ!」」」


 部屋の空気が凍りついた後、3人で顔を見合せ驚きの声を上げた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「何から何まで本当にありがとうございます!」


「いえいえ、無料でこんなにお酒を頂けるのですから感謝するのはこちらの方ですよ!」


 あの衝撃的な事実を告げられた後、僕は入学試験までに何をすればよいのかをアルノーさんからひたすら指導を受けた。気が付けば翌日の昼になっていた。


「カインくん、大変だと思うけど頑張ってくださいね」


「覚悟は決めましたし何とかやり遂げますよ!」


 僕がそう答えると、アルノーさんは満面の笑みを浮かべながらさわやかに別れの挨拶をしてくれた。


「学園でまた会えるのを楽しみにしていますよ!では!」


 そう言うと、自らの象徴(シンボル)を発動して一瞬にして姿を消してしまった。


 入学試験まで残り約半年。普通の人なら2、3年かけて準備を整えるところを僕には短期間しか与えられていない。自分が置かれている現状をしっかり胸に刻み、改めて覚悟を決めた。


(絶対に受かってやる!そのためにはしっかり休むことだ……)


 僕は慌ただしく自室へ戻り、深い眠りに落ちた。


 翌日から地獄のトレーニング生活が幕を開けた。


 厳しい基礎訓練、魔力量の向上、そして象徴(シンボル)の制御技術を磨くための過酷な練習。すべては合格、そして自分自身の成長のために——。


少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。

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