第24話 情報共有会議 ③
「じゃあ、次の話に移りましょうか」
イリスさんの凛とした声が教室に響き、僕たちは再び静かに息を呑む。
先ほどまでの情報共有の空気を切り替えるように彼女はピンと背筋を伸ばす。
「——誰が誰に挑戦するか」
その一言で場の空気がぐっと引き締まる。
僕たちは今の情報共有によって魔紋五傑の実力を痛いほど理解していた。
誰と当たっても勝てる保証なんてない。むしろ、負ける可能性の方がはるかに高い。
それでも4人は前に進む覚悟を決めていた。
最初に口を開いたのはやはりイリスさんだった。
「私はアゼルに挑戦するわ!」
その宣言は、強く、まっすぐで、微塵の迷いもなかった。
「理由は単純よ。アゼルは恐らくこの学園で最強だもの。最強を目指す私の壁になるだろうし、アーサー兄様との約束もある。そして、なにより——私はあの男に負けたくないの」
その瞳にはどこまでも透き通った意志が宿っていた。
「兄様から聞いたアゼルに勝つには“反応できないスピード”で叩き込むしかないっていう話。最初は半信半疑だったけど……入学式の日、確かに私の攻撃はあいつに届いたわ。だから、今なら行ける気がするの!」
「イリスさんなら……やれそうだね!!」
僕は思わず口に出していた。
事実、あの時イリスさんの矢印による加速はアゼルさんの反応を一瞬だけでも上回った。
そこに確かな戦略と成長が加われば——希望はある。
「いい選択だと思うよ。アゼル先輩に勝てる可能性があるのは君しかいないだろうしね」
リアムさんが微笑んで頷いた。
その言葉にイリスさんは鼻を鳴らして誇らしげに笑った。
「じゃあ、次はあたしの番ね」
静かに立ち上がったのはミコトさんだった。すっと一歩前に出て、落ち着いた声で言う。
「あたしはレイヴン先輩に挑戦する」
意外な選択に教室が小さなどよめきに包まれた。
振動を操り、王国剣技の使い手でもあるレイヴン先輩。
共鳴率は脅威の58%であり、アゼル先輩と並んで学園の最強候補の1人。
「彼の“振動”を使う剣技を受けてみたいの。それにあたしは機動力はある方だし……まだみんなに見せてない“切り札”もあるから。分が悪いとは思ってないわ」
「縮小の応用ってことね。ふふ、楽しみだわ」
イリスさんが楽しそうに身を乗り出す。
「まあ……単純に王国流の剣士にあたしの“流派”が負けたくないってのもあるけどね」
ミコトさんがちょっと照れたように微笑むと、ダリアさんが静かに笑って言った。
「ミコト、頑張って」
その一言にミコトさんはほんのり頬を染めながら席に着いた。
教室の空気が少しだけ和らぐ。
そして——
「俺が挑むのはノエル」
静かに、けれど確固たる意志を込めてエリオスさんが立ち上がった。
「理由は?」
リアムさんが尋ねると、エリオスさんはほんの少しだけ視線を逸らした。
「……アイツの分析は厄介だが弱点に従うなら真っ向から潰すのが1番可能性がある」
「そのためには“手数”と“パワー”で押し切る必要がある。……俺の加速はまだ未完成だがそれでも一番有効打を与えられるだろう」
「エリオスさん……ノエル先輩の分析はほとんど未来予知みたいなものなんですよ?」
僕が思わず口を挟むと彼は小さく笑った。
「わかっている。それでも勝つのがカストール家の人間だ。それに...何よりも他の五大貴族のやつに負ける訳にはいかん」
エリオスさんはそう言うとチラッとリアムさんを見た。
リアムさんは飄々とした表情のまま少しだけ笑って目を逸らす。
「ふん……」
そんなエリオスさんを見てミコトさんが小さく笑った。
「貴族も大変ね…」
そして——
「最後は自分ですね」
ヴォルドさんが静かに立ち上がる。
姿勢を正し、真っ直ぐに前を見据えるその瞳はいつもと変わらず真剣だった。
「自分はフェリス先輩に挑みます」
「えっ……!?フェリス先輩ってスピードタイプだよ?ヴォルドさんとは相性が……」
僕が心配して声をかけると、彼は力強く笑った。
「もちろん、それも承知です!自分には象徴はない。その代わり、体を鍛え技を磨きました」
「だからこそ、格上で苦手な相手にどこまで通用するかを試したいんです!」
「……立派な心意気だと思うよ」
リアムさんが優しい声でそう言うと——
「フェリス先輩は高速で動き連撃を仕掛けてくるんでしょ?でも、それに耐えて攻撃を入れることができればヴォルドにも勝機はあると思うわ」
ミコトさんがすかさずフォローを入れた。
「ありがとうございます!全力でぶつかってきます!」
ヴォルドさんは拳を握ったまま深く一礼した。
こうして——
イリスさん vs アゼル先輩
ミコトさん vs レイヴン先輩
エリオスさん vs ノエル先輩
ヴォルドさん vs フェリス先輩
挑戦者が決まり、対戦カードが出揃った。
相手は強敵。だけど、誰も諦めていなかった。
「これで全員決まったわね!」
イリスさんが満足そうに言う。
「……やるだけだ」
エリオスさんが低く呟く。
「全員で勝つわよ」
ミコトさんが力強く微笑む。
「全力でやり切りましょう!」
ヴォルドさんが真っ直ぐに拳を握った。
挑戦しない僕たちもその姿に胸を打たれた。
静かに、それでも確かに——僕たち一年生Sクラスの“闘志”がひとつになった。
こうして全ての準備が整い、本当の挑戦が始まるのだった。
少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。




