表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第2章 学園編~魔紋五傑攻略戦~
30/86

第15話 大きなヒント

 特訓の舞台は学園の闘技場。


 本来は授業の時間帯だがSクラスの生徒が利用する分には問題ないらしい。


 広々とした闘技場に足を踏み入れ、僕は深呼吸する。


(大丈夫……とにかくやるしかない)


 対するアゼルさんは面倒くさそうに僕を見ていた。


「お前の実力を測るだけだから本気で殺したりはしないよ…たぶん」


「今、多分って言いました!?」


「不死のアーティファクトがあるんだからごちゃごちゃ言うなよ」


 そう言うとアゼルさんは構えた。


 アーティファクトの準備を終えたアルノーさんがこちらにやってくる。


「では、カインくんのタイミングで始めていいですよ」


 僕は深呼吸をして目を瞑る。


 そして、目を開けるのと同時に大きく「お願いします」と叫んだ。


 ——すると、アゼルさんは何の躊躇もなく攻撃を開始した。


「っ!」


 僕はそれを受け止めるために盾を展開し、魔力を全力で込める。


 しかし、次の瞬間——


 ゴォッッ!


「——がっ……!」


 僕は闘技場の壁へと吹き飛ばされた。


 咄嗟に背中に魔力を込めて、壁への衝突のダメージを軽減する。


 そのおかげか背中へのダメージは大したことなく済んだ。


 問題はアゼルさんのパンチを受け止めた腕だった。


 ものすごい痛みに襲われ、痺れて動かない。


 僕はその痛みを我慢して落とした盾を拾おうとする。


 しかし、盾がないことにそこで気づく。


「ほら、立てよ」


「…僕の盾、消しました?」


 僕は痛みに耐えながらそう聞くと、アゼルさんはニヤリと笑った。


 僕は慌てて立ち上がり、《変化(メタモルフ)》を発動させ今度は剣を生成する。


(何か……何かできるはずだ!)


 ヤケになった僕は剣を持ち駆け出した。


 しかし、アゼルさんは僕の剣を軽く受け止めると——


 スッ


「……え?」


 僕の手にあったはずの剣が気づけば消えていた。


「…何回やっても同じだって」


 アゼルさんはつまらなそうに言った。


 次の瞬間、アゼルさんは僕の横腹に回し蹴りを入れた。


 油断していてもろに食らってしまった僕の意識は暗転し、気づいたら闘技場の外に出されていた。


(これが……不死のアーティファクト……ってことは僕、殺されかけたってこと!?)


 僕が動揺していると、アルノー先生が拍手をしながら近づいてくる。


「お疲れ様です!どうですか?死にかけるというのは」


「最悪の気分ですね……」


 僕がそう答えるとアルノー先生は嬉しそうに笑った。


「ですが、特訓にその最悪の気分があるのと無いのでは効率がとても変わるんですよ」


 僕は相変わらずの無茶ぶりに呆れながらも、言っていることは間違ってないと感じた。


 その時、アゼルさんが歩いてくる。


「まぁ、こんなもんだろうな」


「……やっぱり、僕の象徴(シンボル)じゃこんなものですよね」


 僕が悔しさを噛みしめながら呟くと、アゼルさんは少しだけ表情を緩めた。


「いや、お前の象徴(シンボル)はだいぶ強い方だと思うけど…」


「……え?」


「お前、さっき”自分の象徴(シンボル)はこんなもの”って言ったよな」


「そ、それは……だって、実際に——」


「違う。問題は象徴(シンボル)じゃない」


 アゼルさんは僕の目をまっすぐに見て言った。


「問題はお前が自分の象徴(シンボル)の限界を決めてること」


「……っ!」


象徴(シンボル)の可能性は使い手次第だ」


 彼の言葉が胸の奥に刺さる。


「出来るかどうかを決めるのはお前自身。最初から”こんなもの”って思ってたら出来ることなんてひとつも無くなる」


「じゃあ……僕はどうすれば……?」


「まずは自分の象徴(シンボル)を信じること。象徴(シンボル)の可能性を疑うな。どんなに突拍子もないことでもそれができると信じろ」


 アゼルさんはそう言い切ると腕を組み直した。


「お前は”変化(メタモルフ)”はお前が”変えたい”と思う限り、何だって変えられるはずだろ?」


「……何だって変えられる……」


 自分の手を見つめながらその言葉を噛みしめる。


「まぁ参考までに言うと、俺だったら武器だけじゃなく地形とか体質を変えて戦う」


 僕はアゼルさんのアイデアに驚愕する。


(今までの僕は質や量が同じじゃないと変化させらないと思ってた…でも、そんな発想もあったなんて)


 しかし、アゼルさんの言うことは最もであった。


 僕は自分の可能性を狭め、重りを武器や盾にして戦うという単調な戦いをしていた。


(発想力か…)


 僕はその言葉を噛みしめる。


 すると、アゼルさんは僕に向かって手を差し伸べた。


「……はぁ。まあ、とりあえずこれからよろしく」


 その手を僕は迷いなく握った。


 こうして——


 僕とアゼルさんの特訓の日々が始まった。


 その後、僕たちは闘技場を後にし、教室へと戻っていた。


 特訓で体はボロボロだったけれど頭の中は意外にもスッキリしていた。


 アゼルさんの言葉を思い返しながら歩いていると、ふと大事なことを思い出す。


「そういえばアルノーさん!」


 僕は急に足を止め、彼の方を振り返った。


「僕にパンフレットを渡してないですよね!Sクラスの事とか魔紋五傑(まもんごけつ)の事とか分からないことだらけで友達に飽きられたんですからね!」


 プンプンと怒りながら言うと、アルノーさんは困ったように笑った。


「ははっ、すみません。あの日はバタバタしていて合格発表だけになってしまったんですよ。でも、友達から色々聞くことができたならそれでいいじゃないですか」


「いや、良くないですよ!こっちは情報不足で毎回驚かされてるんですから!」


 思わず抗議する僕をよそにアルノーさんは相変わらずの飄々とした態度だった。


(はぁ、ほんとにこの人は……)


 呆れながらも、これが彼のペースなんだと納得する。


 すると、そのタイミングで次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。


「おっと、ちょうどいい時間ですね」


 アルノーさんは時計を確認しながらにこりと微笑んだ。


「急に連れ出してしまってすみませんね、カインくん。お疲れ様でした!」


 僕はアルノー先生の言葉に小さく頷き、2人に向かってお辞儀をする。


「ありがとうございました!」


 アゼルさんも軽く手を振って「またな」と言ってくれた。


 波乱の展開だったけれど、これを機にもっと強くなろう。


 そう心に誓いながら僕は自分の教室へと足を向けた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 チャイムが鳴り、カインが自分の教室へと戻った後、アゼルとアルノーもそれぞれの教室へ向かっていた。


 廊下を歩きながらアゼルはふと隣のアルノーを見やる。


「はぁ……あのパンフレットを渡していないってやつ、わざとっすよね?」


「はは、やはり君にはバレてしまいますか」


 アルノーは悪びれもせず、まるで楽しむように微笑んだ。


「……なんの目的があったんですか?」


 アゼルが呆れたように聞くと、アルノーは肩をすくめながら答える。


「大したことではありませんよ。ただ、カインくんにはこの学校での出来事のすべてを新鮮に感じてほしいのです。そのためにはパンフレットはネタバレになってしまいますからね」


 その答えにアゼルは深いため息をついた。


(はぁ……恨むならこの人に気に入られた自分を恨むんだな)


 アルノーの無茶苦茶な行動力を知っているアゼルはこれからカインの身に降りかかるであろう“試練”を考え、少しばかり同情する。


 だが——


(ま、あいつなら大丈夫か)


 アゼルは自然とそう思っていた。


 カインはまだまだ未熟で実力だけで見れば自分には到底及ばない。


 だが、あいつはとてつもないほどの上昇志向を持っている。


 簡単に折れない、諦めることを知らない——あの真っ直ぐな目。


(……ああいうの、俺にはないんだよな)


 だからこそ妙に目を引く。気づけば視線を向けてしまう。


 そんなことを考えていると隣のアルノーがニヤリと笑う。


「アゼルくんも彼を気に入ったようですね」


(……ほんとにこの人は)


 まるで心の中を見透かされたような気がしてアゼルは居心地の悪さを覚える。


「教えるのも大変上手でしたよ。君は先生に向いていますね」


「アーサー王子に言われたことをそのまま横流ししてるだけですよ」


 アゼルは無愛想に返答した後、黙って前を歩く。


 すると、アルノーは楽しげにそう呟く。


「話は変わりますが、1年生のSクラスは8人。そのうち何人が“魔紋五傑(まもんごけつ)”に挑戦するのかは分かりませんが……今年は荒れそうですね」


 その横でアゼルは憂鬱そうに眉間に皺を寄せた。


(ほんと、めんどくさい年になりそうだな……)


 そんな予感を抱きながら彼は無言で教室へと歩いていったのだった。


少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ