第13話 悪魔とは
食堂での昼食を終え、僕たちは次の授業のために教室へ向かっていた。
「次は確か悪魔学だったよね…?」
僕が何気なく呟くとイリスさんが微笑む。
「楽しみね。私たちの力の源を学ぶ授業なんだもの」
「優しい先生だといいな…」
アリアさんがそう言うとリアムさんが面白そうに笑った。
「恐らくセレナ先生だろうね。“幸運の魔女” の異名を持つ元冒険者の先生だよ」
「幸運の魔女…冒険者……?」
「彼女の《幸運》は文字通り"幸運"を引き寄せる力らしいんだ。戦闘でも学問でも何をしても運を味方につける……まるで運命すら操るみたいにね」
「えっ、それって……ずるすぎない?」
僕はそのとんでもない象徴に驚きを隠せなかった。
「まぁ、あくまで確率の範囲内での幸運みたいだけどね。あと、冒険者って言うのは地下迷宮に挑む人を指すんだけど…それに関しては他の授業でやると思う!」
「冒険者……地下迷宮……」
僕はリアムさんの言葉に頷きながら期待と不安を胸に教室へ足を踏み入れた。
そこには白衣を纏ったミステリアスな女性が微笑んでいた。
「ようこそ、1年生Sクラスの皆さん」
ゆっくりとした口調で話す彼女には見覚えがあった。入学試験の実技試験を担当してくれた先生だ。どうやら彼女がセレナ先生だったらしい。
セレナ先生は僕たちの視線を一身に受けながら優雅に教壇へ歩み寄る。
「私はセレナ・ナイトレイ。この授業では悪魔という存在について必要な知識を学んでもらいます」
教室が静まり返る。
「さて、では授業を始めていきましょう。いきなりですが——皆さん。悪魔とはなんだと思いますか?」
彼女は指を立て、静かに問いかけた。
その問いかけにみんなは各々の反応をする。
中でも、リアムさんがどこか複雑そうな顔をしていたのが僕には印象に残った。
どうしたのか声をかけようとすると、先生が話を続けてしまった。
「答えは“わからない”です」
先生の言葉に僕たちは一瞬ポカンとする。
「ふふっ、なんだその答えはって反応ですね。ですが、数々の学者が今日まで研究を続けているにもかかわらず、悪魔が何なのか、どこから来たのか、誰が生み出したのかすら分かっていないのです」
セレナ先生は話を続ける。
「そして、悪魔はとても気まぐれな存在です。高位の悪魔になればなるほどその傾向は高まっていきます」
「彼らが契約者を選ぶときの基準、それはただ——『気に入ったかどうか』それだけです」
「気に入った……?」
僕が疑問を口にすると、先生は頷く。
「ええ。悪魔は”気に入った”と思った人間としか契約しません。悪魔が階級を重視する以上、貴族などの家柄が”気に入る要素”になることはあります。ただ、逆にどれだけ地位が高くても悪魔が興味を示さなければ契約は成立しません」
「そのため、いくら上流階級と言っても絶対に高位の悪魔と契約できるとは限らないのです」
「でも、王家の人間は絶対にルシファーと契約する事になるじゃない」
イリスさんが鋭く指摘すると先生は微笑む。
「それが”相伝契約”です」
「相伝契約?」
「はい。王家のゼーレクス家のように国が成立した時から一族単位で悪魔と契約している場合、その血筋の者は全員が同じ悪魔と契約できます」
「つまり……契約が血統と結びついた”例外”ってこと?」
「その通りです。だから、イリスさんがルシファーと契約したのも偶然ではなく、ゼーレクス家の血がそうさせたのです」
僕やアリアさんが驚いていると先生はさらに続けた。
「ミコトさん。あなたのアザゼルもカゲツキ家と相伝契約をしていますね…」
「…はい。影月流を継ぐカゲツキ家も代々アザゼルと契約して”縮小”を受け継いできました」
僕は思わず目を見開いた。
「ミコトさんも王族なの!?」
「王族……だった、ね」
ミコトさんは苦笑しながら説明する。
「あたしの祖先はこの国の東にあった小国の王族だったらしくてアザゼルとの”相伝契約”をしたらしいの。でも、その国は滅びてしまってゼーレクスに逃げ延びたのがわたしの祖父の祖父の祖父って話よ」
「まあ、昔すぎてあんまり実感ないんだけどね」
そう言って肩をすくめるミコトさんだったが彼女の縮小に隠された背景を知ると、これまでとは違う見方ができる気がした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さて、次は共鳴率について話しましょう。共鳴率とはどれだけ悪魔の力を引き出せているかの指標になります。そして、共鳴率をあげることで得られる恩恵は2つあります。」
セレナ先生は2本の指を立て、僕たちを見渡す。
「1つ目は身体能力が強化されるということです」
そう言うと先生は黒板に式を書き始める。
< 本人の身体能力×(悪魔の力×共鳴率) >
「皆さんの身体能力はこの式で求められます。そのため、共鳴率が上がることで悪魔の力をよりその身に宿すことができ、戦闘時の基礎能力がさらに上昇します。これは悪魔の格が上がるほど効果も大きくなります」
「そのため、同じトレーニングをしても上位悪魔と契約している者は下位悪魔の者よりも身体能力の伸びが速いのです」
「やっぱり、俺みたいな象徴を持たない者はこの身を鍛えるしかないんですね?」
ヴォルドさんが手を挙げて質問すると先生は笑顔で頷く。
「ええ、その通りです。象徴なしで戦う場合、基礎能力の向上こそが何より重要です。ヴォルド君、あなたはその事をよく理解して鍛えているようですね」
「もちろんです!」
(やっぱりヴォルドさんは凄いな…)
ヴォルドさんが誇らしげに胸を張るとエリオスさんが静かに彼を見つめた。
(……?)
気のせいかもしれないがエリオスさんのヴォルドさんを見る目が少し変わった気がしたのだ。
リアムさんの方を見ると彼も僕と同じことに気づいたようでエリオスさんを見てニヤニヤしている。
エリオスさんは僕たちに気づくと顔を背けてしまった。
「では話を戻しましょう。共鳴率を上げることで得られる恩恵の2つ目は象徴の自由度が上がるということです」
「知ってる人もいるかもしれませんが、シンボルは”創造型””強化型””無秩序型”の3種類に分けられます」
その初めて知る情報に僕はより一層先生の話に耳を傾ける。
「創造型は魔力を物質化して新たなものを生み出す象徴です。炎や水、雷などを創造する能力はこれに該当します」
「強化型は自身の肉体や特定の動作を強化する象徴です。超人的な速度や腕力、耐久力などを得ることができる能力はこれに該当します」
「無秩序型は他の二つに属さない、もしくは両方の特性を持つ特異な力を持つ象徴です。この3種類だと無秩序型に属する象徴が圧倒的に多いですね」
(じゃあ恐らく…僕の象徴は無秩序型か..)
僕は自分の象徴の種類を始めて知ったのだった。しかし、新情報はまだまだ続く。
「それぞれの象徴に特徴があり、今の自分に出来る事と出来ない事があると思います。しかし、その出来ない事は本当に出来ない事なのか、共鳴率・魔力量が足りないから出来ないのかを見極める必要があります」
「実は後者の場合のことが多いので、頻繁に象徴を使ってみることが大事ですね。共鳴率や魔力量を上げたことで意外とあっさり出来るようになる時もあります」
「前者の場合はあきらめるしかありません。ただ、一つだけその出来ない事を出来るようにする方法があります。それが”完全共鳴”です」
完全共鳴という言葉はみんな初めて聞いたのか、今までの内容を知っていた人たちも驚いた顔をしている。
「完全共鳴とは悪魔との共鳴率が80%を超えた人のみが使える奥義です。制限時間はあるものの、完全共鳴の最中は象徴に一切の制限が無くなるとされています」
「先生はその完全共鳴を使えるんですか?」
「残念ながら私もまだ使えません。この学校で使うことが出来るのは学園長とアルノー先生くらいでしょう」
ミコトさんがそう質問すると、セレナ先生は苦笑しながら答えた。
そして、そのタイミングでチャイムがなる。
しかし、先生は最後と言わんばかりに話を続ける。
「最後になりますが、皆さんは各々やるべきことが違うと思います。ですので、各々が自分のやることをしっかりと理解した上で学園生活を過ごしてください」
先生はそういうとにこりと笑い授業を終えた。
(僕が...今やるべきことは…)
僕は自分のやるべきことが見えた気がしたのだった。
少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。




