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悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第1章 入学試験編
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第2話 葛藤

 意識が戻ると、僕は教会の椅子に横たわっていた。


 ぼんやりと天井を見上げ、ゆっくりと身を起こす。すると、すぐそばで心配そうに見つめていたアンナさんと目が合った。


「目が覚めましたか! 本当に心配したんですからね!」


「すみません……」


 苦笑いしながら謝ると、アンナさんは腕を組んでじとっと睨んでくる。時計を確認するとどうやら3時間ほど気を失っていたらしい。


(そうだ、僕は上位悪魔と契約したんだ)


 改めてその事実を思い返す。


 まるで現実味のない話に再び意識が遠のきそうになるのを必死にこらえ、アンナさんに尋ねた。


「アンナさん……これから僕はどうすればいいと思いますか?」


「……それはですね」


 少し言葉を選びながらアンナさんは静かに答えた。


 アンナさんの話をまとめると、選択肢は大きく二つに分かれる。


 1つ目は一般職を目指すことだ。悪魔の力を活かさない普通の仕事を選べば、階級などは特に問題にならない。生活に困ることもなく、今まで通りの日常を続けられる。父さんの仕事を継ぐ場合はこの選択肢になる。


 2つ目は悪魔の力を活かした職業を目指すことだ。主に戦闘職などの悪魔の力を活用する仕事に就く場合は15歳から入学できる悪魔専門学校への進学が必須となる。


 ただし——


「上位悪魔の契約者は王都にある悪魔専門学校にしか入学できません。」


 地方の学校では手に負えないため、王都の専門機関でしか教育を受けられないらしい。


 つまり、僕が戦闘職を選ぶなら王都へ行くしかない。


 深く考えながら教会を後にし、そのまま家へと帰った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ただいま」


「「おかえり!」」


 家に入ると、両親がそろって玄関に迎えに来ていた。どうやらずっと帰りを待っていたらしい。


「随分遅いから心配したんだぞ!」


「それで契約はどうだったの?」


 興味津々な二人に僕は一度深呼吸してから上位悪魔と契約したことやアンナさんから貰ったアドバイスを伝えた。


「すごいじゃない!」

「さすがは俺たちの息子だ!」


 父さんと母さんは抱き合って喜び、大げさなくらいに盛り上がる。


「じゃあアンナちゃんに教えてもらった通り、王都の学校に行くのね!」


 母さんが期待を込めた声で言う。だが、その言葉を聞いて僕は決心したように口を開いた。


「……僕は学校には行かないよ」


「「え?」」


 ピタッと動きを止める両親。


「ど、どうしてだ?」


 父さんが戸惑いながら尋ねる。僕は意を決して本心を打ち明けた。


「王都の学校に行っても僕なんか場違いなだけだし……もし僕が学校に行って戦闘職に就いたらこの店を継ぐ人がいなくなっちゃうじゃん」


 それが、今の僕の正直な気持ちだった。


 しばらく沈黙が続いた後、父さんと母さんは何かを考えるように僕をじっと見つめ、ゆっくりと頷きあった。


「カイン……お前は少し優しすぎるな」


「……え?」


「今は自分のことだけを考えていいんだぞ」


「……」


「それが本当にお前のやりたいことなのか?」


「……うん」


 そう答えると、父さんは静かに目を閉じて深く息を吐いた。


 そして——


「なら、それを尊重するだけだ!」


「そうね!! どちらにせよ今日はお祝いよ!」


 母さんがパッと明るくなって、食卓の方へと手を伸ばす。よく見るとテーブルの上には豪華な料理がずらりと並んでいた。


「……契約しただけで大げさじゃない?」


「何を言ってるんだ! 契約以前に今日はお前の誕生日じゃないか!」


 ——あ。


 すっかり忘れていた。今日は僕の誕生日だった。


 この先、自分の選択が正しいのかどうかは分からない。


 だけど、今は——この温かな誕生日のひとときを大切にしようと思った。


「カイン、誕生日おめでとう!」


「おめでとう!」


 両親の笑顔を見ながら、僕は少しだけ未来に希望を抱いた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 誕生日パーティが終わり、僕は「外の空気を吸ってくる」と両親に伝えて家を出た。


 夜の街は静かで昼間の喧騒が嘘のように落ち着いている。心地よい夜風が頬をなで、少し熱のこもった頭を冷やしてくれるようだった。


「……これで良かったんだよね」


 誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。


 確かに上位悪魔と契約できるとは思っていなかった。契約の瞬間は興奮したし、ダンタリオンの力を使って有名になる——そんな妄想だってほんの少しだけ膨らませた。


 でも、それはすぐに打ち消した。


 僕にはそんな未来は似合わない。


 代々続く両親の店を跡継ぎがいないという理由で潰すわけにはいかない。僕は普通の人間だし、等身大でいるのが一番いい。


「……調子に乗るなんてありえないよね」


 そう自分に言い聞かせる。


 けれど——


 自分の本心が分からない。


 本当にこの道でよいのか?


 王都に行ったら違う自分になれるかもしれない。もっと刺激的で自由で、もっと……特別な。


 けれど、分からないことを考えても仕方がない。


 ならば...せめて——


「少しだけ自分の能力についての理解を深めておこうかな」


 悪魔の力を戦いに使う気はないけれど、日常生活で役立つかもしれない。そう思えば能力を知ることも無駄ではないはずだ。


 ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていると目の前に我が家が見えてきた。どうやら無意識のうちに町を一周していたらしい。


「……色々あって疲れたな。今日はもう寝よう」


 家に入り、自室のベッドに倒れ込む。


 頭の中にはまだ今日の出来事がぐるぐると渦巻いていたが、次第に意識が遠のき——深い眠りへと落ちていった。


少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。

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