第3話 予想外の決闘
先生同士の言い争いは他の先生に仲裁される形でようやく終わった。
学園長は「コホン」と咳払いをひとつし、態勢を立て直すとようやく滞りなく挨拶を終えた。
(たぶん、本当にアルノーさんに言いたかったことを先に言われて拗ねてたんだろうな...)
学園長が締めくくったことで入学式での各代表者の挨拶はすべて終了した。その後、他の先生から今日の流れが説明される。
この後は少し休憩時間を取り、その後にそれぞれのクラスに分かれてガイダンスを行うということだった。
正式に入学式の閉式が宣言されると大講堂にいた学生たちは次々と外へ出始めた。
僕たち3人もその流れに乗って外へ向かう。
——が、何やら人だかりができていた。
「何かあったのかな?」
アリアさんが気になった様子で小さく呟く。
僕たちは人だかりをかき分け中の様子を見てみることにした。
すると、そこでは思いがけない光景が広がっていた。
「あなたが2年生のアゼルね。今から私と勝負してもらうわ」
そう言い放ったのは——新入生代表として挨拶をしたこの場で最も注目されている存在、イリスさんだった。
彼女が向かい合っているのは黒髪を長く伸ばした人物であり、前髪で目元が隠れており表情は読み取りにくい。
彼こそが彼女が指名した『アゼル』という人物らしい。
(えっ!? 新入生代表がいきなり決闘!?)
驚きのあまり僕とアリアさんは当事者である二人を交互に見た。
一方、リアムさんはなぜか頭を抱えている。
アゼルさんは自分が名指しされたことに驚いたのか、あるいはただ面倒くさいだけなのか、ぼんやりとした口調で答えた。
「えっと...どちら様?」
イリスさんの突然の挑戦宣言にざわめいていた人だかりだったが、アゼルさんのあまりにもな反応によってさらに騒然となった。
アゼルさん自身も周囲の反応からようやく事態を察したのか、ぼそりと「ちょっとだけ寝てただけだし...」と呟く。
(あの雰囲気の中で寝てたんだ...)
しかし、イリスさんはアゼルさんの様子などまったく気にせずに一方的に話を進める。
「お兄様からあなたの話はいつも聞かされているわ!そして、あなたを倒せば私と戦ってくれると約束もしてくれているの」
「...あのサイコ王子め」
イリスさんの言葉を聞いた途端、アゼルさんは納得したように小さく呟いた。そして深いため息をつくと今度は少し冷静に言葉を返した。
「戦うのはいいとして、それは魔紋五傑の席をかけた挑戦ってことでいいの? 一回しかない挑戦権をこんなタイミングで使うのはもったいないと思うけど...」
「それはまた別の機会にするわ。だから今回はどちらが勝とうが何もなくて構わないわ」
「構わないって、それ俺に何のメリットもないじゃん...」
「だからこうして頭を下げてお願いしてるのよ」
「ほんとに下げたんだとしたら早すぎて見えなかったんだけど」
2人の舌戦が続く中、そこに割って入る人物が現れた。
「アゼル、戦ってあげなさい」
冷静な声とともに現れたのは紺色の長髪を持つ美しく整った女性だった。
彼女はアゼルさんにそう命じた後、イリスさんに向き直る。
「お久しぶりですね、イリス様。相変わらずお元気そうで何よりです」
「ノエルも元気そうね。それより、さっきの言葉...あなたの従者を借りてもいいということかしら?」
「構いませんよ」
「え、俺の意見は?」
イリスさんとノエルさんはアゼルさんの意見を完全に無視したまま話を進めていく。
そんな中、隣でリアムさんが「はぁ...色々起こりすぎて大変なことになってるけど」と前置きし僕たちに小声で説明を始めた。
「イリス様はさておき、アゼル先輩はさっき入学式で話してた”最強候補”のもう一人の方ね。そして、途中で入ってきたのがノエル・フォルステッド先輩。彼女はアゼル先輩と同学年で、魔紋五傑の一人」
「ノエル先輩は僕と同じ五大貴族の出身だけど色々あってあの若さで当主になったんだよ。それで、アゼル先輩が彼女の付き人として補佐をしてるって話」
「...あと、イリス様が言ってた”お兄様”っていうのは第1王子のアーサー王子のことだろうけど……彼とアゼル先輩の関係はよく分からないね」
リアムさんにも分からない部分があるらしく、説明を終えると何か考え込むように人だかりの中心を見つめている。
僕も説明を聞いた上で再び視線を3人へ向けた。
すると、どうやら結局アゼルさんとイリスさんが戦うということで話がまとまったらしい。
(あれ? アゼルさん、めちゃくちゃ嫌がってなかった?)
彼の意見はやっぱり無視されていた。
「場所は学内闘技場でいいわね? 私は先に行っているわ」
そう言い残し、イリスさんはすたすたと歩き去ってしまった。
残されたアゼルさんとノエルさん。
「なんで俺が戦わないといけないんだよ」
「あなたなら負けることはないでしょう?」
「...勝ち負けの問題じゃないんだよ」
「そもそも王族であるイリス様の要望を断るなんて非合理的なことはするべきじゃないわ」
「...お前は面白がってるだけだろ」
アゼルさんはぶつぶつ言いながらも、結局ノエルさんには逆らえないようで渋々ながらも歩き出した。
「僕たちも行こう。こんな戦い滅多に見られないよ」
リアムさんはそう言うと、僕たちの手を引き彼らの後を追いかけた。
闘技場に着くとすでにアゼルさんとイリスさんは向かい合っていた。
僕たちは観客席へと座り、その様子を見守る。
先ほどの人だかりもついてきたため、観客席はいつの間にか満員になっていた。
しかし、当の本人たちはそんな観衆にはまったく興味がない様子だった。
「...なんか成り行きで戦わされることになったけど、やると決まった以上は負ける気ないから」
「むしろその方がありがたいわ。あなたは私の象徴を嫌というほど知っているでしょうけど...私もあなたの象徴を知っているのよ」
「...ほんとにあのサイコ王子は」
「その言葉、そのままお兄様に伝えておくわね」
「...やめてください」
2人が会話をしていると、ノエルさんが場の中央に進み出て一言告げた。
「準備ができたわ」
その瞬間、2人の表情が一変する。
戦士としての眼差しを宿したイリスさんがアゼルさんに向けて黒い何かを放つ——
こうして、二人の戦いが幕を開けたのだった。
少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。




