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悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第1章 入学試験編
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第11話 試験の終わり

 試験が終わり、アリアさんと合流するために僕は例のベンチへ向かった。


 少し歩くと集合場所が見えてくる。どうやらアリアさんはまだ到着していないようだ。


 待っている間、暇だったので先ほどの試験を振り返ることにした。


(惜しいところまではいった気がするだけにやっぱり悔しいな……)


 リアムさんには「倒すことは考えなくていい」と言われていた。だからこそ、できるだけ自分をアピールすることに専念していたつもりだった。


 でも、いざ「倒せたかもしれない」という状況になるとその悔しさが込み上げてくる。


(まぁ、これで落ちてたら……本格的に父さんにお酒の作り方を教えてもらおうかな)


 そんなことを考えていると——


「カインくん!」


 遠くからアリアさんの声が聞こえた。


 彼女は小走りでこちらへ向かってくる。どうやら試験が終わったらしい。


 僕の隣に座ったアリアさんは「遅くなってごめんね」と申し訳なさそうに謝った。


 僕は首を横に振り、さっそく試験の結果を聞いてみた。


 アリアさんは8分まで耐えたところで棄権したそうだ。


 ただ、それまでにできる限りの攻撃を加えたので後悔はしていないらしい。


 次に僕の試験の話題になったため、10分耐え切ったことを伝えるとアリアさんは目を丸くした。


「カインくんの象徴(シンボル)と試験のルールの相性がいいなって思ってたけど……まさか10分耐え切れるとは思わなかったよ!」


 そこから「どうやって耐えたの?」と根掘り葉掘り質問攻めに遭い、そのたびに褒め殺しを食らった。さすがに恥ずかしくなった僕は話題を変えることにした。


「そういえば……リアムさんはどうなったのかな?」


 普段なら僕たちが話しているとどこからともなく現れるのに今回は姿を見せていない。


 リアムさんの結果も気になるため僕たちは雑談をしながらしばらく待つことにした。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「来ないね……」


 アリアさんがぼそりと呟く。


 リアムさんを待ち始めてからすでに1時間が経過していたが彼は現れなかった。


 最後に会って「ありがとう」と感謝を伝えたかったが、これだけ多くの受験生の中から彼を探し出すのはほぼ不可能に近い。


 そこで、僕たちは「絶対に合格して入学式でお礼を言おう」と誓い合いベンチを立ち上がり、おばあちゃんの家に帰る事にした。


 明日の朝一番の馬車で帰る予定のため、今夜も泊まらせてもらうことになっている。


 しばらく歩き、おばあちゃんの家に到着した。


 ドアの前に立ちノックをすると、すぐに扉が開き優しい笑顔のおばあちゃんが迎えてくれた。


 家に着いてすぐに僕たちはおばあちゃんへの感謝の気持ちを込めて最終日の夜ご飯を2人で作ることを提案した。


 アリアさんと前から話していたのだ。


 おばあちゃんは快く了承してくれたので僕たちは張り切って料理を作ることにした。


 出来上がったのは特別なものではない普通の家庭料理だった。


 だが、おばあちゃんはひと口食べると嬉しそうに目を細め「ありがとうねぇ」と言ってくれた。


 その言葉だけで僕たちの疲れは吹き飛んだ。


 食事をしながら試験での出来事をワイワイと話し合い、笑い合った。


 興味深そうに頷きながら聞いてくれるおばあちゃんに僕たちはつい夢中になって話し続けた。


 食事を終え片付けを済ませた僕たちはおばあちゃんに就寝の挨拶をしてそれぞれの部屋へと戻った。


 疲れがたまっていたのかベッドに潜り込んだ瞬間、眠気が押し寄せてきた。


 (ここまで……長いようであっという間だったな)


 13歳の誕生日にダンタリオンと契約し、その後、アルノーさんに出会って覚悟を決めた。


 そして、地獄のトレーニングの日々。


 振り返ると、本当に濃く、充実した時間だった。


 (もし落ちてたらまた平凡な日常に戻るのか……)


 それが悪いことだとは思わない。


 元々、僕はそんな人生を歩むはずだったのだから。


 けれど、今の自分からするとそれは少し退屈に思えてしまう。


 (落ちてたら……嫌だな)


 そう考えれば考えるほど不安が膨らんでくる。


 これ以上、余計なことを考えても仕方がないと思った僕は目を閉じ、頭の中で羊の数を数え始めるのだった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 翌朝、僕たちは帰りの支度を整えおばあちゃんに別れの挨拶をした。


「おばあちゃん、本当にありがとうございました!」


 僕が頭を下げると、アリアさんも隣で「ありがとうございました!」と声を揃える。


「ふふっ、2人とも絶対受かっているから心配いらないわよ。また王都に来たら必ず寄ってちょうだいねぇ」


 僕たちは笑顔で頷き改めて感謝を伝えおばあちゃんの家を後にした。


 馬車乗り場へ向かっていると、アリアさんが話しかけてくる。


「もし、2人とも合格したら……王都のいろんなお店を巡ろうね!」


 その言葉に昨日までの不安がすっと消えていくような気がした。


 僕が笑顔で頷くとアリアさんは満足そうに微笑んだ。


 馬車乗り場に到着した僕たちは行き先を告げ料金を払い馬車に乗り込んだ。


 行きの旅路ではトラブルがあったが、帰りは何事もなくあっという間に僕の街に到着した。


 僕が馬車を降りると、アリアさんは「じゃあ、またね!」と笑顔で手を振る。


 彼女の乗る馬車を見送り、僕は実家へと歩き出す。


 家の前に立つと何とも言えない感情が胸に込み上げてくる。


 (……なんか変な感じだな)


 深呼吸して気持ちを落ち着けると勢いよくドアを開ける。


 すると——


「あら、おかえりなさい!」


 料理中だった母さんが優しい声で僕を迎えてくれた。


 ドアの音と母さんの声に気づいた父さんが一目散に駆け寄ってくる。


「カイン!たくましくなったな!」


 そう言って僕の肩を力強く叩く。


 久しぶりに見る両親の顔に安堵感が一気に押し寄せる。


 目頭が熱くなりながらも僕は笑顔で言った。


「ただいま!」


 そうして、僕はようやく試験の旅を終えたのだった。


少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。

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