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悪魔の象徴  作者: 小籠pow
第1章 入学試験編
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第1話 契約の刻

あらすじも読んでいただければ幸いです。

「ご飯よ〜」


 母さんの声と階下からふわりと漂う朝食のいい匂いが僕を目覚めさせる。


 寝ぼけ眼で頭をかきながら匂いに誘われるように階段を下りていった。


「おはよ〜カイン!」

「おはよ」


 母さんに挨拶を返し、食卓へとつく。


「いよいよ今日ね。なんだか私まで緊張してきちゃった!」

「なんで母さんが緊張するんだよ」


 僕が住んでいる国シャイターンでは人々が悪魔と共存している。13歳になると悪魔と契約を交わしその力を借りて生きていくのがこの国の習わしだ。


 そして、今日は僕の13歳の誕生日。つまり...契約の日でもある。


「だって高位の悪魔に選ばれるかもしれないじゃない!」


「僕が?それはないって」


 母さんの期待をよそに僕は冷めた返事を返す。


 悪魔には階級が存在し、契約する悪魔の位が高いほどその力の恩恵を大きく受けられる。高位の悪魔と契約できれば、一躍有名になったり、一代で大金持ちになることも夢ではない。


 ……とはいえ現実はそう甘くない。悪魔は契約相手にも相応の格を求めるため、高位の悪魔と契約するのはほとんどが王族や貴族の人間だ。


「それは分からないぞ!」


 父さんの声が響き、支度を終えた彼が食卓に加わる。席につくと朝ごはんを頬張りながら話し始めた。


「確かに悪魔は階級を重んじるが、それは絶対というわけじゃない。’’才能を持つ平民’’が高位の悪魔と契約した例もあるんだぞ」


「その ’’才能を持つ平民’’っていうのが僕ってこと?」


「当たり前だ!なんたってカインは父さんと母さんの子供だからな!」


 父さんが豪快に笑いそれを見た母さんが嬉しそうに微笑む。


 うちの両親はいわゆる親バカというやつだ。


 代々続く酒屋の一人息子として生まれた僕は日頃からこうして甘やかされ何不自由なく暮らしている。正直、悪い気はしていない。


(……ただ、実際問題こんな辺鄙な町の酒屋の息子が高位の悪魔に選ばれるなんてことあるわけないんだよな)


 両親と他愛ない会話をしているうちに、朝食を食べ終えた。食器を片付け支度を始める。


 必要な持ち物は特にない。あとは身なりを整えるだけだ。

 

 契約の儀式は教会で行われ、シスターに手伝ってもらいながら進める。仕組みはよく分からないが話によると10分ほどで終わるらしい。


 準備を終え、玄関へ向かう。


「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい!」


 父さんと母さんに見送られながら僕は教会へと向かった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 

 空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっている。いつもと変わらない朝——だけど、今日はどこか違って見える。


 これから僕の人生が決まると言っても過言ではない。


 どんな悪魔と契約するのか。それが僕の未来を大きく左右する。


 高位の悪魔と契約できれば一躍有名になれるかもしれない。逆に弱い悪魔と契約したら一生平凡なままだ。


「……ま、考えても仕方ないか」


 考えすぎると気が重くなるので無理やり思考を打ち切る。


 そんなことを考えながら歩いていると、道の先に見知った人の姿があった。


「ムーアおばあちゃん?」


 腰の曲がった小柄な女性が大きな荷物を抱えて立ち止まっている。


「どうしたの、おばあちゃん?」


「あら、カインじゃないか。ちょっとこの荷物を運ばないといけないのだけどこの老体には少しきつくてねぇ……」


 おばあちゃんはうちの酒屋の常連さんで僕のことも小さい頃から可愛がってくれている。


 荷物を見ると、確かにかなりの量がある。これは一人で運ぶのは大変そうだ。


 僕の答えはひとつだった。


「手伝うよ! どこまで運べばいい?」


 最初は驚いたように目を丸くしたムーアおばあちゃんだったが、すぐににっこりと笑った。


「ありがとうねぇ」


 荷物を持ちながらおばあちゃんの隣を歩く。


「どこかへ行く途中だったのかい?」

「うん、今日は13歳の誕生日なんだ」


 それだけでおばあちゃんは納得したように頷いた。


「もうそんな歳かい……私も年を取るわけだねぇ」

「おばあちゃんはまだまだ若いでしょ」


 他愛もない話をしながら歩いていると、目的地らしき場所に到着した。


「ありがとうね」


「全然大丈夫だよ! 他に運ぶものはない?」


「これで全部だよ。それじゃあカインに幸運がありますように」


 おばあちゃんが優しく微笑みながら僕の幸せを祈ってくれる。


 ちょっと照れながら手を振り、僕は教会へ向かって再び歩き出した。


 しかし、気づけば思ったより時間が経っていた。


「やばっ……遅刻するかも!」


 走ればなんとか間に合いそうだ。僕は息を切らしながら駆け出す。


 ——と、その時。


 道の先に小さな子供が座り込んで泣いているのが見えた。


 (あぁ...アンナさんに謝らないと)


 僕はため息をつきながらも、その子のもとへと駆け寄った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 (やばいな...アンナさん絶対怒ってるじゃん。)


 息を切らしながら教会の前にたどり着き、慌てて扉を開ける。


「お邪魔します……」


 恐る恐る中へ入ると——


「遅いですよ!カインくん!」


 案の定、腕を組んでぷんぷん怒るアンナさんの姿があった。


「君のことだからまた誰かを助けていたのでしょうけど……今日はとても大事な日なんですよ!もう!」


 口を尖らせながら文句を言うアンナさんだったがその手は手際よく儀式の準備を進めていた。


 町で唯一のシスターである彼女はこの街の子供たちの契約を補助してくれている。


「さて、じゃあ始めていきましょう!」

「お、お願いします……」


 流石に緊張で体がこわばる。すると、緊張をほぐすようにアンナさんが優しく微笑みながら説明をしてくれた。


「悪魔は上位悪魔と中位悪魔と下位悪魔に分類されます。そして、契約によって得られる恩恵は主に2つあります。」


「1つ目は身体能力や魔力量の向上です。悪魔の力を借りることで契約前よりも格段に強くなることができます」


「2つ目は悪魔固有の『象徴(シンボル)』の獲得です。ただし、これは上位悪魔と契約した者しか持てない特別な力です」


 上位悪魔の象徴(シンボル)は極めて貴重で、重宝されるそうだ。


 アンナさんは一通り話を終えたため本格的に儀式にはいる。


「準備は大丈夫ですか?」

「は、はい……一応……」


 ぎこちなく答える僕を見てアンナさんはクスッと笑いながら頷いた。


「では、始めますね」


 彼女が目を閉じ、何かを小さな声で呟き始める。


 その瞬間——


 漆黒の霧が僕の体を包んだ。


 体感したことの無い、奇妙な感覚に襲われた。


それから5分ほどすると、アンナさんが声をかけてきた。


「手を出してください」


 言われるがままに手を差し出すと、アンナさんは細い針で僕の指を刺した。


 小さな痛みとともに赤い雫が指先からこぼれ落ちる。


 それを儀式用の契約書へ垂らし、アンナさんが再び呪文を唱えた。


 すると、闇がゆっくりと霧散していく。


「……終わりましたよ」

「え、もうですか?」


 驚く僕にアンナさんはクスッと笑う。


「みんなそう言うんですよ」


 そう言って彼女は契約書を持ち上げた。しかし、そこにはまだ血痕しか残っていない。


「最後に君がこの契約書を持って『契約は交わされた』と唱えれば、契約した悪魔の情報が現れます!」


 ゴクリ、と唾を飲み込む。


 契約書を受け取り、言われた通りに言葉を紡ぐ。


「契約は交わされた」


 すると契約書が淡く光り、血痕が消えて文字が浮かび上がった。


「これでカインくんが契約した悪魔の情報が見れます!」


 しかし、契約書を覗き込んだ僕は困惑した。


「えっと...これ何て書いてあるんですか?」


 契約書には見たことのない奇妙な文字が並んでいた。


「それは悪魔文字と言ってシスターや悪魔を研究している人しか読めないんですよ!」


 そう言いながらアンナさんが契約書を手に取り内容を確認し始める。


 彼女の顔色がどんどん青ざめていく。


「アンナさん? どうしました?」


 動揺する僕にアンナさんは震える声で言った。


「カ、カインくん……落ち着いて聞いてくださいね……」


 僕は不安になりながらも頷く。


 そして告げられた、契約した悪魔の正体。


 種族:上位悪魔

 真名(まな):ダンタリオン

 象徴(シンボル)変化(メタモルフ)

 共鳴率:0%


 ——次の瞬間、僕の意識は暗転した。


「カインくん!?」


 アンナさんの声が遠のいていく中、僕は驚愕のあまりその場で意識を失ってしまったのだった。


少しずつですが、多くの方々にお読みいただけるようになり大変嬉しい限りです。今更かよという話ではありますが、初めての作品であり拙いところもありますゆえご容赦願いたいです。リアクションやポイントは大変励みになりますのでお暇がある際にでもしていただければ幸いです。

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