双子
「やっぱり元々の魔力が違うのかも」
「うーん。温度以外のなにかの感覚が違う可能性もあるよなぁ」
住宅街を抜けて川沿いを歩きながら、喧々諤々と踊る水球の謎に挑む僕たち。
そんな僕らに、走ってくる足音があった。
「やっほーー!お二人さぁん!」
少し前の石橋から、短い白髪を振り乱しながら一人の少女が向かってきていた。
黒いTシャツにベージュの長ズボン。高い声が聞こえなければ、この距離だと男にしか見えない。
彼女は目の前まで来ると、ヘルの手を取って喋り始めた。
「えーー!!そのワンピめっちゃかわいいじゃん!!新しく買ってもらったの?」
「うん。いいでしょ。ミルクもおしゃれ」
踊る水球はどこかへ行き、隣で女子がキャッキャし始めた。
朝から元気な奴だと呆れていると、急にこっちを振り向いてくる。そして、後ろからヘルの両肩を持ってこちらに向ける。
「タクマさぁー、女の子がこんなかわいい服着てるのに感想の一つも言わないってマジィ?ちゃんと褒めてあげないと!ほらっ!」
なんかめんどくさい絡まれ方をされた。
というか、女の子の服なんて褒められるか。朝玄関で「おや、ヘル。今日の君の服、まるで夏の太陽に溶かされる一輪の雪の華みたいだ」なんて言ったらあまりの寒さに冬が訪れるわ。
いやまあ今日の白いワンピースはめっちゃくちゃ似合ってるなとは思いましたけど。
なんか色んなハードルの高い難題を提示された僕は、少し悩んだあと親指を上げて言った。
「汚れ耐性ゼロ!」
スパァンといい音が僕の頭で鳴った。
褒めてすらねぇよと蔑んだ目で見ながらミルクがヘルを連れて去っていく。
そして、その二人とすれ違いながら「ミルクぅ!お前の汚れ耐性は目を見張るものがあるぞぉ!」と親指を立て、バカがもうひとりと言われている奴が、こっちに向かってくる。赤い髪に青い目、悪ガキ感の漂うコイツは。
「よーカツパン」
「おう」
ミルクの双子の兄、カツパンだ。
歩く僕の横に並ぶと、こいつは早々に口を開いた。
「なぁ、今日お前ら遅かったけどどうしたんだ」
僕は今朝の出来事を思い出す。
・・・そういえば僕の味わった苦しみをまだ誰にも味わわせてないな。
橋に着いた僕は、橋の端を指さして言った。
「ちょっとここで寝転んでみて」
「ん?なんだ」
疑問形を発しながらもカツパンが地面に横たわる。なぜかまだ言ってもないのに目もつぶっている。コイツ警戒心どこにやったんだ?
僕は、横たわる素直なガキの胸にどかっと尻をつけた。ガキはぐっと呻き、何で座るんだと目を開けようとする。
その顔面に僕は、水球を落とした。
ゲボッという音が聞こえ、すぐさま尻に上向きの力がかかる。だが、それは僕の体重の前に相殺された。ああ、これは最後のチャンスだったというのに。
僕は、朝上に乗るナイラが笑っていたのを思い出す。成程、これはたしかに滑稽だ。しかも、目に入ってるから僕より酷い。じたばたと足掻く哀れな人間の様子に、微笑みが零れる。
そんな僕の体が、急にはね飛んだ。
「なに・・・!?」
石橋にずさーっと着地した僕は、驚愕の表情でゲホゲホと咽び泣くカツパンを見る。
ナイラですら持ち上げられなかったんだぞ。こいつ一体、どんな腹筋してやがる・・・!
ナイラが重い説が頭によぎる僕に、涙目のカツパンが振り返った。
「なにしやがるてめぇぇ!」
「え?いや朝受けた地獄をお前に手っ取り早く説明してやろうと」
「口で言え口で。原始人だってもっとうまく説明するぞ」
伝え方を間違えたようだ。
「ごめんごめん。けどあまりにお前の警戒心がないからさぁ」
「普通水ぶっかけられるとは思わねぇんだよ。はぁ、仕方ねぇな」
すぐに謝ると、あっさり許してくれた。あれ?とも思ったが、まあ僕も謝ってすらないナイラを見逃してやったわけだしな。
一件落着し、カツパンは話を変える。
「そういえばタクマ、喉乾いてないか?」
「まあ、ちょっとは・・・」
カツパンは、ニコニコと右手に水球をつくった。
「そいつはよかった。たっぷり飲ませてやるから、口を開けてくれ」
・・・ぜんっぜん許してなかった。
まあ僕も朝見逃してやっただけで明日の朝を楽しみにしてたからな。これが復讐の連鎖ってやつか。
「・・・なんだ?その水は」
「いやあ、そういうお前ものどが渇いてるんじゃないかと思って」
僕の左手にも水球が浮かんでいた。
僕らはにやりと笑う。やろうってのか。
僕らは、有り余る相手の喉への思いやりを持って、走り出した。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
近付く僕ら。手には光る水球。
「「魔水丸!!!!」」
僕らはそれを思いっきりぶつけた。
・・・・・・なにかすごい胸騒ぎがした。