家で床オナしてたら学園一の美少女と付き合うことになっていた件
「いいわ、私で良ければ付き合いましょう」
顔を上げた時、そこには学園一の美少女と呼ばれている同級生の城ヶ崎凜音が立っていて俺を見下ろしていた。
一体全体何が起こっているのだろう。
「……んぇ? あぇ? ……え、ここどこ?」
訳もわからずキョロキョロしている俺に、城ヶ崎さんは少し赤みのさした顔で手を差し出す。
「さぁ立って、いつまでもそうしていると服が汚れてしまうわ」
「え? う、うん」
白く美しい城ヶ崎さんの手をとり立ち上がるが、相変わらず自分の置かれている状況が理解出来ない。
とりあえず城ヶ崎さんに今何が起きているのか聞いてみよう。
「……あの、城ヶ崎さん、これって」
「ん? 付き合うんでしょ? 私達」
……んん?
ちょっと意味が分からない。
俺は今さっきまで家で床オナをしていたはずだ。
それなのに何故顔を上げたら俺は学校の屋上にいて、そして何故学園一の美少女と一緒にいる?
しかも付き合うだって?
突いてはいたが、付き合ってはいないだろう。
……駄目だ、絶頂直後の余韻で頭が上手く働かない。
「夕顔くん?」
城ヶ崎さんが不思議な顔でこちらを見ている。
とりあえず愛想笑いで誤魔化すしかないか。
「あは、あはは。そ、そうだったー。俺たち付き合うんだったわー」
「うふふ、おかしな夕顔くん」
口に手をあてて笑う美少女を見ながら、俺はようやく余韻が引いてきた頭で自分の先ほどまでの自分の行動を振り返る___。
◆◇◆◇◆◇
___まず自己紹介をしよう。
俺の名前は夕顔 梨郎。
どこにでもいる平凡な高校生だ。
俺はモテない。
非常にモテない。
それゆえ趣味が当然のように自慰である。
そして、自慰の中でも俺は断然床オナ派だ。
みんなご存知、床に自分の局部を押し付けるアレである。
『オナキンTV~♪ ドゥームズデ~イ♪ どうも、オナキンです。え~今日は終末世界から私のモーニングルーティンをお送りいたします___。』
放課後、俺は教室で動画を見ているクラスメート達を無視し家路を急ぐ。
そして帰宅すると当たり前のように自室で床オナを始めた。
ちなみに俺の自慰は特殊で、着衣はそのままでスマホ等の記録媒体を一切使用しない。
想像。
それのみを頼りに自らを高めていく。
そして今日のオカズは同級生の城ヶ崎 凜音さんだ。
帰り道、イケメンと一緒に屋上に上がっていくのが見えたからである。
あれは美男美女同士、屋上で1発ぶちかます気だ。
間違いない。
俺の精密度、いや性密度0%の童貞センサーがそう言っている。
だが彼女は学園一の美少女と言われるほどの美貌の持ち主で、オカズとしては文句のつけようがない。
もはやオカズではなく主食まである。
ちなみに朝はパン派だ。
「うわぁああああああっ!!!城ヶ崎さん、好きだぁああああああ!!!」
想像の中で城ヶ崎さんの顔を思い浮かべ、全力の愛を叫びながら床に向けて腰を振る。
俺の床オナは常に全力だ。
中途半端な自慰はオカズにされる人に対して大変失礼だからである。
近隣住民から苦情が入ったり、警察が何度か自宅に来た事もあるがそんな事は気にしていられない。
何人も、決して俺の全力の床オナを妨げることは出来ないのだ。
想像の中で城ヶ崎さんがイケメンとくんずほぐれつしている。
ふざけるな、今は俺の頭の中だ。
頭の中のイケメンを引き剥がすとぶん殴り、ドロップキックした後にジャーマンスープレックスでコンクリートの1部に変えてやる。
「はぁあああああん!!! 城ヶ崎さぁあああああん!!!」
あられもない姿でM字開脚をする城ヶ崎さん。
胸の谷間を強調しながらこちらに笑いかける城ヶ崎さん。
思いつく限りの煩悩を想像の中の城ヶ崎さんにぶつけていく。
なんて、なんてエロいんだ。
「ふぉおおおおおおっ!!!! 城ヶ崎さぁあああん!!! 世界でいちばん君を愛してるぅうううううううう!!!!」
集中力が極限まで達し、脳内の快楽物質が大量に分泌され、周りの景色や音が消え失せる。
自分と床だけの真っ暗な空間。
俺はこれを『透き通る性界』と呼んでいるが、この世界ではどう腰を床に押し付ければ気持ちいいかが頭ではなく、"心"で理解出来るようになる。
「がぁああああああああ!!!! 君を幸せにするからぁああああああ!!!」
パパパパパパパパパパパパパパパンッ!
もはや俺の腰は亜音速を越え、ムチを連続で振ったような特有の音が鳴っている。
衝撃波、俗にいうソニックブームが俺の腰を中心に巻き起こっていく。
吹き飛びそうになる身体を地面に指をめり込ませる事でなんとか耐える。
「ぐぅっ!?」
もう限界が近い、胸のカラータイマーが点滅し始めてきた。
そろそろフィニッシュのスペルマニウム光線を床に決めねばなるまい。
「俺とおおおおぉぉぉっっっ!!! 付き合ってくださィグゥゥゥッッッぅああああああああああああああ!!!!!!! 」
絶頂と同時、シャチホコもびっくりの海老反りをキメながら果てた。
身体中を電流のように快感が突き抜け、情報を処理しきれない脳みそが頭の中でコサックダンスを始める。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
もう何も考えられない。
そんな時だった。
「いいわ、私でよければ付き合いましょう」
そう、真上から声が聞こえてきたのは。
◇◆◇◆◇◆
そして現在。
目の前で顔を赤くしている城ヶ崎さんを見ながら俺は指をパチンと鳴らし、ようやく答えにたどりついた。
「どゆこと?」
◇◆◇◆◇
学園一の美少女である城ヶ崎 凜音はモテる。
故に告白してくる人間が後を絶たない。
だから、イケメンに呼び出された時もこれから自分が告白されるのだと理解していた。
しかし彼女は知らなかった。
そのイケメンが他の男子生徒も呼び出し、屋上でよからぬ事をしようとしている事を。
◆◇◆◇◆◇
城ヶ崎は男の手を振り払う。
「離して! 触らないで! 誰か助けて!」
「へっ、放課後の屋上なんて誰もこねぇよ!」
「俺たちと一緒に気持ちよくなろうぜ~?」
「イ、イヤッ!」
「ちいかわみてぇな泣き声だぁ」
そして男達に組み伏せられ、もう絶体絶命の危機というその時。
パパパパパパパパパパパンッ!!!
突如、屋上に連続した破裂音のようなものが響き渡った。
「な、なんだこの音!?」
「爆竹!?」
「おいあそこ見ろ!」
困惑してあたりを見回していた中の1人が屋上の入口を指さした。
そこには、地面にうつ伏せになるようにして倒れている男がいた。
パパパパパパパパパンッ!!
奇怪な音は明らかにその男から放たれている。
異常な光景だった。
「な、なんだこいつ!?」
「見られたからには仕方ねぇやっちまえ!」
男子生徒達は総掛かりでその倒れている男に襲いかかるも、男は一瞬で男子生徒達の足元に移動し、つまづかせ、そのまま上にのしかかる。
「こ、こいつ! 上で腰振ってやがっ……ぐわあああああ!!」
男の目にも止まらぬ腰振りは容易く男子生徒達の体を蹂躙していく。
パパパパパパパパパパパンッ!!
「……な、何が起こっているの?」
全身が粉砕骨折し意識を失った男子生徒達を見ながら、城ヶ崎は今の状況に困惑していた。
自分を助けてくれた男は相変わらず奇怪な音を鳴らしながらその場でモゾモゾとしている。
「あ、あの……助けてくれて」
とりあえずお礼をしよう。
そしてすぐにでもこの場から離れよう。
そう思った城ヶ崎が口を開いた時だ。
「うわぁああああああっ!!!城ヶ崎さん、好きだぁああああああ!!!」
「!??!?」
……今、この男はなんて言ったのか。
この状況で、自分に告白をしたのだろうか。
「え、いやちょっと意味が……」
「はぁあああああん!!! 城ヶ崎さぁあああああん!!!」
男が城ヶ崎の言葉を遮り、さらに続ける。
「ふぉおおおおおおっ!!!! 城ヶ崎さぁあああん!!! 世界でいちばん君を愛してるぅうううううううう!!!!」
「…………」
……ど、どういうことなの?
……あれ? でもちょっと待って……?
……もしかして、これって
城ヶ崎は未曾有のシチュエーションに困惑しながら、ふとある事に気がつく。
城ヶ崎は男の体勢に注目した。
地面に並行になるようにして、ピンと伸ばした背筋にピンと伸ばした足。
……これって土下寝じゃない!???
そう、土下寝である。
男は城ヶ崎の危機を助けたばかりか、告白するために土下寝までしているのである。
城ヶ崎の心臓が僅かに鼓動を早めた。
「……今まで私に告白してきた人達でも流石に土下寝まではしなかった……。それは恥もプライドもなにもかも捨てる行為だから……でもあなたは! 私のためにそれを全部捨てられるというの……!?」
城ヶ崎がそう問うと男が激しく痙攣している。
うなづいているのだろう。
どんどん心臓の音が早まっていく。
「……でも! でも急にそんな事言われても!」
「がぁああああああああ!!!! 君を幸せにするからぁああああああ!!!」
「!?!?!?」
有無を言わせぬ絶叫。
キュンキュンキュ~ン!!!
城ヶ崎の胸が高鳴る。
なんだこの熱量は。
今までこんなに全力の、そして純粋な気持ちをぶつけられた事はなかった。
……これが……"本当の愛"なの?
何だか顔が熱い。
思えば、先ほどから聞こえてくるこの奇妙な破裂音も動物や虫が異性に対して出す求愛的な何かなのかもしれない。
「……いや、でも顔も知らない人間と付き合うわけには」
「俺とおおおおぉぉぉっっっ!!! 付き合ってくださィグゥゥゥッッッぅああああああああああああああ!!!!!!! 」
瞬間男の頭と足が跳ね上がり、その勢いのまま身体が曲線を描く。
重力や物理法則を無視した姿。
見事なシャチホコがそこにはあった。
「……なんて、なんて美しいシャチホコなの……こんなものを見せられて断れる訳がないじゃない……」
無理な体勢をしばらくし続けたせいか、ぐったりしている男に城ヶ崎は声をかけることにした。
もちろん、告白への返事である。
「いいわ、私で良ければ付き合いましょう」
そして今更になって気がつく。
……よく見たら同級生の夕顔くんじゃない
城ヶ崎はドキドキする胸を抑えながらこれから彼氏になるであろう少年に手を差し出すのだった。