足り得る
ブラウザの拡張機能を入れてから、誤字報告の頻度は凄く上がったんですけれど、その内訳はすでにここで述べたものの割合がとても高いんですよね。
それでも、新しいものに出会う事もありまして。ちゃんと調べると割と複雑だったなと。
例として「騎士団長足り得る人物」という表現があったとしまして。なんか違和感ありましたが、はたして誤りと言い切れるのか、というと少し難しかったりします。
結論としては誤用なんですが、「足り得る」は表現としては存在しえます。例えば「食料の備蓄は籠城するに足り得る量だ」みたいな場合ですね。得るを「うる」と読むか、「える」と読むか。個人的には前者なんですが、まあいずれにしろ多少文語的表現ではあります。
意味的には、「十分だ」という感じでしょうか。それよりは少し弱いかな。本当に十分なら「籠城するのに足る量だ」で済むわけですから。「十分そうだ」という感じでしょうか。
では、騎士団長の例の場合も、騎士団長の資格のある人物、と言う意味で使えるかどうかなのですが。騎士団長に十分、という事で使えそうな気もします。ただ、騎士団長という体言の後に助詞が入らずに繋がっているところが問題なんですよね。
古語の「たり」は色々な意味がありますが、一般的なのは完了助動詞の「たり」。また、それとは別に断定の助動詞「たり」も存在します。もちろん、「足り」という動詞も存在します。完了助動詞のたりは通常動詞に付きますが、断定助動詞のたりは体言に直接付くということです。
成り立ちから見てみると、これは格助詞「と」に動詞「あり」が付いた「とあり」が変化したもの、ということのようです。先頭が格助詞なので名詞に直接付くのは当然と言えましょう。これを他の言葉で言い換えるなら「だ」または「である」というところでしょうか。「王たる余が命ずる」なんかが典型的な用法でしょうね。それに「得る」がついたことで、「そうなる可能性のある」という意味になると言う訳です。
ですので、「騎士団長たりうる」は「足り得る」と記述するのは誤りで、「たり得る」と書かないといけないという事です。ただ、例えば「騎士団長は無理だが、副騎士団長にたりうる能力はある」と言ったような場合、今度は「足り得る」になるわけです。
名詞に直接付加され、「そうなる可能性のある」と言い換えられる場合は「たり得る」。十分なという意味であれば「足り得る」。なるべくちゃんと使い分けたいものです。