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失業してもボチボチ元気
その1
四月初旬、春の遅いこの地域にも
ようやく暖かさが季節の変わり目を告げた。
煙草をやめて暫く立ち、雪から顔を出した土の匂い、
車行き交う道路の匂いなどが
感覚の戻った鼻を…心を楽しませる。
そんな事で楽しいなんて感じるのは
何時ぶりだろうか。
「さあ、妖精の薬酒よ!のみなさい!!」
目の前に市販の薬用酒を入れた軽量カップを
両手で抱えて浮遊する、
昆虫のような二対の羽根をそなえた
とてもとても小さな少女が、
そんな感傷をぶち壊す。
「うん、ありがとう」
手渡された薬用酒を飲み干して溜息ひとつ。
空いたカップをひったくる様に回収した、
ちいさなちいさな少女は
洗い場へ向かい飛び去った。
その姿を横目で見ながら、さらに溜息ひとつ。
自分の心の安らぎは、まだ遠いのだろうか…。






