不義の子の父親
藤壺の女御の不倫相手。
不義の子供の実父。
主要人物で父親役になれそうな男が思い浮かばない。
誰だろう?
清涼殿に入ると当事者たちが雁首揃えていた。
桐壺帝、三人の大臣(左大臣・右大臣・内大臣)、兵部卿の宮、藤壺の女御。
あれ?
このメンバーがいて何で僕が呼ばれたんだ?
弘徽殿の女御も兄上もいない。
もしかして、馬鹿宮が僕に冤罪をかけているから?
「このたびの騒動は全て私の不徳の致すところでございます」
パパ上に土下座している男が新犯人。
雲林院の律師……誰それ?
そんな人、原作にいたっけ?
顔を上げた律師は物凄い美僧だった。
……え!?
なんで出家したの?
顔だけで人生勝ち組だよ!
本当、顔だけで食っていけそうな位の美貌だった。
きめ細やかな白い肌、潤んだ目、清廉な美貌、禁欲的でありながら艶めかしい雰囲気。
ごくり。
誰とも知らずに喉が鳴る。
周りを見渡すと、藤壺の女御は惚けているし、桐壺帝と左大臣は美僧から目を離すことが出来ないでいるし、兵部卿の馬鹿宮は獲物を見つけた狩人のような目つきだ。そんな彼らに右大臣はドン引きしているし、太政大臣はチベスナ顔だ。うん。二人の気持ちが手に取りように分かる。右大臣と太政大臣はこの時代には珍しく男をそういう対象にしない人種だ(だから僕と話が合う)。
じゅるり。
不穏な音が聞こえる。
音のする方向を見ると既に野獣化している四人。
あかん。
今にも襲いかかりそうな雰囲気だ。
多分、僕と大臣二人がいなかったら美僧は襲われてるだろう。
それだけ色香がすごいもんね。
「ゴホンゴホン!藤壺の女御と関係を結び子をなしてしまった罪は重いと理解しているのか」
食い入るように美僧を魅入る四人では話にならない、と気付いた右大臣が美僧に話しかける。今にも性犯罪が起こりそうな雰囲気だからそれを打破したかったのが本音だろう。
「はい、理解しております。仏に使える身でありながら女御様に狼藉を働き御子をなした罪は大罪。首を斬られても致し方ない所業でございます」
え……と。なんだかマトモそうな人だ。何で藤壺の女御と関係もったのか分からん。
「律師様……」
藤壺の女御は目を爛々輝かせている。
これはどう見ても「同意あり」だと思う。
「全て、私が己の欲に抗えなかったが故に起こった事でございます。藤壺の女御様に非はございません。また、私のせいで桐壺の更衣様と源氏の大納言様の評判を落としかねない事が気がかりでございます。お二人方は何も知りません。罪は私一人。どうかご了承くださいませ」
「ん? そなたと源氏の君とは何の関係があるんだ?」
「はい。大変心苦しいのですが……私は桐壺の更衣様の兄。源氏の君の伯父にあたる者でございます」
な・ん・で・す・と!?




