閑話 頭の中将side
摂関家に生まれた私は既に人生の成功者として約束されていた。
帝の信頼厚い左大臣を父に持ち、帝の同腹の女三宮を母に持つ私は血筋も当代最高の者の一人であった。
十二歳で元服を果たし、順調に出世し、友と危険な遊びに興じ、夜ごと女達を愛でる。
多少の不満はあれど、概ね満足していた。
そんな私の人生を根本的に変えた出会いがおきた。
それは妹の祝言の時であった。
父と母を同じくする唯一の妹は、その美しさと聡明さでいずれは東宮に入内するといわれた后がねの姫だ。
実際、私も妹は東宮妃になるものとばかり思っていたが、それがまさか臣下に降りた源氏の君と祝言をあげるとは。父も思い切った事をするものだと当時は酷く驚いたものだ。
楊貴妃もかくや、といわれるほどの寵愛を受ける桐壺の更衣を母に持つ、帝の鍾愛の元皇子。今や帝の寵愛は桐壺の更衣親子の上にある。その分、弘徽殿の女御を始めとする数多の妃達を敵にまわしていると聞く。つまり、源氏の君を婿にすることは帝の覚えが目出度くなるのと同時に、弘徽殿の女御と右大臣を完璧に敵にまわすことを意味する。
因みに、私の正妻はその右大臣の娘、四の君だ。
彼女は大変美しい女人ではあるが、非常に気が強く嫉妬深い。私が愛し囲った女人に対しても数々の嫌がらせを繰り返して別れさせる。
まったく、そのようのことをしても私が四の君の元に通う回数が増えるわけではない。逆に行くのが嫌になるのだ。ここ数年通う回数はめっきりと減っている。始めは嫌味を言っていた義父の右大臣も、今では何も言ってこない。己の娘が如何に情の怖い女人か知ったようだ。
そんな私の考えが全くの見当違いであったことを知るのは随分後になってからである。敵にまわしたと思われた右大臣側が源氏の君の真の味方であったのだ。そして、源氏の君を止められるのも彼らだけであることも……。