閑話 左大臣side
「元服後は、源氏の姓を与え臣籍に降ろすことが決まった。左大臣、息子を頼む」
「はい。ご安心ください。」
目に前に座っているのは主上の御鍾愛の二の宮様である源氏の君。
元服を機に臣籍に降りる事になった悲劇の皇子。
正三位、源光。
私は、若々しい美貌と少年特有の美しさを持つ源氏の君に魅入ってしまった。
このように美しい者が我が家の婿になると思うと気持ちが高ぶるのを抑えきれない。関白家に生まれ、歳近い今上帝の信任も厚く、同母妹の女三の宮様の降嫁も許された。我が家の繁栄は約束されたも同然。そのうえ今回は、今上帝の最愛の皇子を娘婿に迎える事が出来た。臣籍に降りたとはいえ、二の宮様の価値は一向に衰える事は無い。美貌も教養も才能も、他に類を見ないものだ。
この結婚は右大臣家を牽制するためだろう。
東宮の祖父で、ゆくゆくは天下を治めるであろう右大臣の勢いを押さえたい狙いがある。
なにしろ、後宮は既に弘徽殿の女御様の手に落ちている。内裏の噂では、源氏の君は東宮様や弘徽殿の女御様と打ち解けた仲だと聞く。
右大臣は子沢山だ。娘の一人を源氏の君が娶れば更に力関係が傾く。それを避けるための左大臣家との縁組。
――左大臣邸――
「源氏の君がお越しになられました」
闇夜のなか現れた源氏の君は昼間とは違った美しさが浮き彫りになった。
妖しくも透き通った美しさとでも言うべきか。
主上が源氏の君の美しさに鬼神が魅入り攫っていかないようにと魔除けを行ったのも解るというものだ。
この上もなく美しい源氏の君に、我が娘は不似合いかもしれない。




