添い臥し
源 光。
それが僕の新たな名前だ。
原作の「光の君」と呼ばれていたのって、只単に「名前」だったから?
安直だけど納得した瞬間だった。
元服に伴い僕には「添い臥し」が選ばれた。
「源氏の君、私の正妻は主上の御妹君でいらっしゃいます。源氏の君には実の叔母上にあたりますの御実家同然にお思いください」
本当に、どうしてこうなったんだろう。
「光、左大臣家の姫は当代随一の姫君と名高い。大層美しい姫だ。きっと気に入るぞ」
「とんでもございません。花嫁になる我が娘は源氏の君よりも少し年上でございます。源氏の君の輝くばかりの美しさの前には到底敵いません。隣に並び立つには些か不釣り合いなのではないかと、恥ずかしく思う程です」
「はははははは!謙遜を申すな、左大臣。そなたの娘の評判は宮中にも届いている。弘徽殿の女御も東宮妃にと切望していたと聞いているぞ。光の添い臥しになった事で右大臣はさぞかし悔しがっている事だろう」
上機嫌に笑っているパパ上。前から思っていたけど、パパ上はやっぱり右大臣が嫌いなんだな。その逆に左大臣とは仲が良いみたい。歳が近いからかな?それとも、右大臣と違って優雅で風流人っぽい処が気に入っているのかな?右大臣は見たままの俗っぽい人だから。政治家としてはやり手なんだけど。パパ上とはソリが合わない感じ。
「左大臣は頼りになる。実の父と思い、なにかと相談しなさい」
「主上、それは言い過ぎでございます。しかし、後見人として源氏の君をどこまでもお支えして参りますので御安心ください。我が家には娘の他に息子が一人おります。源氏の君とは少々歳が離れておりますがきっと良き友になれるでしょう」
「左大臣家の長男も実に優れた公達だ。光も直ぐに仲良くなれるだろう。実の兄と思って甘えるといい」
「……はい」
結婚が決まったのは十一歳の時。幼子に婚姻回避はムリだった。
葵の上を僕の妻にしたい桐壺帝と左大臣。
この二人だけなら回避できたんだけどね。僕には、「しっかりした後見人と美しい妻が必要だ」と兄上と弘徽殿の女御がむっちゃ葵の上を押すんだもの。拒否権がなかった。
僕としては四の君と結婚したかったんだけど右大臣からも反対された。
右大臣曰く、「四の君は光の君とは六歳も年上で、既婚者。離縁するにしても、相手は左大臣家の嫡男。右大臣家と左大臣家の懸け橋となるための政略結婚なので離縁は無理です」とけんもほろろに断られた。四の君も今の処は頭の中将と別れるつもりは無いようだから、僕もしぶしぶ諦めるしかなかった。
いっておくけど、僕はパパ上と違って右大臣と仲良し。
右大臣は野心家で合理的で豪快な人物だ。気が短くて強引な処もあるけど、ざばざばした性格なので根に持つことも無い。優雅さを良しとする風潮の世で、右大臣のような人は嫌われやすく生きにくいけど本人は全く気にしていなかった。大雑把な性格のわりにマメなようで、奥さんたちや子供達とも仲が良い。人は見かけによらないってこの事だ。
元服と同時に結婚。
僕は、十二歳で結婚する。
結婚相手の葵の上は、四歳年上の十六歳だ。
花の十六歳の夫が十二歳の子供って……気の毒。




